ようこそ、世界へ

*12

山賊たちは、卑下た笑いを浮かべながらアイクを取り囲んだ。全員が斧や剣を構えており、動物の毛皮や骨を被った襤褸のような出で立ちとは対照的に、その指には人から奪ったものか、或いは奪った金で買ったのか、ごつい宝石をあしらった金の指輪をはめている。既に一仕事終えた後なのか、剣の刃先には鈍く血脂がてかっている。来た方向からして街道から森に入ってきた様子。街道から尾行られていたかもしれない。ここまでは松明の明かりを目印にしてきたと思われる。
山賊の一人が肩に斧を担ぎながら、値踏みするようにアイクの姿を上から下まで舐めるように見つめた。

「よぉ、兄ちゃん。一緒に歩いてた金持ちそうな連れはどこに行った?あんた、用心棒なんだろ」

やはり、まだ明るいうちからつけ狙われていたのか、山賊たちはマルスやロイの貴族風の出で立ちを見て狙いを決めたらしかった。アイクは憮然とした表情で吐き捨てた。

「答える義理はない」
「つれないこと言うねぇ」

アイクは山賊の数を数える。見えるだけで7人。まだ森に隠れている可能性も捨てきれない。山賊たちはアイクの返答を聞くと何がおかしいのかげらげらと笑い、囲いを狭めるように距離を詰めた。

「まぁ、言いたくなるようにしてやるまでだ」
「一体どれだけ持つかな。前襲った村では、指を二本折ったところで傭兵の男が泣き出してなぁ」
「こういう自信のありそうな奴は、男としての尊厳をズタズタにしてやるのが楽しいんじゃないか」
「お前、本当にそれ好きだなぁ。女より男の方がいいってか?」
「ぎゃはは、可愛がってやろうじゃねぇか」

全く好き放題に言いながら、山賊たちはどうやって獲物を処刑するかで盛り上がっている。山賊というのはどうしてみなこうなのか、ともはや憐れみの境地でもって見返すアイクの表情をどう見たのかは分からないが、山賊の一人はアイクの剣を見て舌なめずりをした。

「お前さんは大した金も持っていなさそうだが…その剣だけは、だいぶ値打ちがありそうだ。護身用にしとくにゃ勿体ない」

無遠慮に剣に伸ばされる腕を、アイクは舌打ちして払い除けた。
おっ、と面白がるように山賊たちは色めき立つ。それまでは威嚇するように武器をちらつかせていた男たちが、途端に構え直して切っ先をアイクに向けた。

「おお?この数相手にやりあうつもりか、兄ちゃん」
「手加減してやれねぇからな、命乞いするなら今のうちだぜ」

下品に笑う山賊たちは、それでもいまだ余裕の表情である。アイクは僅かに目を細め、松明を地面に置くと剣を構えて溜息を吐いた。

「それはこちらの台詞だ。手足の1、2本、覚悟してもらうぞ」
「ははは、威勢のいい兄ちゃんだ…ッ!?」

見えない速度でアイクの大剣が振り抜かれ、最も近くに立っていた山賊の手から安物の鋼の剣が弾き飛ばされる。鋼の剣は道脇の木に叩き付けられて、真ん中からぼきりと折れる。驚いて己の手と折れた剣を見比べる山賊の鼻っ柱をアイクの拳が襲った。
倒された仲間の姿を見て、狼狽えた様子の山賊たちは足を踏み出すことを躊躇った。その隙を待ってやれるほど心の広くないアイクは、反対に一歩踏み出して剣を握り直す。

「な、舐めやがってぇ!!」

山賊たちは斧と剣を振り上げる。その屈強な肉体から振り下ろされる凶刃は勿論脅威だが、幾度と死線を潜り抜けてきたアイクからしてみれば全く殺意の籠らないお遊びに等しい軌道である。四方から無秩序に襲い掛かる斧と剣を、避けて、いなし、叩き折りつつ、山賊たちには蹴りを入れ、殴り、腕と足を斬り付けて、その機動を削いでいく。一人、また一人と重なるように倒れていく山賊たちを踏み越えて、ようやく立っているのが自分一人になったとき、アイクはやっと息を吐いた。全員が気絶していたり、武器を握れない状態になっていたりと、アイクの姿を見て怯えている風で戦意は喪失しているようだった。
さて、とアイクは松明を拾い上げる。これでひとまずはいいだろうと何とはなしに倒れる山賊たちの数を数える。…6人。一人足りない。

「逃げ出したか」

舌打ちしながら悪態を吐くアイクだが、胸騒ぎがして踵を返す。逃げ出す相手を追ってまでとどめを刺すつもりはないが、逃げた先に隠れるマルスたちがいては困る。大乱闘での戦いを見るに、ロイの腕を信用していない訳ではないが、山賊の仲間が他にいないとも限らない。数の暴力に対して、目の見えないマルスを連れて戦うことは困難だと思ったから、アイクはロイにマルスを託して一人で囮を買って出たのだ。
アイクは急いで元来た道を戻る。この明かりが、もしかすると逃げた山賊を呼び寄せてしまうかもしれないが、それでも近くにいてさえくれればマルスもロイも守れるだろう。近くにいてくれれば…とアイクが思い出していたのは、いつか父親が死んだあの日のことである。この時ばかりは自分たちが死の概念を持たない人形であることを忘れ、アイクはどくどくと嫌な速度で脈打つ鼓動を聞きながら、さらに走る速度を速めた。


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