ようこそ、世界へ

*エピローグ

転移装置に乗って屋敷へと戻ってきたマルスが最初に目にしたものは、終点の転送装置の前でそわそわと落ち着かなく彼らの帰還を待ち構えていた仲間たちの姿だった。恐らくずっと待っていたのだろう仲間たちは、しかしマルスの帰還にも声を上げず、お互いの出方を窺うように顔を見合わせている。
転送装置に乗ってからも相部屋の件で言い争っていたロイとアイクは、そんな周囲の様子に気が付かずに未だに声を荒げていた。それがますます仲間たちの混乱を招いているようだが、その方が「らしいだろう」とマルスは喧嘩の仲裁を放棄する。

「ただいま」

特に、先頭で心配そうに三人の様子を見守っていたマリオに、マルスはそう声をかける。マリオは大きく息を吸って、それを鼻から吐き出した。

「…きちんと仲直りしてきたか?」

言いたいことは他にもやまほどあっただろうが、過ぎたことをとやかく言うつもりはないし、何より晴れやかなマルスの表情を見ればマリオとてこれ以上言うべき言葉もないとの判断だろう。マルスは頷き、それから他の仲間たちを見渡し、言った。

「さっきは、ごめんね。取り乱して、喚き散らして…たくさん心配をかけた」

言ってから、マルスは思い出すように首を傾げ、照れくさそうに笑う。

「…こんな風に謝るのは、二回目だね。“この世界”に来たばかりのころ、世界に馴染めなくて当たり散らしていたあの時と同じ」
「…マルス」

マリオと同様に、一行を見守っていたフォックスがただただ深く頷いた。意外なことに、その後ろでは普段真っ先に置いていかれたことを抗議するトキが、この時ばかりは静かにマルスの言葉に耳を傾けていた。

「僕はずっと、思い返してみれば、前の世界にいたときから、ずっと…世界に馴染めていなかったのかも。ここに暗黒竜はおらず、ここに国はなく、僕は王ではないということを、知っていながら理解していなかった」
「…そうか」
「これからも、僕は色々間違えると思う。また怒ったり、喚き散らしたりするかも。だから…その時は、叱って、助けてほしい」

どこか気恥ずかしそうに、マルスは言う。だが、それをあざ笑う者は一人としていない。誰かを頼り、誰かに縋るマルスの姿こそ「この世界」での彼の最初の一歩なのだと誰もが分かっているからだ。
マリオは胸を張って拳を握って見せた。

「勿論、これからもお前が…いや、お前たちが暴走したときは、大人の俺たちが叱ってやるし、導く…のは、ちょっと自信ないけど、一緒に悩んで考えてやることはできると思う」

ししし、とマリオが歯を見せて笑う。見渡せば、立ち並ぶ他の仲間たちも同様の表情でマルスを見守っていた。
ああ、なんて自分は幸せ者なのだろう。マルスは嘆息せずにいられない。愛した世界が、同じように自分を愛してくれている。そうして許される。生きているだけで息苦しかった重責を、しばし忘れても良いのだと許し、与えるこの世界。
唐突に、部屋中に割れるような音量の拍手が鳴り響く。巨大な一対の白手袋が、パチパチと両手を合わせていた。マスターハンドとクレイジーハンドである。二人はそれまで事態を静観していたが、決して今回の騒動に無関心だった訳ではない。──積極的に関与しようという気もなかったことは事実だが。

「イヤー、良かっタ良かっタ!ミーンナ仲直り、ソレが一番!」

ケタケタと笑いながらクレイジーハンドが心底面白がっている様子でそう言った。口ではそう言うものの、彼女が寧ろ仲直りまでの過程を見て楽しんでいたことは明白である。とはいえ、観察は神々の本分である。それを批難することはできまい。
一方マスターハンドの方は、穏やかに慈しむような声音でマルスに告げた。

「おかえり、…いや、改めて、ようこそ、マルス君。この世界が君にとって、より良い世界とならんことを願っているよ」

勿論、マルス君だけではなく、皆にとってね、とマスターハンドは付け加える。これ以上を望むなんて、罰が当たるだろう──そう言い掛けて、目の前の白手袋こそが神罰を行使しうる創造神なのだと思い至り、マルスは一人で吹き出した。





[ 32/32 ]

[*prev] [next#]


[←main]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -