LUNATIC

*39

「り…リンク、なのか?」

マルスが真っ先に駆け寄って、様々な法則を無視して金属の表面から生えるように突き出たリンクの足に話しかける。リンクの足――ではなく、恐らく金属の向こう側にあるであろうリンクの口が、それに応じた。

「その声はマルスですか?すいません、手を貸して下さい…一人じゃこれ以上動けなくて」

クレイジーは仕事が雑です、とリンクがぼやいた。リンク曰く、突如クレイジーがリンクの足を掴み、そのまま彼を引きずって亜空を引き裂き外部に脱出、が、その際クレイジーが手を放してしまい(恐らく確信犯)、リンクは片足だけが外部に、あとは亜空に取り残され、足場も何もない空間に突き刺さった状態になったらしい。

「引っ張ればいいのかい?千切れたりしないかな…」

「怖いこと言わないで下さいよ。大丈夫です多分」

多分と付ける辺り、言ってる本人にも確信はないのだろう。が、つべこべ言ってる場合じゃないと思い直したマルスは、ネスと二人でリンクの足を掴んだ。

「「せーの。」」

思いの外、抵抗なくつるんとリンクが瓦礫の中から飛び出した。軽くマジックだ。リンクは出てきた瞬間背中を地面に打ち付けていたが、マルスにとってはそんなことはどうでも良かったらしい。
マルスはリンクの姿を見るなり、へなへなとその場に座り込んだ。そして今にも泣きそうな顔をしてまじまじとリンクを見つめる。
リンクは助けを乞うようにネスを見た後、マルスを見やって首を傾げた。

「マルス?」

「…もう、会えないかと…」

「え?そんな…マルスは大袈裟ですね」

「大袈裟なものか!」

突如声を張り上げたかと思えば、マルスはへらへらと笑うリンクの襟をがしっと掴んで引き寄せた。ネスがぎょっとしたように身をすくめたが、王子は勇者の顔を間近で睨んだだけで、再び脱力してリンクの肩にもたれかかった。

「…君を置いて逃げたとき、国を捨てたときの二の舞になるんじゃないかと不安になったんだ。取り返しのつかないことになるんじゃないかと…怖かった…」

リンクは困惑した表情で、肩に顔を埋めるマルスの頭を不器用に撫でた。

「すみません」

「許してやらない」

「…すみません」

ぽんぽん、とリンクが軽くマルスの背中を叩く。それでマルスは落ち着いたのか、リンクから離れて立ち上がった。それから座り込んだリンクに右手を差し出す。リンクは僅かに苦笑して、その手を借りて起き上がった。

「ありがとうございます…勿論、ネスも」

リンクはそれまで呆気に取られてぽかんとしていたネスを見下ろしてはにかんだ。ネスは何処か照れ臭そうに俯いた後、にっこりと微笑み返した。

「おかえり、リンク」

リンクは無言で頷き、それから辺りを見渡した。遥か彼方で何かしらの破壊音が響く。が、リンクの視線はそちらに向かず、すぐ横でこちらを睨んでいたガノンドロフと、のほほんとした表情のカービィに注がれていた。
マルスたちの声を聞き付け、二人も遅れてやって来たのだ。

「リンクー!良かった、無事だったんだねっ」

「えぇ、ご心配をおかけしたようで。申し訳ありません」

「謝んなくていーよ、リンクが無事ならおーるおっけー!」

カービィは、前回のバグの時とは打って変わって即座にリンクに飛び付いた。リンクがそれを柔らかく受け止め、子供にするように抱きかかえたまま、よしよしと頭を撫でてやる。そういえばリンクはさっきまでマルスの頭も撫でていたな…と思い出して、ネスはひそかににやりとした。
リンクはカービィを抱きながら、その後方で憮然とした表情のズタボロな魔王を見咎めて顔をしかめた。ガノンドロフは一度、バグからの攻撃に直撃していたので、見た目は(実際は蓄積ダメージ的にも)相当な大怪我をしている。が、魔王はそんな勇者の視線を受けて、さらに眉間の皺を深くした。

「えらくやられましたね」

そんな魔王に対し、大して心配している訳でもなさそうな淡々とした調子でリンクが呟く。魔王はチッと舌打ちした。

「何処かの勇者が捕まるなぞというヘマをやらかしたからな。無駄な労力を割く羽目になった」

「ご老体に鞭打って、私の為に戦って下さったと?」

「一言多いぞ、小僧」

歯をぎりりと音がしそうな程に噛み締めて、ガノンドロフが唸る。リンクはしたり顔でそれに応えた。
しかし、そんな二人の険悪な雰囲気を、マルスは珍しく魔王の肩を持って取りなした。

「リンク、魔王様にはきちんとお礼を言わなきゃ駄目だ。だって彼は――」

ネス、リンク、カービィはマルスの一見道徳的とも思える発言に瞠目する。だが、当然のように、マルスの行動原理は遊びと思い付きに満ちた気まぐれだったりする。
魔王は王子が何を言おうとしているのか悟って慌てた様子で制止の声を上げたが、それより早くマルスは口を開いていた。

「だって魔王様は、リンクの代わりに一生懸命ゼルダ姫を守っていたんだからね。名誉の負傷だよ」

ネス、リンク、カービィの三人は目を見開いて固まった。

「…えぇ!?おじさん、マジ?!」

「ゼルダがいるんですか!?何処、何処に!」

「ガノちゃん頼れる〜」

「一番話を聞いて欲しかったリンクが、僕の話を真面目に聞いてなかったみたいなんだけど」

「余計なことを言うな王子!」

ネスとカービィがきらきらした尊敬の眼差しで魔王を見上げるのに対し、リンクはゼルダという単語だけに反応して話の後半はまるで聞いていなかったようだ。マルスがやれやれと首を振っていると、ほのかに焦った様子の魔王が肩を怒らせて怒鳴った。

「そもそも俺は小僧に義理立てしてあの女を守っていた訳ではなく、トライフォースを持ったまま死なれては我が野望に支障を来す恐れが――…って誰も聞いてない!」

魔王の必死な弁明に、既に仲間の誰もが耳を傾けてなどいなかった。彼らの関心はバラバラになった仲間との再会に戻っていたのだ。魔王はがっくりと肩を落とし、しかしおとなしく感動の再会の場面に立ち会うことを決めたのだった。

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