世界よ、愛しています

*17

勢いよく振り抜かれた神剣が、逃げ惑う雑兵を薙ぎ倒す。その細腕のどこにそんな力があるのか、とメタナイトは半ば呆れてマルスの戦う姿に見とれていた。

抜刀したマルスをメタナイトが目にするのは、これで三度目である。
一度目は、初めて会った朝食の席で。この時マルスはリンクに不意打ちを仕掛け、大怪我を負わせた。が、そこには技巧やなにやらがあったはずもなく、メタナイトはただ王子を“危険な人物”だと認識していた。
二度目は、マルスがガノンドロフを人形化にまで追い込んだ時に。ここでメタナイトは初めてマルスと剣を合わせる。特別力強い訳ではない。しかし、受けた剣は非常に重く、何より速い。剣速に関しては並ぶ者無しと自負していたメタナイトは、考えを改めるに至ったのだった。

そして、今メタナイトの前で踊るように軽快なステップを踏んで敵を斬り伏せていくのは、蒼い王子――否、王子自身の言葉を借りるなら、“英雄王”である。流麗な剣は曲線を描き、鮮やかに敵を仕留めていく。

「それだけの力がありながら、今まで隠していたのか?」

負けじとメタナイトも愛剣を振るい、眼前の敵を屠る。マルスの刺突で纏めて三体の歩兵が串刺しにされた。

「今までの僕は死んでいた」

剣に刺さった死体を足蹴にして打ち捨て、振り向き様に宙に浮く目玉の魔物を両断する。
マルスは手の中でくるくると神剣を回した。

「現実を見なかった。あらゆることから逃げた。僕がすべきは、そんなことでは無かったというのに」
「…マルス殿」

そのまま血糊を払って神剣を鞘に収め、マルスはメタナイトを振り返る。既に敵は全滅していた。マルスの足下には、山のように折り重なった亜空軍の兵士たちが倒れている。
嗚呼、これが彼の英雄王たる所以、とメタナイトはその立ち姿を見て感嘆した。幾多の屍の中に立つ彼は、どこか物憂げで、そして気高い。
英雄王は、すぐさまきりと視線を移した。

「僕はこの爆弾を仕掛けた者を追っている。…一緒に来るかい」
「嗚呼、共に行こう」

言葉少なに声を交わし、マルスとメタナイトは走り出した。一旦は斬り伏せた亜空軍だが、いつまた増援が来るとも知れない。
メタナイトは、依然としてマルスを信頼してよいものか、決めかねていた。最悪怪しい素振りを見せたなら斬ってしまおうとまで考えていたが、マルスの働きは申し分なく、背中を預けるに足る実力を備えていた。それ故に、もし彼が敵だった場合、対処しきれる自信が持てず、全幅の信頼を置いてよいのか迷ってしまうのだ。
先導するように前を走るマルスの背を見つめ、メタナイトは考え込む。そんな時に、マルスが鋭く叫んで方向を変えた。

「いた!」

はっとしてメタナイトも反転して態勢を整える。その視線の先には、深緑のローブを頭から被ったものが、浮遊する円盤に乗ってぷかぷかと荒野を漂っていた。エインシャント卿である。が、それはこちらに気付くと回れ右して逃げ出してしまう。
よく見れば、その円盤の下にまたもや亜空爆弾を牽引しており、恐らく起爆させるのに最適な場所を探していたのだろう。

「逃がすものか…っ!」

一つ歯軋りの隙間から零れるように落ちた呟きの後、マルスはぐんとスピードを上げてエインシャント卿に迫る。
大きく開いていた距離を一気に詰めて、気合いの一閃を放つが、それはあと一歩のところで届かず空を斬った。
事情を知らぬメタナイトも、マルスに同調してエインシャント卿に追い縋る。翼のある分、マルスよりも肉薄出来るメタナイトだったが、エインシャント卿はローブに隠れた目からビームを放って彼を迎撃する。さすがに予想外過ぎた反撃にメタナイトは翼を撃ち抜かれ、地面に落下した。

「――卿!」
「大丈夫だ」

追撃態勢に入りかけていたマルスが、落下してきたメタナイトに安否を問う声をかける。が、そんなマルスにもエインシャント卿はビームを放ち、それはマルスの左足を掠めた。思わず膝を付くマルスに、エインシャント卿はオヤと首を傾げる。

「先程お会いした時よリ、随分と注意力が散漫デスネ。まさか当たるとは思っていませんデシタ」
「…言ってくれるじゃないか」

ファルシオンを支えに立ち上がり、マルスは再び剣を構える。メタナイトもまたその足元で身構えるが、エインシャント卿は戦意を失ったように視線を落とし、そして牽引していた亜空爆弾を地面に落下させた。
いつかのように古めかしいロボットが二体現れ、爆弾を起動させる。

「な…なにを…」
「先程、アナタは我が主の元へ案内せよと仰いマシタネ。その望みを叶えマショウ」

無感動に告げ、エインシャント卿は言った。

「タブー様もアナタに会いたがっておられマス」
「行動と発言が一致してないぞ。動けぬ我々を爆弾で吹き飛ばすのではないのか」

メタナイトが反駁する。イイエ、とエインシャント卿は体を左右に振った。

「この爆弾は殺戮を目的としていまセン。謂わば空間転移装置…世界を亜空に取り込むことを目的としておりマス」
「…亜空に、あいつがいる…」

マルスはエインシャント卿の言葉に呆然と呟いた。焦りを露わにするメタナイトとは違い、亜空に向かうことを寧ろ望んでいるようだ。
メタナイトはそんな彼のマントを引っ張り、怒鳴った。

「何を考えている、マルス殿!あのような者の言葉を信じるな!ここから逃げねば…っ」
「メタナイト卿」

マルスがメタナイトを見下ろす。その表情は、興奮に打ち震えているようでもあり、或いは激情を抑え込もうとしているようでもあった。ともあれ、並々ならぬ思いが、彼を亜空へと引き寄せているのは想像に難くない。
マルスは、ただ一言囁いた。

「行かせてくれ」

「ワタクシ、嘘は吐きマセン」

エインシャント卿が口を挟む。

「確かにアナタを亜空にお連れいたしまショウ。…そこでどうなるかまでは保障いたしまセンガ」

メタナイトは、マルスとエインシャント卿を交互に見比べた。言葉にならぬ憤りを、しかし仮面の下で飲み下し、彼はマルスと共にこの場に残ることを選んだ。

「乗り掛かった船だ、最後まで付き合おう!」

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