世界よ、愛しています

*16

没個性の亜空軍は、意外と多種多様な様相を呈していた。兵の数は多く、またその種類も豊富である。大鎌を搭載した戦車や、やたら回復の早い亡者など、マルスの見たことがない敵が殆どであった。
早々と彼らの口から有益な情報を得ることをマルスは諦めた。彼らは話の通じる生き物ではなかったのだ。仕方なくそれらを駆け抜け様に斬り捨てて、マルスは足を止めることなくひたすらに走り続ける。砦を抜けるのにそんなに時間はかからず、討ち損じもなく彼は荒野に降り立つ。そうして先の亜空爆弾が爆発した辺りまで辿り着き、ようやくマルスは足を止めたのだった。

「…爆弾?これが…」

自分たちを襲ったであろう亜空爆弾。しかし、それは彼が知る所の爆弾とはかけ離れていた。
立ち込めるのは、爆炎ではなく正体不明の輝きである。消えることなくゆらゆらと漂い、さながらそれは異空間への入り口に似ていた。また、爆発があった割に、爆炎の周囲には炎の痕も、地形が大きく変動した様子も見受けられない。そういえば、エインシャント卿は「この辺り一帯は、亜空爆弾により、亜空に切り取られる」と発言していなかったか――。

「――!」

深く考え込んでいたところに、突如殺気が降って湧いて、マルスは反射的に剣を振り抜いた。交差したのは金色の剣と眼差し。続けて二撃、三撃と繰り出されるのを、全て受けてみせる。強く剣を弾けば、突然の襲撃者は大きく飛びすさってこちらを睨んだ。

「これは貴殿の仕業か?」

凛々しいテノールでそう問うたのは、武装した小さな青い球体である。体の殆どを覆う白い仮面が表情を隠してしまっているが、発せられるのは明らかな敵意だ。
メタナイトが、マルスに剣を向ける。王子はきょとんとし、首を傾げた。

「そう見えるかい?」
「分からん。貴殿を私はよく知らない。信用していいものか、計りかねている」

嗚呼、とマルスは嘆息する。この世界に来てからの自分は、仲間の信用すら得られぬ程のことを為してきたのだ。この危急の事態に今更己の行動を後悔するなんて、馬鹿らしいにも程がある。
マルスは僅かながら逡巡し、結局メタナイトと同様に剣を構えた。敢えて冷ややかに笑い、高圧的に告げた。

「口で言ったって、信用出来ないだろう?だったら僕の剣に聞いてご覧よ。お前は信用出来るのか、ってね」
「…貴殿は…否、これ以上の言葉は不要」

二人は低く構えて睨み合った。荒野の砂を巻き上げて、温い風が通り過ぎる。
先に踏み込んだのは、マルスだった。強く地面を蹴って、下段から剣を振り上げる。メタナイトはそれを剣の腹でいなし、反撃に突きを繰り出す。それにもいち早く対応してみせたマルスは、メタナイトの剣の切っ先を体を反らしてかわし、空いた胴めがけて横薙を放つ。が、メタナイトは背中から生えた翼を羽ばたかせて回転し、難無く避ける。
剣速は、ほぼ互角。リーチの差で言えばマルスが有利だが、メタナイトはその体の小ささを生かした戦い方で隙を見せない。

「貴殿は何を思う!何故剣を振るう!」

叫びながら、メタナイトが剣を軸にして体ごと回転しながらマルスに突っ込んで来る。これはいなせぬと断じて、マルスは迎撃の構えを取った。

「失わない為に!」

叫びに叫びで応えつつ、マルスはカウンターでメタナイトを弾き返し、更にとどめを刺しに追い縋る。答える義理などありはしない――と頭の片隅で声がしたが、戦闘の興奮がそんな迷いをかき消した。拮抗する実力と、疑いの眼差しを向けつつも歩み寄ろうとする仮面の騎士に、マルスなりに応えた結果かもしれない。
マルス自身も気付いているのだ。世界を否定し、拒絶することの無意味さを。タブーが現れ、再び世界が窮地に陥ろうとしている。事実、マルスを庇ったアイクや、巻き込まれる形となったマリオ、サムスらは行方が知れない。それは腑抜けた自分が彼らの足を引っ張ったせいに他ならない。
予想外のマルスの返答にメタナイトが仮面の下で大きく目を見開いた。

「理想を!誇りを!」

理想は、常に現実とはかけ離れていた。誇りは、常にあらゆる行動の枷となった。そんな矛盾を吹き飛ばす為に、力が必要だった。故に、剣を振るう。

「そして、仲間を!!」

それまで追っていたメタナイトを飛び越え、マルスはその着地地点にいた亜空軍の歩兵を斬り捨てた。いつの間に現れたのか、二人はすっかり亜空軍に取り囲まれていた。更に亜空軍は次々と地面から湧き出て、際限がない。
マルスと背中合わせになるようにメタナイトが着地し、二人は死角を補いながら立つ。メタナイトが言った。

「先の無礼を許されよ。私は貴殿を誤解していたようだ」
「そんな話はここを切り抜けてからだ。ひとまず、僕の背中は貴方に預ける。…名前を聞いても?」
「メタナイトと申す。デデデ陛下より爵位を賜り、プププランドの治安維持に務めている」

凛々しい声で、ファンシーな地名を吐くメタナイト。マルスは小さく笑い、剣を構え直した。

「では、メタナイト卿。僕も改めて名乗ろう」

先の戦闘の興奮が、一時的にであるにせよマルスの中の何かを吹っ切らせた。この時、彼は絶望に嘆く亡国の王子ではなかった。

「僕の名はマルス。アカネイア大陸の王だ」

自信に満ちた朗々と響く声は、味方を鼓舞し、敵を畏怖させる。それまで囁くように喋るマルスしか知らなかったメタナイトは、思わずマルスを振り向いて見上げる。
マルスは、不敵に笑んで敵に斬り込んでいった。

「人は僕をこう呼ぶよ。――“英雄王”、とね」

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