世界よ、愛しています

*勇者の話2

「おやまぁ、ローラー作戦ですか。相手方は羽振りがいいですねぇ」

間延びした声で緑の恐竜がぼやく。それと背中合わせになる形で立つリンクが、青白く光る聖剣を豪快に振るいながら怒鳴った。

「感心してる場合か!まだまだ来るぞ!」
「えぇ。こちら側の敵は任せて下さーい」

そんな彼らをぐるりと取り囲むのは、歪な姿をした亜空の兵士たち。現在リンクとヨッシーは、亜空軍と交戦中である。

夜明けと共に森の中を歩き始めたリンクとヨッシーだったが、その行く手を阻むように現れたのは、亜空軍の下級兵士プリムだった。リンクのおおよその落下地点を割り出したMr.G&Wらが、乗っ取ったハルバードを使い、追っ手をばらまいていったのだ。が、しっかりとリンクの姿を視認している様子はなく、禍々しい暗雲を立ち込めらせながら、ハルバードはただリンクらの頭上を悠然と飛んでいった。
しかし、それは願ってもない手掛かりだ。リンクやヨッシーにしてみれば、はぐれた仲間の行方など見当も付かないので、敵方からのこのこ現れてくれたこの状況はある意味幸先が良いとも言える。
無論、あの船上にいたはずの仲間の安否も気がかりではあるが。

「それにしても、キリがない!」

叩き割るように上段から亜空の兵士に剣を振り下ろし、リンクが唸る。それでプリム三体を一気に葬ったが今度は木々の影からまた別の亜空軍が姿を現した。さすがのヨッシーも同じように感じていたようで、リンクさん、と常より鋭く叫んだ。

「どうします、このままじゃやられちゃいますッ」
「それなら…」

リンクの纏う空気が、突然ざわりと蠢いた気がして、ヨッシーは立ち竦んだ。
勇者は長剣を鞘に収めると、腰に提げた道具袋に手を伸ばし、あらゆる物理的法則やら常識やらを無視して巨大な鉄球(ご丁寧に棘付き)を取り出した。割とがっしりとしたリンクがようやく抱えられるほどの大きさである。鉄球は極太の鎖に連結されていて、薄暗い森の中でなお白銀色が眩しい。
これぞリンク愛用の武器モーニングスター、またの名をチェーンハンマーという。

「あぅ…リンクさん…」

普段眉間に皺を寄せていることの多い勇者が、珍しく歯を見せて笑う。が、およそそれは“無邪気”だとか“爽やか”だとかそういった言葉からはかけ離れていた。
もっとも相応しい擬態語は“にやり”である。

「頭下げろよ」

重い鉄球に繋がった鎖を持ち上げて、リンクは勢いを付けるようにモーニングスターを振り回した。巨大な鉄球がぶんぶんと風を切って勇者の頭上を周回し、それに巻き込まれた亜空軍はおろか、樹木すらも木っ端微塵にぶっ飛ばす。
十分な勢いが付いたところで、リンクは鉄球を前方に放り投げる。当然その威力は見るまでもなく、直撃を食らった者は勿論、かすっただけの亜空軍まで粉々に消し飛び、木々に囲まれていたはずの閑地には天変地異でも起こったかのような凄惨な傷跡が刻まれる。

「ぎゃああああ!!な、なん、リンクさん!?なんですかそのヤバい武器!いつもの乱闘じゃ使ってないじゃないですかッ」
「対人用じゃないからな。隙も大きいし」
「だから…いや、そうじゃなくて…あう〜」

さすがのヨッシーも言葉にならない様子。しかしリンクは構わずに、再び投擲の準備を始める。心なしかプリムたちも怯んだようだ。

「さぁ、どんどんやるぜ!」
「…リンクさんが味方で良かったですぅ…」

***

結局、数え切れないほどいたはずの追っ手は、一人残らず辺りの木々と共に薙ぎ倒された。途中、プリムらより格段に戦闘力の高いものが紛れ込んでいたような気もしたが、それも全てリンクのチェーンハンマーですり潰された。
既に日は高く、そよぐ風は穏やかに森を吹き抜ける。倒された木々の合間から遠方を眺めたヨッシーは、あ、と声を上げた。

「リンクさん、見てください!向こうは丘が広がってるみたいです。…それに…あそこにいるのはマリオさんとピットさんじゃないですか!?」
「ん?本当だ…」

はっきりと顔の判別は出来ないが、特徴ある二人だ。見間違えるはずがない。しかしリンクはその二人の影に隠れてもう一人の姿があることに気付き、目を凝らした。

薄い紫のドレスと、額に輝くティアラが、陽光を反射して煌めく。濃い黄金色の髪がふうわりと流れ――華奢な体が力無く地面に崩れ落ちた。
それこそ見間違えるはずもない、同じ世界からやってきた護るべき存在。

ゼルダ姫だった。

「!?ひ、姫ッ?!」
「え?リンクさん?ま、待ってくださいよぅ」

突然だっと走り出すリンク。一拍遅れてヨッシーもそれに続く。気のないヨッシーの制止の声が飛ぶが、勿論リンクにその声は届いていない。
しかし、ヨッシーとて本気で彼を止める気はなかった。リンクは仲間との合流を急いでいるのだろう、そう思っていたヨッシーは半ば微笑ましい気持ちでその背を追っていたのだから。まさかリンクがそのまま剣を抜いて、こちらに気付いてもいないマリオとピットに斬りかかっていこうとは夢にも思っていなかった。

「姫に何をしたァァァ!?」
「え?って、ぎゃああああ!?」

怒りの雄叫びと共に、勢いを付けたリンクのジャンプ斬りが無防備なマリオとピットに炸裂する。すんでのところでそれに気付いたマリオたちは、ぎょっとした様子で緊急回避。遅れて追い付いたヨッシーは突然の仲間の奇行に頭を抱えた。

「リンクさん!?何してるんですか、マリオさんとピットさんですよ!」
「な、な、なんだ!“また”偽者か!」
「姫に何をしたと聞いてる!姫をどこへやった?」
「マリオさん、きっとこれも僕たちを騙す為に送られてきた刺客です。もう騙されないぞ!」

四者が四様に言いたいことを言い、言葉のドッジボールが発生中。意思の疎通が図れないまま、マリオとピットまでもが戦闘の構えを取る。ヨッシーはリンクの影に隠れて、あわあわとするしかない。

「お前たちが何を考えてるのか知らないが、好きにはさせないぞ!」

青い瞳を怒らせてマリオが凄むと、リンクもまたこれ以上ないほど眉間に深く皺を寄せ、歯軋りしながら言った。

「それはこっちの台詞だ!」

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