LUNATIC

*13

「ところで、君はいつまでもこんなところで油を売っていていいのかね」

ネスたちが異様な光景を目にしていた時より時間を少し遡り、ガノンドロフとマスターの会話の場面に戻る。高らかに神殺しを宣言した魔王だったが、幸か不幸かマスターはその対象にならなかった。そのマスターが平時の落ち着きを取り戻して言ったのが、先の言葉である。
世界存亡の危機であるというのに、それらの事象を差し置いてわざわざこんなことを確認しにくるなんて、いかにも魔王らしいというか自分勝手というか。マスターのその言葉には多分に呆れも混じっていたかもしれない。
魔王はふむ、と唸って顎に手を添えた。

「面倒だが…致し方あるまい。邪魔をしたな、せいぜい秩序の維持とやらに集中しろ」

言って、魔王は創造神に背を向けた。本当にただ運命の悪戯の原因を確認しに来ただけだったらしい。或いは煩雑な作業に追われることを見越してサボりに来たとも言う。
しかしマスターはその背を見つめて、いつになく神妙な面持ちで呟いた。

「ふがいない私を…許してくれ」

かすれたような彼の声は、誰の耳にも届くことはなかった。



終点から出てきたガノンドロフは、すぐさま屋敷の様子がおかしいことに気が付いた。元々異常事態に騒然としていた屋敷だったが、流れる空気に緊張が増しているのである。何事かと彼が頭を巡らすと、ちょうど廊下の端にブラスターを構えたフォックスとファルコが現れるところだった。

「あ、いた!」

ファルコが油断なく曲がり角の向こうを睨んでいるのに対し、フォックスは廊下の中程で佇むガノンドロフを見つけて安堵したような叫び声を上げた。状況が理解出来ず沈黙する魔王に向けて、彼は手招きしながら言った。

「アンタを探してたんだ!頼む、手伝ってく…」

「オイ、フォックス!後退するぞ」

が、フォックスの言葉が完全に終わる前に、意識のそれているリーダーの首根を掴んだファルコは廊下をガノンドロフのいる方向に猛進してきた。そうしてその二人を追うようにして現れたのは――。

「…リーデッド?」

腐った茶色い肌に、落ち窪んだ目やら何やらが申し訳程度に配置されている、人型の魔物。
本来はハイラルにしかいない魔物だが、マスターがイベントと称して時たま此方の世界に召喚することもあるので、屋敷住人には馴染みの敵キャラである。が。

「動き速くね!?そして数多すぎだろ!」

ガノンドロフの横に並んだファルコが叫ぶ。
リーデッドは、早い話がゾンビである。「おぉぉ」とか言いながら、ゆっくりのんびり歩いてくる典型的なアレだ。
しかしこのリーデッドらしき物体は、床を蹴り壁を蹴り、果ては天井までもを足場としてまるでゴムボールか何かのように弾みながら此方にやって来る。その数、ざっと三十。キモイ。廊下が茶一色に染まり、腐敗臭がつんと彼らの鼻孔を突いた。

「くそ!次から次へと湧いて来やがって」

フォックスまでもが舌打ちしながら低く罵る。次いで彼は実弾装填用の銃を取り出すと、先頭を走って来ていたリーデッドもどきの頭を吹き飛ばした。予測不可能な動きをするリーデッドもどきではあるが、フォックスの射撃の腕はそんなことで制限を受けはしない。ファルコも実弾の入った銃とレーザー銃の二丁構えで応戦する。
その間ガノンドロフがただ呆然と突っ立っていたかと言えば、そうではない。彼は頭上に巨大な魔法弾を掲げ、その魔力を最大限の威力が発揮出来るまでに溜めていたのだ。禍々しい黒の火花が爆ぜる。煌々と輝く光弾からは、抑えきれない魔力が溢れ出ていた。

「下がれ」

一言魔王が呟くと、フォックスとファルコはすぐさまその言に従った。飛び退る二人の姿を確認もせず、ガノンドロフは気合いの雄叫びと共に高められた魔力を前方に放出する。かつて勇者戦の折に使ったあの技である。当然回避の余地のないその魔力の奔流に、おぞましき者たちは為す術もなく飲み込まれていく。
その激しい閃光の嵐が過ぎ去った、凄まじい破壊の痕跡の残る廊下には、黒焦げになった残骸が重なるように転がっていた。

「やっぱりアンタを頼って正解だったな」

銃をホルダーにしまいながら、フォックスが言った。が、ガノンドロフはにこりともせず唸る。

「まだ武器はしまうな。それから何が起きたか言え」

「…礼ぐらい言わせてくれよ」

「馴れ合いは好まん」

フォックスの不満げな声も、ファルコの小さくない舌打ちも無視して、魔王は紅い瞳を破壊の痕跡残る廊下を見やった。その視線を辿って、ファルコ、フォックスの両名も気疲れしたような重い息を吐く。

「俺たちも訳が分からないうちに逃げてきたから、詳しいことは言えねぇが…」

そう前置きしてからファルコが語る(時々フォックスの補足があった)ことには、あのリーデッドもどきは突然屋敷の窓という窓を突き破り、屋敷住人に襲いかかってきたらしい。その数のあまりの多さと機動力の高さから接近戦は無理と判断した彼らは、ひとまず接近戦向きのメンバーの退路を確保する為に、遠距離戦の可能なメンバーが敵を引き付ける囮となって今まで逃げ回っていたのだ。囮となったのはフォックス、ファルコの二人のチームの他に、サムス、ミュウツーの二人組である。恐らく殆どのリーデッドもどきがこの囮を追っているはずで、それ以外のメンバーは窓の少ない地下に避難、待機しているのではないか――。

「地下に避難したのはあの時食堂付近にいたメンバーだけのはずだ。子供組とマルスたち、あとは…東館で洗濯してる奴らはどうなったか分からねぇ」

「子供か…」

面倒臭そう…いやいや、心配そうに魔王が溜め息を吐く。その後ばさりと自慢のマントを翻した魔王は、のしのしとリーデッドもどきの残骸の転がる廊下を突っ切りながら唖然としている雇われ遊撃隊の二人に命じた。

「ひとまず子供の回収に行くぞ。暇なら付いて来い」

「アイサー、リーダー」

二人は特に不満を漏らすでもなく、律義に敬礼をして魔王の後に続いた。

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