世界よ、愛しています

*星の戦士の話

「ねぇえ、起きて」

幼い声と共に体を揺すられる感覚。遠く、聞き覚えのある声がぼんやりと頭の中に残っていたが、それも次第に薄れていく。目を開けると、ピンク色に視界が染まる。もう一度瞬くと、それが見慣れた仲間の姿だと気づいた。

「カービィ」
「良かったぁ、アイク。目が覚めたんだね」

カービィはアイクの肩口から降りてにひひと笑った。アイクは徐に体を起こし、辺りを見渡す。いつか足を踏み入れた亜空間に自分が横たわっていることが分かる。ようやく直前の状況を思い出し、アイクは飛び起きた。亜空に入った。タブーと遭遇した。訳も分からない内に意識を失った。

「アイツはどうなった!?タブーは…マルスは?」
「知らない。ねぇ、メタナイトはどこ?」

アイクの問いに、カービィもまた問いで返す。二人の間に沈黙が流れること数秒、どちらともなく落胆したように肩を落とす。要するに、二人ともお互いの知りたい情報を持ってはいないのだ。

「ボクね、ドラグーンでタブーを押し出そうとしたんだけど、返り討ちに遭っちゃったみたい」
「そうか」
「多分、フィギュアに戻ったんだと思う。でも、このブローチで復活できたみたい」
「そうか」

このブローチ、と言いながらカービィが口の中から取り出した何かを、敢えてアイクは詳しく確認しなかった。それでもぽつぽつと喋る星の戦士に、普段のような覇気はない。アイクがマルスを探しているように、カービィもまたメタナイトの身を案じているのだろう。項垂れるカービィの頭部と思しき部位に手の平を乗せる。想像以上にやわらかい感触が心地よい。

「探しに行こう。フィギュアに戻っているなら身動きも取れないだろう」
「あ…うん!そうだね、行こう!」

自分が気遣われていることを敏感に察したのか、星の戦士は声を張り上げて笑顔を見せた。

当てもなく亜空間を歩く二人は、程無くして仲間の手掛かりを発見した。発見はしたが、しかしそれは彼らの表情を一層曇らせるものでしかなかった。

「マルスの剣、だよね」

カービィが恐る恐る手を伸ばして触れる先にあるのは、間違いなく彼の愛刀ファルシオンであろう。その白刃は薄暗い亜空の中でなお輝きを失わず、燐光を放っていた。
一方で持ち手の部分はべったりと血に塗れ、剣の主に何が起きたかを物語っている。
タブーに一瞬でフィギュアに変えられたアイクらと違い、マルスは仲間たちが倒れたあとも必死に抵抗したのだろう。その結果がこの剣だとすれば、マルスはタブーに敗れ、世界は既にタブーの手に堕ちたということではないか。最悪の事態をアイクは想定したが、カービィは寧ろ感心したようにファルシオンを持ち上げ、その刀身を見上げて言った。

「マルス、うまく逃げたんじゃないかなぁ」
「なに?」

カービィはアイクを見上げ、その不安げな表情を前ににししと笑った。

「マルスが死んじゃったら、この剣、残らないと思うんだよね。だってこれはマルスの“一部”だもの」

なるほど、と妙に納得してアイクはカービィからファルシオンを受け取った。マルスのみが扱える神剣、それ故にこの存在自体がマルスに帰属するといっていい。つまり、この剣が残っている限りマルスの生存する確率は非常に高いのだ。無論、タブーが彼を拷問の為に生かしておく可能性もある。事態は楽観できないが、それでも。
柄は血塗れて未だ渇いてすらいない。それほど時間の経過はないように見えた。ならばまだ希望は潰えていないはず。

「それに、もしマルスが捕まってるなら、もっと世界はタブーの思い通りになってると思うんだ。僕たちはこんな風にウロウロできてないと思わない?」
「カービィ、お前の言葉は説得力があって反論の余地がないな」
「えへへ」


[ 82/94 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -