LUNATIC

*17

「この声がプリンさん!?というかここまで聞こえてくるなんて、何処で歌って…」

とてもじゃないが、今の歌声と普段のプリンの声とでは似ているとは言いがたい。ヨッシーがカービィに反論するが、しかしそれはマリオに遮られた。

「今はそんなことどうでもいい!今のうちにコイツらを片付けるぞ!!」

怒号と共にリーデットもどきを豪快なジャイアントスイングで屋敷の外へ放り出す。それに倣ってファルコンの拳が炎を纏って数体のリーデットもどきを薙ぎ倒した。

「分かりました〜」

「はぁ〜い」

「へぇ〜い」

酷くやる気のない返事を寄越すヨッシー、カービィ、ドンキーの野生トリオ。その後ろでは可憐な姫君が、ひらすらフローリングの床から野菜やら何やらを引き抜いては投げる、という作業を繰り返している。
そこからの彼らの戦いぶりはまさに圧巻だった。それまでは劣勢だった彼らだが、歌に勇気をもらったかのように途端に反撃に転じ、あっと言う間――とはいかずとも「あー!」と言う間ぐらいで屋敷に入ってきた外敵は全て倒してしまったのだった。



「気休め程度だが、窓は塞いでおこう」

リーデットもどきの死体やら何やらを窓から外へ放り出し、次いで剥がれてしまった床板を(何故か)持っていた釘とトンカチで窓枠に打ち付けていくマリオ。それを眺めつつ、乱れた髪をなんとか整えようと撫で付けるピーチが不満げに呟く。

「お洗濯は最初からやり直しだし、服は返り血でベタベタだし、一体さっきの襲撃はなんだったのかしら」

「身の危険についての言及が一切無いんだな」

「あらファルコン、そんな非生産的なこと言ったって始まらないでしょ」

「そんな切り返ししてくる姫は、アンタぐらいだよ…」

不毛な言葉遊びに興じるピーチとファルコンは放っておいて、窓を封鎖したマリオは立ち上がって部屋の出口を振り返った。それに合わせて残りのメンバーも彼の周りに自然と集まる。
マリオは一旦彼らの視線に応えるように頷くと、はっきりとした声で続けた。

「とりあえず何が起きたか食堂の奴らに説明しに行こう。今は色々と非常事態だが、さすがにこれは非常事態過ぎる」

「そうですねぇ」

間伸びした返答を返しながら、腕を組んで考え込むポーズまでして見せるヨッシー。その背中の上に収まっているカービィも、「さんせー」と短い手を精一杯に伸ばした。他の皆も同じ意見なようで、彼らはそのまま食堂に向かおうと部屋の扉を開く――が。

「うわ、危ねぇ!」

その扉の向こうに、またしてもリーデットもどきが待ち構えていたのだ。幸い一体だけだったが、それは先頭にいたマリオに飛びかかろうとその腐敗した手を伸ばして来る。
しかしマリオが応戦するより早く、彼の顔の真横から突き出されたゴルフクラブがリーデッドもどきの頭を吹き飛ばしていた。
戦う姫君、ピーチの仕業だ。

「大丈夫、マリオ?怪我はない?」

何食わぬ顔でリーデットを踏み付け、ゴルフクラブを脇に放るとマリオの両頬をがっちりホールド。その可憐な顔を鼻と鼻がくっつきそうなぐらいに接近させてピーチは心配そうにそう尋ねる。
こんなレベルの高い美人に、ここまでしてもらえるなら男冥利に尽きると言ってもいいだろう。が、マリオはオロオロと視線をさまよわせながら「お陰様で」と言うだけだ。心なしか震えているようにも見えるが、ピーチがしっかりその頬をホールドしているので実際のところはよく分からない。

「屋敷の中にも、リーデットいたみたいだな」

ぽつりと落とされるドンキーの呟き。勿論リーデットが部屋の外にもいた時点で、彼らはそれまでの努力が単なる徒労であったことを悟っていた訳だが、誰もが敢えてそれを口にしようとはしなかった。現実逃避とも言う。

「とにかく、ここで立ち止まっている訳にはいかないな。早いとこ食堂の奴らと合流を――」

話を進める気がないらしいマリオとピーチを見かねたのか、ファルコンが食堂に続く廊下を示す。彼らがいた部屋と食堂はちょうど屋敷の対角線上にある。
が、彼らの視線はファルコンの指の示した先には向かなかった。彼が示した廊下とは反対側――つまり、広間に繋がる廊下から、突如何かが崩れるような轟音が響いてきたからだ。

「な、なんですかぁ!?」

ヨッシーの悲鳴が上がり、屋敷全体を揺るがす程の轟音に、思わず身をすくませる一同。そんな中、いち早く次の行動に移ったのは、小さな星の戦士だった。

「ボク、見てくる!」

「あ、カービィ待て!」

仲間の返答も待たず走り出すカービィにつられて、マリオもその後を追う。勿論残されたメンバーもそれに従うしかない。
そうして彼らはカービィを先頭にして、轟音が響いてきたと思われる広間に辿り着いた。が、その広間の中程までも進まず、カービィたちは足を止めた。否、止める他なかった。

「広間が…壊れてる!」

カービィがそう指摘するまでもなく、誰の目にも広間の崩壊は明らかだった。
普段は美しい模様の映える赤絨毯が敷き詰められている広間は、今やその半分以上を深く開いた亀裂の底へ崩落させていたのだ。無惨にも床板は剥がれ、裂け、絨毯もボロボロになって破れた床板にぶら下がっている。
ところどころに緑色の液体が飛び散っている辺り、ここら辺でもリーデットもどきが出現したことが窺えるが、それとの戦闘の影響だけで広間が半壊するようなヤワな設計はこの屋敷はなされていない。

「広間で何があったのかしら…」

思案顔のピーチは、しかし平時と変わらぬ軽い口調で呟く。マリオとファルコンは心の何処かでこの肝の据わった姫君を尊敬した。
が、カービィはそこまで事態を楽観視していないようだった。背後にいた仲間たちを振り返ると、「早くここから離れよう!」と叫ぶ。マリオたちは何故星の戦士がそこまで焦っているのか不思議に思ったが、その疑問は次いで発せられた鋭い叫び声によって解消された。

「君たち、何をしている!!」

それは、いつの間にか階段の踊り場から身を乗り出してこちらを見下ろしていたマルスの声。

「崩れるぞ!退けェ!!」

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