LUNATIC

*16

『――“Don't be scared of the darkness...Call me,call me...”――』

「…何だ、この歌…」

子供たちを迎えに行く為に二階に続く階段を上っている最中のガノンドロフ、ファルコ、フォックスの三人にも、先程の歌は届いていた。ファルコがぽかんとしたままなのに対し、フォックスは警戒の色濃い声音で呟く。そのまま彼は指示を仰ぐように魔王を見やったが、魔王はフォックスの視線を受けるとやや愉しげに瞳を細め、にやりと口の端を吊り上げた。――実に凶悪な笑みである。

「おい、これは一体…」

「子供といえど、やはり英雄という訳か」

次なる魔王の発言は、まったくフォックスの理解の及ばぬものだった。フォックスはさらなる追及の矛先をガノンドロフに向けるが、魔王はのらりくらりと口を濁してついぞはっきりしたことを言わない。

「やめとけ、フォックス」

ついつい躍起になりかけたフォックスの肩を掴んでファルコが諌める。ファルコは鋭い眼付きで魔王を睨みながら唸った。

「敵じゃねぇんだな」

「そうだ」

「なら、いいだろ」


次いでファルコはフォックスに視線を移し、同意を求めて尋ねる。フォックスはやや釈然としない思いを抱えながらも、こうなっては頷くしかない。

やはり納得し切れないフォックスは、先を行く魔王と相棒から少し遅れながら「何処かで聞いたことある声なんだけどなぁ…」と先程の歌声を脳内で反芻していた。



荒い息を整えつつ、辺りの騒音に耳を澄ませる。今は彼が一人で時間を稼いでくれているはずだ。早く自分が加勢に行かなければ、と気ばかりが逸る。まだ、まだ待たなければならない。あと少しで――。

「!ようやくチャージ完了ね」

サムスは腕に装着されたガンボットの輝きを認めて思わず笑みを溢した。溢れんばかりのエネルギーが、ガンボットから抑え切れない光となって漏れ出ている。しかし彼女はこれ幸いとばかりに隠れていた物陰から転がり出て、鋭く叫んだ。

「ミュウツー!引いて!」

『む』

紫色のバリアを展開して、迫り来るリーデッドもどきを凌いでいたミュウツーは、薄い表情ながらも僅かに頷きを見せてその場からテレポートして消えた。それとタイミングを同じくして、サムスの腕から特大のチャージショットが放たれる。

刹那、響く轟音と炸裂する光。技を放った本人であるサムスもやや目に残像が焼き付くのを感じ、目頭を押さえた――つもりが、重厚なパワードスーツとヘルメットを装着している彼女にそれは叶わなかった。
一拍遅れてサムスの後ろにミュウツーが姿を現す。彼は足音もなく彼女の横に並び、チャージショットによって凄まじく破壊された部屋と、原形を留めず熱に焼かれたリーデッドもどきの死体の山を見渡した。

『我々二人だけでも案外何とかなるものだな』

「偶然よ、偶然。“あの歌声”で一瞬奴らの動きが鈍ったから、決定打が撃てたのよ」

『…そうか』

ミュウツーは紫の瞳を細め、僅かに表情を和らげる。垂れた長い尻尾が一回ぴこんと揺れたので、恐らく嬉しいことでもあったのだろう。が、サムスはミュウツーの思いがけない感情の発現に驚いていた。
全く彼が喜ぶ要素など想像も付かないサムスだったが、様々な可能性を考慮していき、ようやく一つ現れた仮説を口に出す。

「…まさか貴方、さっきの歌声の主を知ってるの?」

『ぬ…知ってるも何も…お前は分からなかったのか?』

遺伝子ポケモンは、サムスの問いに逆に不思議そうに尋ね返してきた。頷くしかないサムスをじっと見つめたあと、ミュウツーはついと視線を部屋の外へ向ける。

『あの歌声は――』



「な、なんなんだコイツら!?」

所変わって此方は東館で洗濯物を干していたメンバーである。ここに回されたのは主に料理の出来ない輩とか、料理は出来るけど料理に何を入れるか信用出来ない輩だった。まぁ要するにヨッシー、ドンキー、カービィ、それからファルコンとマリオとピーチである。
外に出るなとの忠告を守る為に、彼らは使っていない部屋にクーラーを付け、そこで洗濯物を干していた訳なのだが。

「ちょっと!やめなさい、それ洗ったばかりなのよ!」

ここにもリーデッドもどきが闖入してきたのだ。勿論洗濯物どころの騒ぎではない。律義な彼らはこのリーデッドもどきをこれ以上屋敷内に踏み込ませる訳にはいかないとの思いから、この閉鎖空間に止まったまま戦っていたのだった。勿論彼らは自らの不毛な努力に気付かない。
が、既に突き破られた窓からは次々とリーデッドもどきが入ってくるし、リーデッドにはあり得ない機動力の高さにさすがの英雄も辟易している。

「マリオさーん、さすがにこの狭い空間にすし詰め状態じゃ、私たちも戦えませんよ〜。扉を開けて敵を分散させて、中の皆さんに救援を頼みましょうー」

いまいち緊張感に欠ける間伸びした声はヨッシーのものだ。マリオはむぅと唸るが、ピーチはゴルフクラブをフルスイングしながら「いいえ!」と言った。凄まじい音がしてリーデッドもどきの頭が遥か彼方に飛んでいった。

「こんなのをお屋敷の中にのさばらせたら、それこそお屋敷が壊れちゃうわ。ここで私たちが防波堤になるべきよ」

「どちらも正論ではあるな」

マリオは苦々しげに呟いた。被害を拡大したくはないが、ここで自分たちがやられては本末転倒だ。彼は我知らず唇を噛む――。

『――“Sleep peacfully...Before the night is far advanced...”――』


が、依然答えを決めかねているマリオの耳に、突如それは届いた。
歌声。その穏やかな音に、味方は勿論リーデッドもどきまで沈黙して大人しくなっている。

「あーっ!」

唐突にカービィが叫び声を上げる。彼は一気に向けられる仲間の視線にたじろぐこともなく、喜々とした様子で続けた。

「この声、ぷーちゃんの声だ!」

…一瞬、間。

「ぷーちゃん…って」

カービィ独自のあだ名と、本来の名前とを照らし合わせる為にそれを反芻する。そうして思い当たった答えに、思わず彼らは大声を上げていた。



「まさか…プリン!?」

[ 17/44 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -