世界よ、愛しています

*23

「裏切り者をとっつかまえるのだ!」

クッパの怒号を皮切りに、亜空の軍勢がマルスたちに殺到した。中にはプリム以外にも得体の知れない怪物たちが多数混じっており、その異様な姿形は滑稽を通り越して不気味ですらある。
しかし圧倒的な数の軍勢を前に、彼らは全く怯まなかった。マルスらに飛びかかっていった亜空軍は、次々と両断され、靄となって消えていく。
あっという間に殲滅されていく手駒を見て、クッパは地団駄を踏んだ。

「ぬ、ぬぅ〜!小癪な!こうなったらワガハイが相手だッ」
「私モ加勢シマスー」

いよいよ敵味方乱れての大乱闘が勃発し、ハルバードの甲板は阿鼻叫喚の図となる。依然物量で勝る亜空軍だが、個人の戦闘能力はマルスたちが圧倒的に上だ。

「操舵室を制圧するのだ!」

混乱の最中にクッパが吠えた。プリムらは一瞬動きを止め、次いで一斉に船内へと続く階段へと殺到する。一番近くにいたマルスとアイクがその前に飛び出して階段を死守するも、そんな二人をクッパの炎のブレスが狙う。自軍諸共焼き尽くしてしまうつもりなのだ。

「させないよ!」

が、サイマグネットを展開したネスがマルスらの盾となる形でクッパのブレスを吸収し、続くデデデのハンマーがクッパの横っ面をひっぱたく。更にリンクがMr.G&Wに肉薄、袈裟懸けに振り下ろす斬撃が強襲した。

「ウワァ」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬ!!」

吹っ飛ばされて甲板にひっくり返るクッパらを見て、リンクやネス、マルスまでもがこのまま押し切れると確信した。そもそも彼らは敵対関係にないはずなのだ。こちらに優位が出来れば話し合いも出来よう。少し時間をかけて事情を説明し、マスターの異変を気付かせることが出来れば、誤解も解けるに違いない、と。

しかしそう上手くいかないのが物語の常。マルスが何か言おうと口を開いたのと同時、ハルバードの上空が頼りなく揺らめいた。マルスのみならず、その場の全員が上を見上げる。陽炎のようなそれは、転移魔法の前触れであることを、魔法の根付く世界観をもつマルスやアイク、リンクは知っていた。
マルスは空中に現れた魔法陣を見上げ、嗚呼と歎息した。つまるところ、これまでの優勢が全くの無駄で、たった今彼らは大ピンチに追い込まれたのだから。

魔法陣を突き破るようにして現れたのは、紫炎を纏った大男。燃え盛る赤毛に鷲のような高い鼻、黒い肌にはしなやかな筋肉が張り詰める。その威風堂々たるや、まさに悪の貴公子、大魔王の名に相応しい。
ずしんと音を立てて、魔王がハルバードの甲板に降り立った。一同が息を殺してその様子を見詰める中、リンクが歯軋りするように唸った。

「…ガノンドロフ…!」
「ふん、死に損ないめ。さっさと去ね」

開口一番にガノンドロフは暴言を吐き、無造作に腕を振るって光弾をリンク目掛けて撃った。
咄嗟に盾を構えて直撃は免れたものの、リンクの体は易々とハルバードの外へ放り出される。風圧に煽られてあっという間に後方に消え去りそうになるリンクの腕を、マルスが飛び付いて引き留めた。が、マルスの細腕では重装備なリンクの重さを支えきれず、引き留めたはずのマルスまでハルバードの鉄柵を乗り越えてしまう。今度はそれをアイクが捕まえるが、そんな隙だらけの彼らを敵方が見逃してくれる訳もない。
ハルバードの船尾まで一気に追い詰められた面々は、ハルバードから投げ出されたリンクとマルスが宙吊りにされ、アイクがそれを支え、その背後から迫るガノンドロフたちを、ネスとデデデ、メタナイトが迎え撃つというあまり芳しくない状況に立たされたのだった。

「形勢逆転だな!」
「この程度の相手に手こずる貴様らにも反吐が出るがな」

優越感たっぷりに言い放ったクッパだが、ガノンドロフの冷ややかな一言に完全に口を噤む。魔王はそれ以上余計なことは言わず、マルスらに向き直った。

「…さて、神に見放された哀れな王子よ。ここからどう逆転してみせる?」
「……」

滑り落ちそうになるリンクの腕に爪を立てつつ、しかしマルスはガノンドロフの言葉にぎりと奥歯を噛み締めた。投げ出されたリンクを引き上げるには、それなりの力と時間が必要だが、ネスたちだけでその時間を稼げるとは考えにくい。力で押されて、アイク共々ハルバードから突き落とされるのが関の山といったところ。それでなくても、男二人分の体重を支えているアイクに、これ以上の余裕はないと見える。
マルスはリンクを見下ろした。眼下の勇者は思いの外冷静で、ただ小さく笑ってみせた。

「全滅だけは避けた方がいい」

リンクの手から握力が失せていく。彼の言わんとするところを察し、マルスは自嘲の笑みを浮かべた。

「僕もそう思うよ。…恨んでくれ」
「馬ー鹿、そりゃこっちの台詞だ」

仲間を見捨てる非情な判断をマルスに委ねたのだから、とリンクは心中で呟く。声に出してそれを詫びる暇はない。次の瞬間には、マルスは迷いなくリンクの手を離し、リンクもまたマルスの手を離していた。あっという間に勇者の姿は気流の彼方に消え去り、後にはひょうと風の音だけが残る。

「ちょっ…何を――!?」

突然のマルスの行動に、アイクらは勿論のことクッパたちも声を失って立ち尽くす。ガノンドロフだけは満足げに豪快に笑うと、腰に差した長剣を抜き放ち、ネス、メタナイトらの間を走り抜け、鉄柵にもたれるアイクに向かって突進してきた。

「その意気や良し!」
「アイク!引き上げてくれ!」
「…む」

マルスの怒号が響く。我に返ったアイクがマルスを引き上げると、彼はその勢いを殺さずに鉄柵を蹴り、ガノンドロフの長剣に自分の剣を交差させた。第一撃こそマルスの勢いが勝っていたが、結局力比べではガノンドロフに勝てるはずがない。すぐにその均衡が崩れ、ガノンドロフの剣はマルスをぶっ飛ばした。が、入れ違いにメタナイトの高速の剣が魔王に迫り、一旦下がったガノンドロフにアイクの金色の剣が追い縋る。

一方危なげなく着地したマルスは、剣を構えて体勢を整えつつ、目まぐるしく変わる状況に呆然と立ち尽くすネスに怒鳴った。

「退路を開く!君はデデデと一緒にテレポートで逃げるんだ!」

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