LUNATIC

*33

「それは…」

ロイが呆気に取られた様子でマルスを見た。が、その直後に彼は憤怒の表情をあらわにして声を荒くした。

「なんで最初からそれ使わないんだよ!?」

「忘れてた」

「お前なぁ!!」

「ロイ、ロイ、落ち着いて。今はケンカしてる場合じゃないよ」

すっとぼけるマルスと、それに掴みかかろうとするロイ。そんなロイをなんとかなだめすかそうと、カービィが短い手足を懸命に振った。
カービィの努力は功を奏したようだ。ロイは思い直したように、封印の剣を構えてバグと向き合った。遅れてマルスがサンダーソードを手にバグを見据える。

「…そんな微量な魔力では、私を倒せはしません」

バグは、じりじりと後退りながらぼやいた。だがその言葉に説得力はない。確かに彼らにバグを倒せはしないのかもしれないが、通常の武器よりは遥かにマシな足止めになる。その間に魔王かゼルダが復活すれば、スマッシュブラザーズの当初の目的が果たされるのだ。
バグの退路を断つように、カービィとロイ、マルスはバグを取り囲んだ。

「観念しやがれ」

ロイの言葉を合図に、三人は一斉にバグに斬りかかる。カービィはハンマーだが。
俄然、バグは逃げ腰になった。魔王の姿である故、剣を持っているのに、マルスとロイの剣を受けようとは思わないらしい。代わりにバグは集中的にカービィを狙った。しかし、カービィのハンマーは唸りを上げて、バグの猛攻を弾き返す。

三対一という圧倒的有利な状況もあり、その瞬間は直ぐ様訪れた。カービィの相手に気を取られたバグを、マルスのサンダーソードから放たれる雷が捕えたのだ。

「ひぃいぎゃああああッ!!」

明らかに異常な悲鳴を上げてバグはマントを払って雷を払い退けた。確かに魔法攻撃はバグに有効なようだ。
続けてカービィのハンマーがバグの足元を払い、魔王の姿をしたバグの巨体はぐらりと傾いだ。そこへ剣に気合いを溜めたロイが、間髪を入れずに追ってくる。封印の剣の刀身は、炎を纏って煌々と輝いていた。

「行け!」

マルスが吠える。言われるまでもなく、ロイは最大限力の溜められた刀身を真っ直ぐと――

――バグである魔王の姿が、ぐらりと揺らぐ。

バグの頭上に――

――バグの姿はぐんぐん縮み、やっと形が定まると群青の長髪がさらりとなびく。
さっきまで魔王の姿をしていたバグは、瞬時にその姿を群青の髪を持つ魔導士風の恰好をした少女へと変えていた。

ロイの瞳が大きく見開かれる。同時にバグが、少女の声で金切り声を上げた。

「助けて、ロイ!私よ、リリーナよ!!」

少女は、ロイが愛する婚約者だった。

「リ、…っ!」

ロイのエクスプロージョンは、大きく少女から反れて地面を穿った。マルス、カービィは同時に不味いという表情をあらわにして武器を掲げる。
だが、全てが遅すぎた。

リリーナと名乗る少女の腕が、隙の出来たロイの鎧を砕いてその体を貫く。一瞬何が起こったのか分からず、マルスは血だらけの少女の指が、ロイの背中から突き出ているのを呆然と見つめた。

「…かはっ」

ロイが中途半端に開いた口から血を吐いた。同時にロイの腕から力が抜け、封印の剣が音を立てて地面に落ちる。
ロイの胸に飛び込んできた恰好の少女の顔が彼の血で汚れたが、彼は既にそのことを認識しているかも怪しかった。

「…っ貴様ぁぁぁ!!」

少しずつ、現状を把握したらしいマルスの瞳に憎悪の色が、カービィの瞳に恐怖の色が浮かぶ。刹那マルスは絶叫し、技巧も何もない荒々しい剣捌きでロイを貫くバグの腕を斬り落とした。カービィは小さな体で、倒れようとするロイの体を懸命に支えた。

「殺してやる…殺してやる!!」

再び悲鳴に近い声で怒鳴り、マルスは痛みにもがくバグの元まで飛ぶように走って、思い切りその体を踏み付けた。そうして動きを止めておいて、魔力のこもった刀身をバグの心臓辺りに突き刺す。斬撃と共に電撃に襲われ、バグは悲鳴を上げてのたうち回った。

「あぁああああ!!ああぁぁぁぁッ」

「誰か!誰かロイを助けて!」

その悲鳴に重なってカービィが叫ぶ。ロイは力なくぐったりとその場に倒れていた。まだその体にはバグの腕が残り、しかし傷口からはとめどなく血が溢れている。カービィは敢えてその腕を抜こうとはしなかった。そんなことをすれば、途端ロイが大量出血に見舞われることが容易に想像出来たからだった。

「血が、血が!死んじゃう!」

「ネス!行け!」

少し離れてこの状況を見ていたネスたちだったが、先と同じようにフォックスが叫んだ。が、フォックスの傷は思った以上に深く、ネスの全力をもってして行うヒーリングも遅々として進んでいない。今彼の治療を止めれば、今度はフォックスが失血で倒れるだろう。
ネスは縋る思いでゼルダを見た。回復系の能力を持つのは、この場でネスとゼルダだけのはずだ。しかし、ゼルダはまだ目を覚まさない。相当強く叩き付けられたのだから仕方ないが。
プリンが泣きながらゼルダを揺さぶるも、彼女は糸が切れた人形のようにぐらぐらとなされるがままになるだけだった。

「行けない!」

ネスも半泣きだった。

「フォックス、君は思ってるより重症なんだ!」

「そうかもな。だがロイの方が…」

フォックスが反論しかけた、その時だった。

「少し黙れ!」

突然、ネスのものでもフォックスのものでもない、大気を震わす大音量が、パニックになりつつある広場に響いた。辺りからバグの悲鳴だけを残し、あとの音が全て消えていく。

「風船、その女は眠らせておけ…!元々戦場に向く女ではないのだ。小僧、お前はそのまま狐の治療をしろ」

静かな、そして凄みのある声が的確な指示を出しながらロイの元まで移動した。
魔王ガノンドロフが、ようやく先のダメージから回復したのだった。

魔王は、泣きそうな顔でロイに縋り付きながら自分を見上げるピンク球を見た。

「…ロイがぁ…っ」

魔王は小さく舌打ちし、カービィからロイへ視線を移した。

「俺が、何とかする」

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