日記60※日記59の続き

マルスは、夜が明けて日が昇り、それが天辺を過ぎて沈んでいこうとする時間になっても戻ってこなかった。時間が経って冷静になったこともあるが、さすがに日が暮れる頃になると心配になり、探しに行こうかどうか悩んでいたところに、機嫌の悪い来訪者があった。ロイである。
激しいノックの後に、出て来いと怒鳴る若き獅子の声が響く。何事だと扉を開けて顔を出すと、間髪入れずに重い拳が飛んできて、俺は直撃を食らって仰向けにひっくり返った。鼻血が出たらしい。耳まで伝う液体の感触が非常に不快だった。
ロイはそんな俺を見下ろし、肩を怒らせて凄んだ。

「てめーは…やっていいことと悪いことの区別もつかねぇのか!?」
「…何の話だ」
「マルスのことだ!」

ロイは大股で俺に歩み寄り、力任せに胸倉を掴んだ。一瞬、何のことか訳が分からず、次いで嗚呼あの王子は帰ってきたのだな、と場違いに安堵した。が、眼前の公子のあまりの剣幕に返す言葉を失う。怒り心頭といった様子でロイは続けた。

「見損なったぞ!仕返しにしても酷すぎる」
「酷い?」

よもやマルスが屈辱の仕打ちを他言しようとは思ってもみなかったが、別段皆に知られたからと言って俺にとって大した問題であるとは思わなかった。寧ろ何故俺がそこまで責められねばならない、と少々頭に来た。俺が為したことが酷いというなら、王子が俺にしてきた仕打ちは何だというのだ。

「自業自得だろうが。それともお前は、あれを許せというのか」
「…ッの野郎!!」

再び拳が飛んでくる。今度は掌で受け止めたが、痺れるほどにロイの拳は重かった。

「何処まで馬鹿なんだ?!お前は!」
「何が言いたいんだ?」
「あんな状態で置き去りにして、一人で帰ってこれる訳ないだろ!俺が見つけてなきゃ、死んでたぞ!」

大袈裟な、と俺は顔を顰める。が、次なるロイの言葉に俺は考えを改めるのだった。

「あんな強姦の後だ、後始末もしないでほっといたら体調崩すことくらい想像出来ないのか?熱と脱水状態で動けずに、昨日の夜中からあの場所に…」

ロイの声は消失していき、しまいに俺から手を離す。俺が言葉を失って呆然としていると、赤毛の公子は群青の瞳を怒らせてこちらを見下ろした。

「金輪際、マルスに近付くな。…俺がお前を殺すぞ」

噴き出す殺気はさながら竜鱗族のそれで、我知らず背中を冷や汗が伝う。ロイはそのまま背を向け、靴音を響かせながら去っていった。

***
たぶん続く

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