世界よ、愛しています

*68

虹色に輝く階段は、豪奢な造りの巨大な両開きの扉へと続いていた。求める者を誘うように、その扉は僅かに開いていて、しかしその隙間から中を窺い知ることはできない。それでも、確認せずともこの扉の向こうにタブーがいると知れた。どうしようか、とマルスを足元から見上げて言うのはピカチュウである。いまだに合流できていない仲間はいるが、それを待っていてはここまで来た努力が水の泡だ。タブーの力が極限まで弱っているらしい今を置いて突入の好機は他にないと考えていいだろう。
傷は癒えた。仲間もそろっている。しかし、現状を打破する妙案はない。この一歩を踏み出して良いものか、マルスは決められずにいた。今や後ろに控える仲間たちは彼の判断に命を預ける覚悟がある。それゆえに勝利への確信を持てないまま、行動を起こす踏ん切りが付かないマルスだった。
このまま戦闘にもつれ込んだとして、再び先のように返り討ちに遭うのではないか。もしそうなったとき、今度こそマルスはタブーの魔の手から逃れ得る術を持たない。タブーも勿論無傷ではないことは知っている。亜空から得られる加護が極端に薄くなっているタブーを、叩くなら今しかないというのは百も承知だ。それでも、埋められない力の差をマルスは痛感している。不安要素が一つでもあるなら、突っ込むのは得策でない――
マルスが階段の前で立ち止まっていると、しかしその気配を察したようにざわざわと扉の向こうがどよめいた。悲痛な唸り声と、怒り狂った罵声と、歓喜の雄叫びと、聞こえてくる声はさまざまで、まるで大観衆がマルスらの入場を待ち侘びているかのようだ。それでいながら、亜空間そのものは侵入者の存在を拒むように、突如として雷鳴のような音を響かせるとぐらぐらと揺れて、階段の中段あたりからばっくりと裂けて二つに割れる。亜空は引きちぎられるように二つに離れていき、マルスたちを目指す扉からみるみる遠ざけていく。

「行かなきゃ!」

思わず飛び出したマルスは、空間の裂け目を飛び越えて階段を駆け上っていた。ここで見失ったら、次会うときはタブーが力を取り戻しているかもしれない。ほぼ同時に飛び出したのはアイクで、マルスがそうすることを予期していたように彼の隣に並ぶ。同じくマルスの足元にいたピカチュウはマルスの突然の動きに驚いたのか、ほぼ反射的に飛び出してしまった様子。少し遅れてマリオがその自慢の跳躍力でマルスの近くに着地して、リンクがその後に続く。徐々に広がっていく空間の裂け目は、彼らが元いた空間を蝕むように広がっていった。裂け目の向こうには亜空とはまた異質な色のない空間があり、そこへ落ちれば無事では済まされないことは想像に難くない。と、既に飛び越えるには遠すぎる距離に離れてしまった足場を、すさまじい速さで飛び越えてくる桃色の影が一つ。メタナイトに放り投げられて目を回したカービィが、振り返ったマルスの腕の中に収まった。

「貴公らは先に行け!私たちは他の道を探す」

言いながら、メタナイトは後ろに立ち尽くすネスやデデデを下がらせる。彼らの足元の床も見る間に崩れていき、どんどん狭くなっている。既にルイージは通ってきた扉を開けて、撤退の準備を整えていた。

「別にワシらの到着を待たなくても良いゾイ。華は譲ってやる」

大仰にふんぞり返ってデデデが続ける。不安そうな顔のネスが、「僕がいないんだから、怪我しないでよね」と消えそうな足場から身を乗り出しながら言った。
階段の中段でそれを聞いていたマルスたちは、しかしゆっくりその声に答える暇もなく階段を駆け上がることに集中した。虹色の階段は引き攣れる亜空に連動するように一段ずつ亜空の狭間に落下していた。
階段を一段上るごとに、待ち受ける扉は彼らを歓迎するように大きく扉が開いていく。その先に何があるのか、目を凝らして見る余裕さえない一同は、最後は飛び込むように扉の向こう側へと手を伸ばす。「兄さん、気を付けて〜」と妙に緊張感のないルイージの声援に背を押され、階段を上っていた面々は一人も欠けることなく扉の奥へと倒れ込んだ。

扉を越えた先で、一瞬マルスたちは重力を忘れた。ほとんど空中に放り出された格好になった彼らは、しかし上にも下にも落下することなく、呆然とその空間を見渡す。扉と同じく不思議な色合いに輝くそこはこれまで通ってきた亜空とはまた異質な空間で、その真ん中にタブーはぽつねんと佇んでいた。
タブーの姿を視認するのとほぼ同時に、重力が存在を思い出したかのように働き出して、マルスたちはタブーの目の前に着地した。淡く水色に発光する人型のそれは、マルスたちの姿を見て虹色の翅を戦慄かせた。

「どこまでも…思い通りに行かん連中だ…!あまりにしつこくて興が削がれる!」

地の底から響くような、それでいて雲の上から振るような威圧感の籠った声でタブーが唸る。びりびりと放たれる神の如きその重圧に、マルスは全身が寒気立つのを感じたが、隣に立つアイクとリンクが一歩進み出て剣を抜く。

「あんたの興など知ったことか」
「お前の相手にうんざりしてるのはこっちの方なんだよ」

マリオが拳を構え、カービィがハンマーを構え、ピカチュウが耳を立て歯をむき出しながら放電を始める。マルスの足が後退ることなどなかった。同じく剣を抜き、その切っ先をタブーのコアに向けた。

「僕の世界、返してもらうよ!」


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