共食い狂想曲

*13

存外易々と屋敷に進入した一行は、恐る恐る埃だらけの廊下を進んだ。が、想定していたような侵入者に対する攻撃はなく、それがかえって不安感を煽った。

「気分が悪い」

唐突にマルスが顔をしかめて呟いた。普段弱音など吐かない王子がいうその言葉は真実のようで、実際彼の顔色は優れない。ネスは「情けないなぁ」と辛辣なコメントを寄越したが、ポポやナナたちは心配そうに王子を見上げた。

「仕方ないよ、ネスたちと違って、王子は幽霊屋敷に免疫がないから」

それを平然と捉え、解説を加えるのは子リン。彼は何処からともなく瓶詰めの青いクスリを取り出し、マルスに手渡した。マルスは不審そうにビンの中身を見つめる。

「…これは何だい?ジャングルに密生する明るすぎる毒花のように鮮やかな青色の液体が入っているが」

「クスリ。楽になるから」

飲め、と子リンが促す。毒々しいほどに鮮やかな青いクスリを飲めなどと言われれば、普通はイヂメだと思うだろう。マルスも一瞬“楽になる”の意味を履き違えたようだが、しかし他に頼るあてもないので大人しくその液体を飲み下す。一滴残らず喉の奥に流し込み、ふぅと息を吐いてから空のビンを見つめた。

「ふむ…確かに楽になった」

「青いクスリは高いんだ。それなりの働きを期待してるよ…王子」

言いながら子リンはすらりと背に負った剣を抜く。きっと視界を巡らせ、前方の壁をじっと見やる――と、みるみる間にその壁からぼんやりとした人影が多数浮き上がった。平面だったそれは、徐々に形をなし、壁から剥がれてゆき、しまいに廊下一杯にその全容を現す。ぼんやりと鈍い光を放ついかにもな幽霊が10体ほど、ネスたちの行く手に立ち塞がったのだった。

「僕が本気を出せばお釣りが来るぞ」

突然の敵の登場にもまるで取り乱さず、悠々と答えるマルス。その横で各々の武器を取る子供たちにも動揺の色はない。マルスは空きビンを懐にしまうと、腰に差した神剣を抜き放った。

「さて、始めようか。逃げる相手は放っておけよ、深追いは厳禁だ」

『分かった』

「誰が貴様ら如きに逃げ出すかぁ!!」

マルス、ピカチュウの会話を待ってから、男たちはぶわっと宙を舞って一行に突撃してきた。昨日の彼らであれば、恐れ慄き勝負にならなかったかもしれない。が、昨日の経験から幽霊にも通常の攻撃が効くことは実証されている。誰もが慌てず騒がず、ハンマーを振り、バットで殴り、電撃を放ち、吸い込み、剣で斬り付けた。勿論その強さは言うまでもなく、10体ほどの幽霊は瞬く間に殲滅されてゆく。

「な、何なのコイツら!めちゃくちゃ強…っ!!」

「今さら気付いたかい?」

悲鳴を上げる幽霊の一人をマルスがばっさりと叩き斬る。その時相手の幽霊たちは混乱の絶頂にあった。保護者的存在のマルスが異常な強さを見せるのは分かる。しかしいたいけな子供たちまでハンマー、バットを振り回すとは何事か。無害そうなピンク球や愛くるしい電気鼠ですら、その外見ののどやかさと戦闘スタイルはまるで一致せず、鬼神の如く手当たり次第に幽霊を倒していた。
しかしここは幽霊たちのホームグラウンド。いくら倒されても、一声呼べばどれだけでも仲間を集めることが出来るのだ。生憎と個々では敵わぬ相手でも、数で押し切る戦法に出たのである。また、幽霊たる彼らには肉体的疲労がないことも手伝って、徐々に増える敵に一行は二つに分断され始め、ついには追い詰められようとしていた。
特にネス、ピカチュウ、カービィの三人は廊下の角に追い込まれていた。

「勇者君!」

鋭いマルスの声が飛ぶ。同時に王子は眼前に迫る幽霊の頭を二体まとめて吹き飛ばした。一方子リンはマルスの言葉に答えは返さず、しかしその意図は汲んだようで、素早く周囲の敵を薙ぎ払うとネスたちの元へ向かった。
丁度その時新たな幽霊の一波が押し寄せ、マルス、ポポ、ナナは子リンたちの姿を一切確認出来なくなった。

「ポポ!ナナ!」

短くマルスが二人を呼ぶ。見つめた先のポポとナナがいる廊下は、ぼんやりと光る幽霊が集まり、不気味に照り輝いていた。

「一旦引くぞ!」

「え!?でもネスたちが…」

重量感たっぷりのハンマーを軽々と振り回し、辺りの敵を一掃するポポが僅かに反論する。しかしあまりの敵の多さに考え直したのか、渋々といった様子で頷いた。直後、ナナが床ごと幽霊を叩き潰す嫌な音が響いた。
不服そうなポポに苦笑して、マルスは柔らかく続ける。

「大丈夫だ、向こうには勇者君もカービィもいる。僕なんかよりよっぽど頼りになるよ、彼らは」

普段は自分が全宇宙の中で一番だと豪語してやまない彼が、そのような発言を取るなど珍しい。もしかしてマルスですらそんなことを言う余裕がないほど、この状況は切羽詰まっているのだろうかとポポが不安そうにするが、しかしマルスは途端に普段の余裕めいた笑みでこう続けた。

「――勿論本気の僕に敵う者などいないがね!」

「あ…やっぱりそうなるんだ」

ナナの冷めたツッコミを物ともせず、マルスはさぁ行くぞとばかりに大きく剣を払う。瞬間その場に退路を見い出し、ポポとナナに先を走らせ、自身は追ってくる敵を斬って捨てて退路を守った。勿論行く手を阻む輩は仲良し二人組の殺人ハンマーによって塵と化している。
こうしてマルスたち三人はネスたちを残し、何とかその廊下を突っ切って新たな広間へと駆け込んだのだった。

[ 13/36 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -