3日目 1:00

ピーチが何かに追われるように慌てて茂みから飛び出してくる。長いドレスの裾が小枝に引っ掛かり、彼女は情けなく顔から転んだ。ドレスはあちこちが裂けて、彼女の白い足まで露わになっている。しかし、それも気にしない様子で、かつこの大きな体のこちらにも気付く気配もなく、這うようにして逃げ出そうとする彼女を、クッパは制した。

「どうした、ピーチ姫。ワガハイがいるぞ」
「クッパ!ああ…」

ピーチは泣きそうな顔をして縋り付いてくる。髪は乱れ、服には血が滲んでいる。転んで付いたものではない。刃物で切り付けられたような跡だった。

「何があった。どうして、こんな」
「わ、分からない、分からないわ」

震える声で彼女が言う。大きな瞳には涙が溢れ、キュートな笑顔は全く見る影もない。お前がいないからだぞ、とクッパは心中でライバルを罵る。本当なら、こうして彼女の方を抱いて宥めてやるのは彼の仕事なのに。
とりあえず、彼女が落ち着くまでこうしていようと思った刹那、再び茂みがガサガサと揺れて、こちらは一切の乱れのない服装のマルスがひょいと顔を出した。そうして、気の抜けた声で言う。

「やぁ」

その声を聞くや否や、ピーチは声にならない悲鳴を上げて後ずさった。クッパに腕にしがみ付き、ガチガチと歯を鳴らして震えあがる。仲間に対する反応として尋常ならざるその様子と、マルスの手に鈍く光るサバイバルナイフを認め、クッパは自分が置かれた状況を理解した。

「ピーチ姫を泣かせたのは貴様か」
「そうなるかな」

悪びれる様子のないマルスの返答に、クッパは唸る。

「気でも触れたか…!仲間を殺すのか!」

吠えるクッパとは裏腹に、マルスは意外そうに目を丸くした。

「まさか魔王に仲間を語られるとは。…なら、仲間として、一つ忠告してあげよう。長い付き合いだからって、無条件に彼女を信用するのはあまりに不用心なんじゃないかな?」

マルスの薄い唇が意地悪く歪む。
今、ここは殺し合いの場だ。生きて帰れるのは一人だけ。死にたくなければ仲間を殺して生き延びるしかない。なら、腕の中の彼女も――?

「その手には乗らない」

一層強く彼女を抱き締め、威嚇するように己の爪をマルスに見せてクッパは牙を剥いた。

「ピーチ姫はそんなことはしない。ワガハイが誰より知っている」
「…ふぅん」

マルスはつまらなさそうに眉を顰めた。刹那、彼は低い体勢で走り出し、こちらに斬りかかってくる。

「少しは隙ができると思ったんだけどな」

鋭い一撃が的確に喉元を狙って繰り出される。ピーチを横に突き飛ばし、その凶刃を己の牙で抑え込む。呆然とする彼女に逃げろと目配せしようとしたが、殺人鬼の前ではそんな余裕もない。くわえたナイフを軸にして、飛び上がったマルスの膝蹴りがクッパの牙を折る。しかしその衝撃でクッパもまたナイフを噛み砕き、マルスの手元には柄だけが残る。
お互いに素手!素手ならば十分に勝機がある!そう確信したそのとき、マルスは腰のベルトに差し込んでいた鋼鉄の武器を引き抜いて構えた。
銃。こちらの世界ではポピュラーな、しかし故郷ではほとんど見る機会のない異国の武器。
至近距離で銃口を向けられ、どうして、だとかピーチ姫はどうなるのだろう、といったことが一瞬クッパの脳裏をよぎり、その答えが得られるより先にマルスは引き金を引いていた。

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