LUNATIC

*11

「ところでさ、ネスはなんでここに?」

だいぶ軽くなった場の雰囲気に、ロイの口調もくだけたものに戻る。しかしそれとは対照的に、ネスは刺々しさを一杯に含ませた声で答えた。

「僕は、ガノンのおじさんに言われて仕方なく…“仕方なく”様子を見に来てやったの!ホントは馬鹿王子なんてふてくされようが何しようが知ったことじゃなかったもん」

「あ…そう」

その返答に苦笑するしかないロイ。ネスは“ふん”と鼻息を荒くして、「じゃあ僕はプリンたちのところに行くから」と告げるとずんずんと廊下を進んでいった。が、マルスは穏やかな微笑を浮かべたまま少年の後に付いて行く。さらにその後をロイが追った。

「…なんで付いて来るの」

しばらく歩いてから、ネスが振り向かずにマルスに言う。ロイも同じ疑問を抱いていたようだが、マルスは何のことはないというようなさっぱりした調子で返した。

「行くところが同じだからさ」

「は…?何言って…」

「プリンに謝りに行こうと思ってね」

ネスが足を止めた。そして王子を振り返ってまじまじとその顔を見つめる。マルスが「僕の顔が何か?」と問うと、少年は王子の後ろの公子に言った。

「…ロイ、王子に何言ったの?」

「いや…プリンが、マルスの機嫌が悪いのは自分のせいだって大泣きしてたって話を」

「あぁ…」

ロイの返答に納得したように頷くネス。それでも王子を見る目は、奇異なものを見るそれである。それを見咎め、ネスを指差しながら王子は口を開いた。

「君、今何か失礼なこと考えてるだろう」

「え?別に…ただ王子に少しでも人間らしい常識が残ってたことにすごくびっくりしてるだけ」

「そうかそうか、よしネス君。そこに直れ、ファルシオンの切れ味をその身をもって味わうまたとない機会を与えてやろう」

「お願いだから、な?これ以上話をややこしくしないでくれ」

しかして、ロイの懇願は功を奏し、少年と王子はギスギスしながらも何とかプリンの待つ部屋に辿り着いた。



周りの子供たちが何を言っても、プリンは一向に泣きやまなかった。口から出るのは呪いのような「自分が悪いのだ」と主張する言葉。大人しくそれを聞いていた子供たちもだいぶ気が滅入っていた。

「皆?入るよ」

その時部屋の扉を開いてネスを先頭に、ロイとマルスがやって来た。プリンが怯えたように後退る。それをそっと子リンが阻んだ。
ネスとロイは同時にマルスを見る。それから三人の間で短い無言のやり取りがなされると、マルスが「分かってるよ」と呟いて前に歩み出た。
さらに大きく後退ろうとするプリンに加え、ピカチュウまでもが耳を垂らして王子を見上げる。
恐怖は伝染するらしい。

「…怯えないでくれ。僕は怒ってなんかいないよ」

ポケモン二匹が不安がらないよう、ある程度の距離を保った位置でマルスは膝を折ってしゃがんだ。

「さっきは当たり散らしてすまなかった。僕は誰かに怒っていた訳ではないんだ。ただ…あの時はどうかしてた」

『ごめ…なさいでしゅ…』

切々にプリンが呟く。が、マルスは小さく首を傾げた。

「何故謝るんだい?」

『プリン…のせいで、リンクしゃんが…』

「君のせいではないよ。…誰のせいでもないだろう」

優しく、しかしはっきりと言い切る王子。それにはプリンも黙りこくる。先までは呪詛のように呟いていたのが、魔法のようにぴたりと止んでいた。

「責任の在りかを問うことも時には必要だが、今はその時ではない。第一、今回の件は全てが不測の事態だった。責任など何処にも求めようがない。違うかな?」

『でも…でも』

「何ならリンクにそう聞いてごらん。彼も同じことを言うよ、きっと」

『…っリンクしゃんもマルスしゃんも、優しいから本当のこと言わないだけでしゅ!』

突然プリンが金切り声を上げる。子供たちはまたか、というように肩を落とし、ネス、マルス、ロイは驚いて閉口した。これが子供たちを困らせている堂々巡りの所以だ。
そんなはずはないと否定しても「悪いのは自分だ」と言い募り、マルスはそんなこと言わないと諌めれば「彼は優しいから本当のことを言わないだけだ」と反駁する。
口の回るネスが抜けた子供組は、先のようなヒステリックに叫ばれるプリンの言い訳にほとほと困り果てていたのだった。

『プリンが、もっと強かったら良かったんでしゅ。そうすればリンクしゃんがプリンを守る必要もなくて、リンクしゃんが捕まることだって…!』

「…それは違う」

反射的に、という様子でマルスが声を上げる。その弱々しい声音にロイとネスは小さく眉をひそめた。
が、プリンはなお一層声を高くした。

『違いましぇん!』

「君が負い目を感じる必要はない」

マルスは引かず、しかし表情は段々と薄くなり、俯きながら続ける。

「…強く在らねばならなかったのは、僕だったんだから――」

「マルス!」

その弱々しいマルスの囁きが終るか否かに、ロイが怒鳴った。はっとしたように顔を上げるマルス。「悪い」と即座に謝罪の言葉を紡ぐマルスだったが、それでもロイは眉間に寄った皺を消さない。
そのままプリンに視線を移して眉を吊り上げた。

「責任の有無の確認とか後悔なんて、今してる場合じゃないだろ!お前らリンクとクレイジーが心配なんじゃないのかよ!」

珍しく肩を怒らせ、プリンとマルスを叱り飛ばすロイ。マルスはうなだれて視線を落とし、プリンは唖然としてロイを見上げていた。
それでもまだ若き獅子は気が収まらないらしく、びしっと先の二人を指差して、高らかにこう宣った。

「金輪際、俺の前でその話をすることは許さん。分かったか!?」

『で、でも』

「“でも”はなし!」

短いロイの一喝。プリンは勿論、マルスもこれには素直に頷くしかなかった。

『はいでしゅ…』

「すまなかった」

普段なら絶対見られない立場の逆転――すなわちロイがマルスを叱り付ける図――は、傷心気味の子供たちの目にも十分滑稽に映り、しかし場の雰囲気が雰囲気なだけに彼らは込み上げる笑いを無理矢理噛み殺した。


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