世界よ、愛しています

*54

ファルコンフライヤーが脱出用の通路から飛び出すのとほぼ同時に、その残像を追うように亜空爆弾の爆炎がエインシャント島の中心部から炸裂した。その規模たるや、これまでの比でなく、雲一つない晴天に浮かぶ島は瞬く間に消滅して世界を歪め、太陽すら覆い隠す禍々しい霧を発生させ、空は暗転した。
世界に穴が開いたのだ。
穴の向こう側は確かめるまでもなく亜空間。光の一切差し込まない穴のさらに奥深く、世界を虎視眈々と狙う亜空の覇者の存在がこちらを見つめている。
呆然と故郷と仲間たちの最期を眺めているしかなかったロボットに、一同はかける言葉もなく黙りこくるしかない。いかにマルスの説得が功を奏して――あれが説得というのかは甚だ疑問だが――ロボットが落ち着いたとはいえ、彼の故郷とその仲間たちが理不尽な暴力に晒され、こうして消えゆく事実は変わらない。そんな鬱鬱とした空気を感じ取ったロボットが、仲間の形見となった切断されたアームを抱きしめながら言う。

「私の世界が踏み躙られたまマ、これを看過することはできまセン。亜空からの侵略者を倒さんとする勇敢な方々、どうかその戦線の末席に私も加えてくだサイ」
「貴方は敵の幹部だった。その情報がこちらの手に入るなら、こんなに心強いことはないわ」

ロボットの悲壮な気遣いを無下にすまいと、サムスが努めて明るく言った。ロボットは恐縮したように頭を垂れる。ドンキーは安堵の溜息を吐いた。
少し船内の空気が軽くなったのに乗じてピカチュウが操縦桿を握るファルコンの肩に飛び乗る。見ても分からない針路盤を見て、ピカチュウは尋ねた。

「ファルコン、僕たちはどこに向っているの?」
「ここから西の荒野だ」
「どうして?」

首を傾げる彼が振り返ったのはマルスである。ファルコンに針路の指示を出していたのは彼だと知っているピカチュウだった。マルスが答えた。

「みんなと合流するんだ。マリオやリンク、フォックスたちと、ここで落ち合う約束をしていた」
「みんな見つかったんだ!」

嬉しそうに耳を立て、ピカチュウが目を輝かせた。亜空に足を踏み入れて再会した際、誰より仲間割れに心を痛めていた彼である。その喜びも一入だろう。
無論、喜んでばかりいられないことは彼らも重々承知である。そもそもエインシャント島の爆発は不幸な事故でなく、意味のある戦略の一環だったことをサムスたちが暴いている。大量の亜空爆弾の誘爆により、世界に亜空と繋がる穴が開いた。これをどう使うつもりなのかロボットは聞かされていなかったようで、サムスが言いにくそうにその内容を告げた。

「亜空間で、戦艦を造っていたそうなの。亜空爆弾と同じ効果をもつ光線を無限に放つ主砲をもった…亜空砲戦艦、と呼ばれていたそうね。それを外の世界に出すために、亜空の穴を開けたって」
「……」
「ご、ごめんなさい。気を悪くしたかしら…」

サムスの言葉にロボットはイエ、と無機質な声で返す。ロボットはきゅる、と小さく駆動音を響かせて、首を傾げるような動作をしてみせた。

「亜空爆弾の原理ハ、亜空でのあのお方――タブーの力をこちらの世界に持ち運び、干渉させる謂わば変換装置のようなモノ。タブーは亜空において絶対的な支配者ですガ、こちらの世界ではそよ風一つ起こせない“存在しないもの”に成り果てるのデス。それゆえに我々の科学技術に目を付け、自分の力を世界に干渉させる手段を造らせまシタ」
「…そうだったのか」

マルスが呟くと、ロボットは頷いて続けた。

「亜空砲戦艦…私の与り知らぬ計画でスガ、サムスさんの話から推察するニ、原理は亜空爆弾と同じでショウ。亜空爆弾の外殻は我々が造りマスガ、中のエネルギーはタブーの用意したものデス。ツマリ、亜空砲のエネルギーはタブーの力に他ならズ、そのエネルギーの供給はタブーが行わなければならナイ」

アイクやドンキー、ディーディーは目を白黒させて話を聞いていたが、ファルコンがははぁ、と薄ら笑うとロボットがそちらを振り向いた。ファルコンがロボットの言葉を継いだ。

「分かってきたぞ。物騒な光線をまき散らす戦艦だが、その動力は悪の親玉自身である可能性が高い…そう言いたいんだろ?」
「おっしゃる通りデス」

亜空爆弾と同様の効果を持つ光線を、無限に撃ち続けることができる主砲。そんなものが戦艦に据え付けられ、世界を悠然と闊歩されたのでは堪ったものではない。だが、その無限という前提がそもそも有限の世界であるこちらの常識にそぐわない。では何故そんな性能を謳っているのか、単に誇張表現なのか――否、とロボットは答える。タブーにとっては無限なのだ。亜空にいる限り、真実彼の力は無尽蔵で何の制約も受けないのだから。
ここで思い出したいのは、タブーがこちらの世界においてはそよ風も起こせない無力な存在だということだ。亜空砲戦艦にタブーが乗り込み、無限のエネルギーを供給し続けるという話は、戦艦が亜空にあって初めて成り立つ。
そこまで考えて、ああそうか、とマルスが呟くと、皆の視線が彼に集まる。ロボットが言わんとしていることを早々と察した彼が、言葉を続けた。

「向こうの切り札らしい亜空砲戦艦は、タブーが乗り込んで初めて真価を発揮する。けれど、あいつを乗せてこちらの世界に出てくることはできない…あれはこちらの世界で力を持たないからだ。では何故あいつは世界に穴を開けたか?戦艦を世界に出すためじゃない。主砲を世界に出すためだ。戦艦の半分は亜空に残し、自分はそこからエネルギーを供給して、世界に向けて攻撃するつもりなんだ」
「な、なんだか想像するとマヌケだなぁ」

拍子抜けしたようにぼやくディーディー。一番効率的に力を発揮できる手段を得て、タブーの脅威が一層大きくなった事実は変わらない。が、サムスもディーディーに同調するように頷いた。

「それってつまり、的が動かないってことでしょう」
「それだけ隙を晒しても問題ない対空戦闘力があるって自信の裏付けにも思えますがね…」

オリマーの慎重な意見に、それでも叩く価値はある、とファルコンが言う。

「だったらなおさらあいつらとの合流を急がないと。反撃する前にこっちの世界が全部亜空に飲み込まれてたんじゃ、笑えないからな」


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