世界よ、愛しています

*21

「リンク…くん?」

恐る恐る、マルスはその男の名前を呼ぶ。この世界に来てからの彼に対する自分の仕打ちは、とても友好的とは言えなかった。リンクもまた、マルスを見て険しい表情を見せたが、一つ溜め息を吐くと視線を逸らした。

「そんな言葉が出るんだ。敵じゃねーんだろ、あんた」
「…えっ、…」
「俺は最初からそう言ってる」

リンクの言葉にむっとしたように答えるのはアイクである。一拍遅れて、自分が庇われていることに気付いたマルスは、いてもたってもいられずに立ち上がろうと足を踏み出す。が、付いた足に全く力が入らず、前のめりに鼻からずり落ちた。

「何してんのアンタ…って、うわ!」

呆れ口調ながらも、即座に駆け寄ってきたネスが、マルスの容態を確認するなり蒼白となって叫んだ。マルスの左の内腿は肉が抉れ、焦げた服の下から紫色の肌が覗いていたのである。
それには何よりマルス本人が最も驚く。怪我をした記憶が全くない。痛みも殆ど無かった。いや、言われてみれば時々痛かった気もする。
心当たりがあるとすれば、荒野で会ったエインシャント卿の攻撃だ。そういえば、ガノンドロフの一撃を受け切れなかったのも、左足の痛みが原因だったか――極度の興奮で痛みを忘れていたのかもしれない。

「ネス、治せるか」

真っ先に治療を提案したのはリンクだった。

「バカに塗る薬はないよ」

毒吐きながらも躊躇いなくヒーリングの構えを取るネス。しかしその時、轟音を響かせ彼らの頭上――つまり天井を突き破って、巨大なバイクが現れた為に、彼らは壁際に張り付くことになる。
ここに至ってマルスは初めて己の辿り着いた世界を見る。薄暗い閉鎖的な空間のそこは、壁にマルスらの世界観からは想像も付かない電気信号で動く機械がひしめき、天井には剥き出しのパイプが無数に走る。ひっくり返って悲鳴を上げるデデデと、同じく何故か悲鳴を上げたメタナイトを無視し、リンクは剣を構えて舌打ちした。

「…早いな。追い付かれたか」
「応戦する。お前たちは下がってろ」

短く呟き、アイクが突然の侵入者に突進していく。侵入者はバイクを乗り捨て、下品な笑い声と共に床を転がってそれをかわした。

「ハッハァー!ビンゴだぜぇ、俺様の手柄だ!」

言って、部屋にある唯一の出口の前に立ちふさがったのはワリオ。天井を突き破って現れたバイクの持ち主である。天井からぶら下がる鉄パイプはひん曲がって蒸気を吹き、辺りには粉塵が立ち込める。
しかしアイクは好戦的に笑った。

「単身乗り込んで来るなんて、いい度胸だな」
「おっとォ、テメェの相手は俺様じゃないぜ」

が、ワリオはニヤニヤと笑って首を振った。瞬間、ワリオが開けた天井の大穴からプリムの大群が降ってくる。狭い室内はあっという間に亜空の兵で埋め尽くされ、アイクは武器を持ったプリムに囲まれ、マルスらは部屋の隅に更に追いやられる形となる。
マルスを庇ってリンク、ネスは応戦しようと身構えるが、それを見たワリオは声を張り上げた。

「やめときな。俺様だって、仲間を痛めつけるような無粋なこたァしたくねえのよ」
「よく言うよ…」

ネスが吐き捨てるのも、チッチッと舌を鳴らしてワリオは受け流す。プリムたちはアイクらを取り囲んで微動だにしないが、それ以上の距離を詰めてくることは無かった。ワリオの指示を待っているようである。
ワリオは太い指を伸ばして、真っ直ぐにマルスを指差した。

「クールになれよ!ソイツは裏切り者だったんだ。そんなヤツを庇う必要はねぇ。…だからソイツをこっちに渡しな」

仲間たちの視線が、一斉に自分に集まるのをマルスははっきりと感じた。

マスターは、マルスを反逆者と呼んだ。クレイジーと共謀し、世界を破滅に導くと。勿論そんなつもりはないが、しかし自分にその疑いを晴らせるだけの信用は無かった。
確かにマルスはこの世界で異端だった。先の世界の記憶を残し、新たな世界を、仲間を恨みさえした。仲間たちへの当たりも決して良いとは言えなかった。

マルスは自分がこのままマスターの前に突き出されても仕方ないと思ったし、またそうされるのが自然だろうと思っていた。

だから、まさかここでアイクがブチ切れて狭い室内で天空をぶちかまし、プリムごと部屋の半分を破壊するとは想像だにしなかったし、のみならずリンクが投擲した爆弾にネスのPKファイヤーが着弾して大爆発が起こり、部屋の鉄扉ごとワリオを廊下にぶっ飛ばすとは思わなかったのである。
瓦礫に埋もれて伸びているワリオには目もくれず、悲惨な状態になった室内を見て、メタナイトが仮面の下で啜り泣くのをもって、マルスはようやく我に返った。

「なんて…なんてことを!あのまま言う通りにしていれば、君たちは助かったかも――」
「馬鹿にするな!」

が、非難の為に上げた声は、憤怒の形相で振り返ったアイクの罵声にかき消される。アイクだけでなく、マルスは隣にいたリンクに胸ぐらを掴まれ、その反対にいたネスに思い切り足を踏まれた。

「痛…な、なんだよ!?」
「訂正しろ。今のは俺たちに対する侮辱だ」
「見くびらないで欲しいね!我が身可愛さに仲間を売るほど、落ちぶれちゃいないよ!!」


リンクが凄み、ネスが甲高い声で叫ぶ。呆然とするマルスを見据え、アイクは低く唸った。

「俺はお前を見捨てない。――だから、もう俺たちから逃げるな!マルス!」



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