共食い狂想曲

*6

「あ」

唐突にマーティンが声を上げる。一瞬どきりとしたネスたちは、妙にどきまぎしながら彼の表情を窺った。

「ど、どうしたの?マーティン」

「君たちに見せたいものがあったんだ」

ネスが尋ねると屈託のない笑顔でマーティンが答えた。その笑顔に僅かながら子供たちは警戒心を忘れる。

「なになに?教えてよ」

興味津々といった風にナナはテーブルから身を乗り出した。マーティンは立ち上がって「見てからのお楽しみさ」と答え、一人リビングから出て行く。その背中をネスとポポは不安げに見送っていた。

「…やっぱり、マーティン君には悪いけど、次にマーティン君が戻って来たら帰らせてもらおう」

ドアがきちんと閉まり、彼の足音が聞こえなくなるのを待ってポポが囁く。カービィだけは、未だに手渡された紅茶を覗き込んでいたが、ナナ、ネス、ピカチュウは深く首肯する。ようやく決心が付き、ネスはとりあえず安堵のうちに渡された紅茶に口を付ける。温かな香りが鼻を刺激した。

「飲んじゃダメ!」

ところが息つく暇も与えずにカービィが叫ぶ。一瞬ネスは「カービィは自分の分の紅茶があるでしょ」と言いたくなったが、あまりにカービィの声が緊急性を帯びていたのでそれも憚られた。

「な…なんで?」

「どうしても!」

言ってカービィはネスの手からティーカップを叩き落とした。静かな室内に陶器の割れる高い音が響き、床に敷かれた赤い絨毯にみるみる内に溢れた紅茶が染み込んでいく。

「ちょっと…何して…!?」

「コレ、人間の食べ物じゃない」

珍しく真剣な面持ちな星の戦士の告げた事実に、子供たちの間に衝撃が走った。続けてカービィが言うことに、同時に出されたクッキーにも何かを感じるらしい。幸い、まだ誰も出された飲食物には手を付けておらず、カービィが言うような大事には至らなかった。

『でもカービィ、人間の食べ物じゃないって一体…?』

「見た目は綺麗だけど…紅茶からも、クッキーからも、ヒトの血の匂いがするもん」

恐るべしピンク球。ピカチュウですら何の疑問も抱かなかったものを、あるのかないのかはっきりしない嗅覚で嗅ぎ取ったのである。

「早くここを出た方がいい…――!?」

そんなことを言われてのうのうとしていられるほど、彼らも無神経ではない。ネスは呼び掛けるように他の子供たちを振り返るが、しかし突如その視界は暗闇に遮られた。再びの停電である。
短いナナの悲鳴を頼りに、子供たちは全員ナナの側に手探りで集まる。皆一様に浅い息をしていた。

「か…雷のせい…だよね」

誰とはなしにポポが尋ねる。子供たちは激しく首肯したが、心の中ではそれ以外の原因を危惧しないではいられなかった。
と、唐突に暗がりの中に明かりがともった。安堵してそちらを見やったのも束の間、再び子供たちはその場に凍りつく。

青白い無数の発光体が、ちらちらと不気味に輝きながら真っ暗な部屋を照らしていた。

「す…素敵なインテリア…」

かすれた声でネスは呟く。勿論そんなものでないことは百も承知。それでも彼らは現実を受け入れることを拒否することにしたのだった。
しかし不気味なインテリアもただ浮いているだけではない。個々の明かりは不規則に動き、混ざり合い、次第に大きさを増してゆく。そうして浮かび上がったのは、青白い人型のシルエット。

ここまで来て、ようやく子供たちは現実逃避を諦めた。

「出たァァァァァッッ!!」

全員で声を揃えて一斉に叫ぶと、子供たちは踵を返して出口へと殺到した。その動きに合わせて人型の発光体もすいと彼らの後を追う。
しかしここでお約束。最初に扉の取っ手を握ったナナが蒼白な顔付きで背後の仲間を振り返った。

「鍵…掛ってる」

『ウソォ!?お約束過ぎて笑えないよ!』

ピカチュウの悲痛な叫び声が皆の心の声を代弁する。そんな思いも虚しく、全員で押せども引けども扉はびくとも動かない。
正体不明の発光体は、もうすぐそこまで迫っている。再びナナの悲鳴が上がって――。

バキィ。

何とも形容しがたい破壊音が響いた。音源を探して扉を見やる。
そこには木枠ごと壁から外れた、扉の取っ手を握るナナの姿があった。扉のあった場所からは、微かにコンクリートの残骸がパラパラと舞い落ちてきている。

「…外れちゃった」

「外しちゃった!?」

しっかりとツッコミを入れてから、廊下へと滑り出る一行。駆け出す前にナナは、外した扉をこれでも食らえとばかりに向かってくる発光体めがけて投げ付ける。光ばかりかと思われたその体は、痛々しい音を立ててナナが投げた扉に激突した。

「ナイス、ナナ」

『幽霊にも物理攻撃は効くんだね』

一仕事終えたナナをポポが労い、その様子を見ていたピカチュウは走り出しながら呟いた。ナナは今まで溜っていた鬱憤を晴らしたようで、爽やかな笑顔をもってして頷いた。

高く積もった埃を蹴り上げ、勘だけを頼りに廊下を爆走する。そんな彼らの目前に突然現れたのは、浮遊する電気スタンド。それ以外にも様々な家具が廊下一杯に並んで彼らの行く手を阻む。しかし既に幾多の経験を乗り越えてきた子供たちは恐怖感覚が麻痺し、ポルターガイストにも動じることなく寧ろ開き直っていた。

「うらうらうらーっ!」

物理攻撃も効くと証明され、途端に勢い付いたネスたちは、怒濤の如く迫り来る家具を自慢の技で蹴散らしてゆく。そうして幾つもの廊下と扉を過ぎること数回、ようやく奇跡的に最初に訪れた広間に辿り着いたのだった。

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