LUNATIC

*26

結局、その日の屋敷の夕食はカップ麺をおかずに白いご飯を食べるという、何処の学生だよというような献立になった。厨房に出ていたサラダやら何やらはリーデットもどきに踏み荒らされて使い物にならなかったし、今から作り直すのも面倒だったからだ。

あの後食堂では、遅れて来たマルスとネスも別段咎められることなく、自然に話し合いに参加していた。皆ガノンドロフの説明に満足したのだろう。
そしてその際の内容は、専ら彼らの今後の活動についてだった。

無為に時間を過ごすぐらいならば、早くから寝て体力を温存する。
翌日は早朝から起き、来るべき戦いに身体を馴らしておく。

以上がガノンドロフを中心にした話し合いで決まったことで、彼らは日が沈んでいくらも経たないうちに夕食を済ませ、九時前にはほぼ全員が床に着いているという遠足前の小学生並な健康ライフを送った。

そんな中、床に入っていなかったマリオとガノンドロフの二人は、人気のない二階の夜のバルコニーで相対して、無言の睨み合いを続けていた。

「…用がないなら帰るぞ」

ついに魔王が面倒臭そうに切り出した。が、マリオはいつになく剣呑な表情で、立ち去ろうとするガノンドロフの退路を断つ。

「昼間の話だが、どうにも腑に落ちないことが多い。お前…というより“お前ら”、何か隠してるだろ」

魔王は僅かに感心したように溜め息を吐いた。やはり持って生まれたリーダー気質の為か、彼はあれぐらいの説明では満足してくれなかったようだ。納得はしなかったが、場の雰囲気を考えてあれ以上の詮索は避けた。そして今自分を捕まえて事の真偽を問い正しに来たと。

「“隠している”ということは、“知られたくない”という心理が働いていることに気付かないのか」

しかしガノンドロフは口を割る気が無かった。彼らには必要のない情報であるし、それが王子たっての願いでもあったからだ。
それでもマリオは引く気にはなれないようだった。

「それぐらい…分かってるさ。でも…」

「…俺からは言わん。全てが終わったら、王子にでも聞くんだな」

王子が口を割るとも思えないが。
マリオはあからさまに眉尻を下げて情けない声を上げた。

「けちんぼ」

「何とでも言え」

「…分かった、ひとまず諦めるよ」

しょぼんと肩を落としてマリオはガノンドロフの為に道を開けた。引き留めて悪かったな、と謝るマリオにはガノンドロフは軽く手を上げて答える。

この一連のやり取りを、カーテンの影からこっそりカービィが聞いていたことには、さすがの二人も気付いていなかった。



「やぁ、待たせたな」

そう言っていつもと変わらぬ笑顔で二十人強の屋敷住人を終点で出迎えたのは、銀の長髪を持った男にしてはなよい体つきの創造神マスター。先日の宣言通り、早朝に集合した英雄たちはそわそわと終点の中央あたりで一つところに固まっていた。
それもそのはず、彼らはこれから世界の存亡を賭けたバグとの戦いを控えているのだ。

「まぁ、あんまり固くなるなよ。基本バグってのは魔力は高いが総じて戦闘能力は低いもんだ」

終点備え付けのパソコンに向かい、カタカタとキーボードをいじるマスターは、あっけらかんとそう言う。あらそうなの、と意外そうにピーチが声を上げた。

「私、てっきり頭突きでスイカ割るような猛者を相手にしなきゃならないのかと思ってたわ」

「喩えに共感出来ないけど…普通にやれば、まず負けないってことだな」

ピーチの電波な発言はさておき、マリオがそうまとめると皆は一様に安堵の溜め息を吐いた。一時はどうなるかと思ったが、これならなんとか普段の生活に戻れそうだ。
そうこうしているうちに、これまた終点に備え付けの転送装置がブゥンと音を立てて起動し、その足元から淡い光を放つ。これに乗って目的の場所――すなわち、大本のバグのところまでひとっ飛びという訳だ。

しかしここでとある問題が浮上する。転送装置に乗れるのは、どんなに頑張っても一回につき六人。先に着いた者ほど、もしかするとバグと早く交戦する羽目になるかもしれないのだ。

「構わん。さっさと終わらせるぞ」

が、そう言ってすたすたと転送装置に向かってしまうガノンドロフ。それに呆れたようにマルスが続き、ロイとネスが王子のあとを追う。
ネスを追ってカービィがふわふわと飛んで行き、つられてプリンもふわふわ、ふわふわ。それを止めようとゼルダとフォックスまでもが結局転送装置の元に来てしまう。

マスターは肩越しに先遣隊となるメンバーを一瞥した。――戦力は申し分なし。ならば問題ないか、とENTERキーに手をかけつつ彼らに問う。

「じゃあ、行けるか?」

「あぁ、大丈…――痛ェ!マルス、俺の足踏むなよっ」

「黙れ愚民。僕に命令するな」

「ガノンドロフ、こうも狭いのは貴方が大きすぎるからですわ。体を真っ二つに切断してスペースを作りなさい」

「今ここで魔人拳をかまされたいか、ゼルダ」

「テメェら怖ぇ会話してんじゃねーよ!普通に転送装置に乗れェ!!」

「プリンとカービィは僕の頭の上でOKだね」

『はいでしゅ』

「わーい」

…もう誰も聞いてない。勿論今彼らを見守っているメンバー内にも不平を述べるような者はいない。愚問だったか、と一人苦笑し、マスターはキーを押した。瞬間、一層転送装置の光が強くなり、ふっと魔王たちの姿が掻き消える。言わずもがな、彼らは目的の地に無事転送され――「…ん?何だ…」――というには、まだ早いらしい。

マスターが呟きと共に身を乗り出してメインディスプレイに鼻先を突き付ける。常人には解読不能な細かな演算式がその画面を流れていくが、創造神たるマスターはその意味を早々と理解した。

「不味い…こんなとこまでバグに邪魔されるとは」

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