世界よ、愛しています

*13

正体不明のそれは、深緑のローブに身を包み、円盤状の機械に乗って滞空していた。その機械には鉄色の球体がぶら下げられ、何となく滑稽である。目深に被られたフードの下からは、光る目が覗いていた。カービィが真っ先に進み出た。

「わぁ、はじめまして、ボクはカービィ。君はなんて名前?」
「はじめましテ、カービィさン。皆はワタクシを“エインシャント卿”と呼びマス」
「へぇ、メタとお揃いだね!」

突然現れた謎の人(?)物 に、しかしカービィは満面の笑みで応える。お揃い、というのは「卿」という称号を指してのことだろう。それを見ていくらか警戒心の解けたらしいマリオが、続けて問うた。

「一体何の用かな?出来ることなら喜んで協力するが」
「えェ、ありがとうございマス。実は人を探しているのデス」
「人を?」

ヨッシーが首を傾げた。彼らも現在進行形で人を探しているのだが、エインシャント卿と名乗るそれが挙げたのは、人の名ではなかった。

「破壊の神を探しておりマス。クレイジー、とも名乗るそうデス。ご存知ありませんカ?」
「クレイジー?」

この場の全員が頭上に疑問符を飛ばした。スネークがサムス、マリオと順に視線を送るが、二人ともがさぁと肩を竦める。スネークは最後にエインシャント卿を見やった。

「悪いが、俺たちの知り合いにそんな大それた神様はいないな」
「おヤ?」

が、スネークの応答に満足しなかったのか、何故かエインシャント卿は食い下がった。

「知らないはずはありまセン。“我々”に秘匿したところデ、アナタがたに有益なことは何も無いと思いマスが」
「…何を仰っているのやら分かりませんね〜。私たち、知らないものは知らないですよ」
「破壊神を庇い立てするおつもりデ?」

所作は丁寧ながら、エインシャント卿は半ば脅すような言葉運びである。ただし、その口調に感情はこもらず、どこまでも機械的だ。
ヨッシーが間伸びした声で答えても、エインシャント卿は納得しなかった。

「方舟襲撃の折、創造神はその力を破壊神に与エ、破壊神を逃がしマシタ。“我が主”は破壊神が持ち逃げした“創造の力”を欲しておいでデス」
「方舟…?お前の主とは誰だ?そもそも、一体何の話を――」
「残念デス。あくまで我々に抗うおつもりのようデスネ。然らば、手荒な方法に移らざるを得ませン」

エインシャント卿はアイクらの言うことなどほとんど聞かず、徐に今までぶら下げていた球体を地面に落下させた。全員が訳も分からずその様子を見守る中、突然森の中から二体の古めかしいロボットが現れ、関節の少ないアームをその球体の左右に用意されていたドッキング部分に挿入する。次いで彼らはその腕を体ごと後ろに引き、球体を覆う金属を真っ二つに割開いた。
中から現れたのは、青っぽい光を放つエネルギーの塊と、徐々にカウントを減らしつつあるデジタル時計の電光板である。
その様は如何にも――

「ば、爆弾?!」
「えェ、亜空爆弾、といいマス」

ルイージの悲鳴に、エインシャント卿は少しも物怖じすることなく淡々と答える。舌打ちしてサムスとスネークが銃を構えるが、やはりエインシャント卿は感情のこもらない声音で言った。

「隠すというナラ、炙り出すまでデス。…大人しく協力して頂けれバ良かったの二」
「だから知らないって言ってるでしょ!この世界には破壊神なんていないわ、いるのは創造神マスターハンドだけよ!」
「…おヤ?」

再びエインシャント卿は何かに引っかかったような声を出した。逆にその反応に面食らったサムスが黙ってしまう。
エインシャント卿は独りごちた。

「おかしいデスネ、創造神は方舟で我が主に敗レ、今や捕らわれの身。この世界を訪うことは不可能なハズ。…否、もしやアナタがたの言う創造神とハ、破壊神なのデハ?」
「な、何を言って…?」

唐突にエインシャント卿に問われ、しかしその意図するところが全く分からず黙り込むしかないマリオたち。デジタル時計のタイマーはすでに二分を切っていた。
そこに第三者の気配を感じ、エインシャント卿含め全ての視線がそちらに向いた。木々に隠れた低い位置から声が響いた。

「あぁ、良かった!皆さん、マルスさんを見つけまし…あれ?どうかなさいました?」

背の低い木々の掻き分け、四苦八苦しながらオリマーが姿を現す。その後ろにはピクミンに先導されて歩く王子の姿がある。王子は仲間の顔を見て一瞬表情を引きつらせたが、しかし次いでエインシャント卿とその足下に転がる亜空爆弾に眉を顰めた。
エインシャント卿もまた、フードの中の光る目で王子を見た。そして、突然声を上げた。

「嗚呼!もしかシテ、アナタが方舟の生き残りノ」

エインシャント卿の発言に、王子は大きく目を見開いた。僅かに唇が動いたが、声を発するには至らない。明らかに何か知っている風な反応は、寧ろアイクらを驚かせた。
エインシャント卿は続けた。

「方舟の生き残リ、マルス王子。アナタのお噂はかねがネ、我が主はアナタを逃したことを酷く悔やんでおいでデス」
「な…何故、方舟のことを…?いや、君の主って、まさか――」

震える声で王子が問う。その顔は青ざめ、今にも倒れてしまいそうだ。エインシャント卿はそんな王子の様子にもなんら興味を示すでなく、勿体ぶるでもなく、淡々と言葉を紡いだ。

「えェ、我が主は禁忌の名を冠す亜空の覇者。タブー…と名乗っておられたと思いマス」
「――!」

王子は声にならない悲鳴を上げる。のろのろとその手が腰に差した神剣に伸びるが、しかし抜刀には至らなかった。エインシャント卿は王子の動きを見咎めることもなく、機械的に続けた。

「改めて問いましょウ。方舟の唯一の生き残りであるマルス王子、創造神に力を託された破壊神ハ、何処へ行きましたカ?」

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