LUNATIC

*40

マルスたち一行はリンクを伴い、まずはフォックスとゼルダに合流した。その頃にはゼルダも目を覚まし、聞いているこちらが恥ずかしくなるような再会を喜ぶセリフを吐いてリンクとゼルダは固く抱き合った。その横でマルスがそっとネスの目隠しをしていた。
次いで彼らはプリンとロイにも合流し(ロイはいまだに意識が戻らなかった)、ようやく目的の半分を果たしたのだった。
そしてその残り半分もすぐさま達成されそうである。彼らが一通り再会を喜んだ直後、上空から狂ったような笑い声が響いた。クレイジーのものだ。
彼女はかなり興奮気味で、瞳孔の開いた瞳をかっと見開いて地面に横たわるバグを見下ろしていた。

「ひゃはははは!!逃げタッてムダよ。アンタの運命ハ、マスターの世界ニ手を出しタ時点で決まッテたんだカラ」

「ぐ…」

毒々しい凶暴そうな緑色のドラゴン(ヨッシーではない)に変身していたらしいバグは、しかしボロボロの状態でクレイジーを見上げた。その力関係は一目瞭然である。

「さァ、アソビは終わリよ」

クレイジーの両手に薄緑色の光弾が宿る。金の髪は渦巻く大気に逆立ち、白の装束はぱたぱたとはためいた。バグの顔から血の気が引く。バグは慌てたように叫んだ。

「ま…待ちなさい破壊神!貴方の目的は世界の破壊なのでしょう?!ならば私の理念とそう遠くはないはずだ!!私が目指すのは“秩序の破壊”。我々は敵対すべきでない――」

「そのセリフは聞キ飽きたワ」

しかし、クレイジーの銀色の瞳はバグの言葉に少しとして揺らぎはしなかった。寧ろ嘲るような冷たい瞳がバグを睥睨する。それを見守るマルスたちですら、その視線にはひやりとするものを感じていた。

「ソシてアタシがこう答えルコトもアンタは分かリ切ッているハズよ。“アタシは理路整然ヲ愛すル神。秩序のナイ世界――すなワち混沌ナンて糞喰らエ”ってネ。世ノ中白か黒か、有か無かデ分カれてレバ、アタシは満足なのヨ」

「愚かな…創造神の意のままに巡る歴史に何の意味があるというのです?これは単なる箱庭だ!」

「箱庭デ何が悪イのカシラ?箱庭たらンことヲ誰が気付クのカシラ?」

クレイジーはにやりと口角を吊り上げる。バグは彼女のあまりの暴言に言葉も出ないようだが、取り残され気味な英雄たちは呆然とする他ない。
カービィが不安げに魔王を見上げて問うた。

「クレイジーとバグは何のお話をしているの?」

「俺が知るか」

「リンクとマルスは分かる?」

ぽよ、と形容しがたい擬音と共にカービィが二人を振り返る。マルスは「さぁ」と肩をすくめ、リンクは僅かに眉間に皺を寄せてから「いいえ」と首を横に振った。

「我々が与かり知るところではないのでしょう。それより、少し距離を取った方が良さそうです。巻き添えを食います」

唐突とも思えるリンクの話題転換に、しかし異論を唱える者はなかった。自身の発する高位魔法の影響でか、クレイジーの周りの物質が次々と塵と化していくのをまのあたりにしたからかもしれない。
ロイをガノンドロフが抱え、足元のふらつくゼルダをリンクが、フォックスをマルスが支えて、その後ろを小走りにネスとプリンとカービィが追う。十分に距離が取れただろうと思われたところで、彼らの背後で凄まじい閃光がほとばしった。クレイジーの情け容赦ない攻撃が発動したのだ。
あまりの衝撃に、逃げる面々は思わず地に伏せた。その破壊力は目視するまでもなく、肌で感じる空間の歪みが物語っている。バグは跡形もなく消え去ったのだと彼らは直感した。

「…終わっ…た、のか?」

閃光が消え去ると、そこは景色が一変していた。彼らは、廃墟ながらも建造物の立ち並ぶ大通りにいたはずだった。しかし、今はクレイジーを中心としたクレーターのようなものが地面に穿たれ、そこに何かしらの物質があったような名残は一切ない。塵の一つも残さずに破壊されたのだろう。
伏せていた地面から顔を上げて、マルスが呟く。その横で咳き込みながら上体を起こしたリンクが頷いた。

「…恐らく」

「長かったような、呆気なかったような…」

ぐったりとした様子のフォックスが、渇いた笑い声を上げる。つられてネスとプリンが複雑そうな笑みを見せた。素直に勝利を喜びたいところだが、そこに至るまでの経緯が余りにも悲惨だった為だろう。
そうこうしているうちに、満足げな表情をしたクレイジーがこちらに合流した。味方と分かってはいるものの、未だ戦闘の興奮冷めやらぬクレイジーの姿は思わず目を背けたくなる威圧感がある。しかし、彼女はそんな空気を一瞬で消し去り、いつもの飄々とした声で言った。

「お疲れサマ。今日のアンタたちハ予想以上ニ役に立ッたワ」

面白いモノも見れタしネ、とクレイジーはマルスに視線を寄越す。マルスは憮然とした表情で「それは良かった」とだけ答えた。
そんなマルスの反応にケタケタと愉快そうに声を上げて笑うクレイジー。その表情のままに、彼女は無造作に左手で空を切る動作をしてみせる。と、その指先の軌道をなぞるように空間が裂けた。裂けた先には、明らかに三次元空間では無さそうなマーブルの光に満ちた世界が広がっている。
そんな空間の裂目を指差しながら、クレイジーはさも当然のように続けた。

「ここカラ、終点に帰レるワ。アタシはこノ空間ヲ壊しテ行くカラ、先に行ッてチョウダイ」

「…明らかに普通じゃない色をした道デスネ」

「普通じゃツマラナイでショ?」

ネスの不満にもクレイジーは肩をすくめるだけで、全く手応えのない答えを返す。ここでようやく選択権など端から存在しなかったことを知り、英雄たちはいくらか陰鬱な気分になったとかならないとか。

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