LUNATIC

*28

所変わって、ここは亜空間。バグの放つ妙な光線により、強制的に連れて来られてしまったリンクとクレイジーがいる空間である。
時計もない、娯楽用品もない、話し相手はお互いしかいない。そんな中で二人は仲を深め合うかと思われたが、実際そうは上手くいかない。

ドォン、という凄まじい音がして、リンクの顔をかすめたクレイジーの拳が大きなコンクリートの塊を二つに粉砕した。

「ちょっ…クレイジー!止めてください、殺す気ですか!!」

「うるっさいわねー、その言葉アンタにそのままバットで打ち返すわよ。先に首狙ってきたのアンタでしょ!」

二人は他愛もない会話が途切れる度に懲りず、飽きず、殺し合いを演じていた。
リンクの方は別段クレイジーを憎んでいる訳ではないが、売られた喧嘩は買ってしまうのが彼の性格だ。一方クレイジーはリンクのことを嫌っているのではないようだが、なんだか無性に「壊したくなる」らしい。

恐らくマスターの魔法が途切れがちなせいで、クレイジーの破壊欲求が増幅されているのだろう、とリンクは推察した。それでもなんだかんだでクレイジーは手加減してくれているし、リンクも殺す気があって剣を振っている訳ではなかった。

要するに、二人とも「暇」なのだ。

「一つ、聞いてもいいですか」

リンクの剣が、クレイジーの肩を浅く薙ぐ。

「なぁに?今キブン良いから答えてあげる」

その傷をものともせず、クレイジーは回し蹴りを放つ。リンクは盾を構えてそれに応じたが、盾ごと大きく後ろに弾き飛ばされた。

「…っ、貴方はマスターを、一体どう思っているんですか」

「マスター?」

そのまま二人は距離を保ち、対面する。その間にクレイジーの肩の傷は、テレビの逆再生でも見ているかのように癒えていった。

「昔…貴方がこの世界へ来たばかりの頃は、あんなに“憎い”だの“忌々しい”だのと言っていたでしょう。今は、どうなんです」

リンクの言葉に深い意味はなかった。ただ純粋に疑問に思ったことを口にしただけだ。
クレイジーは意地悪くにやりと口の端を吊り上げた。

「今も昔も変わらないわ。アタシ、心の底からマスターが憎いし、マスターのことを壊したいぐらい愛してる」

勇者ははたと首を傾げた。

「……言葉に連続性がないんですが」

「ふふ、アンタみたいなニンゲンに理解されるとも思ってないわ」

そう言いながらも、クレイジーは何処か恍惚とした様子で続ける。

「殺し合うのも、辱めるのも、蹂躙されるのも、マスターが相手ならアタシにとっては全てが至福の時なの。嗚呼、あの銀色の冷たいこと!!あの白い手でアタシを掻き切って、アタシの手であの白い肌に爪を立てて、二人でドロドロのグチャグチャになって、一人に混ざり合えたらどんなにシアワセかしら!」

一人で叫ぶクレイジーに、リンクは思わず背筋が粟立つのを抑え切れなかった。今更ながら理解する。
――そうだ、彼女は“クレイジー”。何から何まで狂っている!

ふとクレイジーがリンクに視線を戻した。我知らずぎくりと身をすくませるリンクに、クレイジーははんなりと笑む。

「アンタのことも、それなりに壊したいわ。アタシに盾つくあの根性、結構スキよ」

「は、はは…それは光栄です」

白々しいリンクの笑い声に、彼女はさらに笑みを深めた。

「アタシと一つになってみない?」

――それは新手のナンパでしょうか――

「遠慮します」

「残念ねぇ…アンタに付けられた左肩の古傷を見せて、ジワジワネチネチ責任追及してやろうと思ったのに」

「その節はすみませんでし…た、ってあれ?私、貴方の左肩に傷なんか付けましたっけ?」

流れで謝りそうになったリンクだったが、身に覚えのない罪まで被ってられるかと反論を呈した。一方破壊神は「すっとぼける気?」と表情を険しくする。

かつてクレイジーは、マスター率いるスマッシュブラザーズと敵対していた。神たるマスターが一つ所に腰を据えるのは有るべき姿ではないとし、彼女はマスターが心境を変えた原因と思われるスマッシュブラザーズ並びにこの世界を破壊しようとしたのだ。圧倒的な力の差の前にスマッシュブラザーズは大変な苦戦を強いられたが、リンクの奇策によって彼らは難を逃れた。それどころか「昨日の敵は今日の友」精神で、クレイジーを仲間にしてしまった。
恐らく他に並ぶ強さのない――マスターとクレイジーの魔力は同等だが、戦闘能力はクレイジーの方が上である――破壊神としては、痛くプライドを傷付けられた結果に違いない。それにリンクはかなり貢献していたので、恨まれても仕方ないとは思っていたが。

「私がやったのは、せいぜい貴方の心臓にナイフを突き立てたぐらいです。左肩を斬ったのはマルスですよ」

リンクはあっさりとマルスを身代わりに差し出した。言いながら、自分もなかなか酷いことをしたものだと気付いたが、彼女は不死身なんだからそんなことを気にしているはずがないと頭を振る。そもそも不死身の破壊神に古傷など出来るのか、という別の疑問すら湧き上がってくる。

しかしクレイジーの機嫌は右肩下がりに急降下していった。

「アンタ何言ってんの?アタシが言ってんのはもっと前の話よ」

「前?お粥をかけたことですか?」

「…だから」

苛々とクレイジーが息を吐き出す。リンクは訳が分からず首を傾げるしかない。
クレイジーは、いつまでも反応の鈍いリンクにやや怒鳴り付けるように続けた。

「…あの王子サマが入る前の話よ。“12人”だった時の話!」

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