共食い狂想曲

*2

突然ごく近い場所で凄まじい雷の音が響き、ほとんど間を開けずに青白い稲光が窓から屋敷の中を照らした。一瞬だけ全容を現した広間を見た子供たちは、思わず恐怖に立ちすくむ。その視線は一様に玄関の正面に伸びる階段の最上段に釘付けとなっていた。
再び稲光が差し込み、そこに立つものをより鮮明な映像として子供たちの目に焼き付ける。そこには病的に青白い肌をした少年が、無感動に暗い瞳を向けてネスたちを見下ろしていた。
瞬間、彼らの脳裏を真っ先によぎったのは“幽霊”の二文字。
誰もが彼から目をそらせず、声を上げることも出来ずにいた。少年も動かない。永遠にも近い時が流れたかと思われたとき、少年はか細い声で沈黙を破った。

「お客さん?」

怯えたような声音で質問すると同時に、少年は手にした燭台に火をともす。青白い肌が若干赤みをおびて、少年の瞳にも光が宿った。
柔らかな光に包まれ、ようやくネスたちは詰まった息を吐き出した。

「勝手にお邪魔してごめんなさい。私たち、雨宿り出来る場所を探していたの」

申し訳なさそうに、しかし安堵の色濃い表情で答えるナナを、少年は不思議そうに見つめた。それからくしゃりと年相応な笑みを浮かべると、ゆっくりと階段を降り始めた。
静かな室内にパタ、パタ、と少年のスリッパの音のみが響く。激しい雨が窓を打つ音に混じって、時々遠くの方で雷が鳴った。

「だったら、雨が止むまで僕の家でゆっくりしていきなよ」

「そんな…いいの?」

ポポが遠慮がちに問う。少年は彼らの元まで歩み寄り、そのびしょ濡れな姿を確認してくすりと微笑を漏らした。

「パパもママも居ないから平気さ。それに、こんなベタベタでいたら風邪を引いちゃうよ、あそこのシャワーを貸したげる」

そう言って少年は奥の部屋の扉を指差した。そこへ入れということなのだろう。ネスたちは一度不安げにお互いの顔を見合わせた後、嬉しげに顔を綻ばせると口々に少年に礼を言いながらその扉に向かって駆け出した。
ふと最後尾にいたネスが足を止めて少年を振り返る。少年ははた、と首を傾げた。

「どうかした?」

「まだ名前を聞いてなかったよね。僕、ネスっていうんだ。君は?」

少年は驚いたようにまじまじとネスを見つめたが、再びにっこり笑って答えた。

「僕は、マーティン」

「マーティン、よろしくね。…と、シャワー貸してくれてありがと」

屈託なく笑うネスに、少年は小さく手を振って応えた。



ネスがシャワー室に入ると、既にポポとナナはシャワーを浴び終えていた。ちょっと早すぎるんではないか、とネスは思わないでもなかったが、色々と聡い彼はとりあえずスルーしておくことにした。
同様に自らもシャワーを浴びて冷えた体を温める。濡れた衣服はアイスクライマーの二人に人力脱水を頼むことにした。ピカチュウとカービィはシャワーの横にある小さな洗面台で事足りた。
置いてあったタオルを遠慮なく使い、再び服を着直したネスたちは先の部屋に戻ろうと入口の扉に手をかける。しかし不思議なことに、扉はがちゃがちゃというだけで鍵でもかかったように開かなかった。

「おかしいな…」

たてつけが悪いのか、といぶかしく思ってさらに力を込めるも扉はびくともしない。その扉と数分奮闘しているうちに、再び近い場所で雷鳴が響いたかと思うと、今まで暖かな光を提供していた電灯がブツンと切れた。
停電だ、と認識した子供たちは無意識のうちに一ヶ所に固まって息を潜めた。

「う…運悪いな」

思わずネスがぼやく。何人かは無言で首肯したが、次の瞬間聞こえた音に全員が凍りついた。

パチッ、パチッ、パチッ。

何の音、とも形容しがたい効果音が不規則に響く。暗闇の中で音源を探るのは至難の業であるし、そもそも音源は一ヶ所ではないようだった。

『ねぇ』

囁くようにピカチュウが呟く。

『これってまさか、心霊現象として有名なラップ音じゃ…』

「ピカチュウゥゥ!そういうことは思っても言っちゃダメ!」

恐怖に耐えかねたポポが絶叫してピカチュウの呟きを遮る。と、同時に件のラップ音も途絶えてしまった。

「あれ?止まった…」

「何だったのかな、アレ」

「気…気のせいよ、きっと」

ナナの言葉には既に覇気がない。気のせいという台詞にもだいぶ説得力がなかった。
しかし一旦静まった部屋に再び声が響くと、皆一斉に暗闇に目を凝らした。

「…う…っ――うぅ…――っ」

低いすすり泣きが子供たちの耳に届く。勿論子供たちの誰もが泣いてなどいない。それでもポポは無理に明るい声ですすり泣きを掻き消すように言った。

「ちょ、ナナ、泣くのは止めてよね」

「…馬鹿言わないで。泣いてるのは私じゃないわ」

ナナが震えた声で反論する。頭の何処かで理解していた事実を、改めて認識した彼らは低いすすり泣きに恐れ慄き、開かない扉に張り付いていた。
と、そこに緊張感のないカービィの声が暗闇の中から聞こえた。

「ってか、ピカちゃんってフラッシュ使えるんじゃないの?」

『あ、忘れてた』

素っ頓狂な声を上げてからピカチュウが電気袋から弱い放電をする。途端に辺りは明るくなり、いつの間にかすすり泣きも止んでいた。
それで若干元気を取り戻した子供たちは、深く息を吐くと安堵の笑みを漏らした。

「ナイスだったよ、カービィ」

「えへへ」

『一体何なのかな、コレ』

「…さぁ…」

一瞬和やかな雰囲気が流れたものの、すぐさま話題と意識はそちらに向き、次第に空気も重くなる。皆気まずそうにお互いの瞳を覗き込んだが、なんとか場を盛り上げようとネスは入口以外にもう二つある扉を指差した。

「ここが開かないんだったら、別のところから出ればいいさ。さっきのことは一旦忘れよう」

皆に言い聞かせる為の言葉は、ともすれば自分自身に言い聞かせる言葉でもあり、ネスは一度首を振って何かを振り払うような仕草を見せた後、先頭に立って二つある扉のうちのより近い方の取っ手に手をかけた。


[ 2/36 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -