世界よ、愛しています

*団長の話3

追い縋る敵勢を斬り倒し、蹴り倒し、アイクは退路を守っていた。
逃げることを望まないロボットに関しては、ある程度予想はできていた。予想していたからこそ、説得は不可能だろうと踏んでいた。生きる希望のないものを無責任に生かしてどうするのか、との問いにアイクは答えを持たない。だが、無為に死なせてやれるほど、アイクは他人に無関心でもなかった。
向ってくるのは亜空軍だけではない。強制コマンドを出され、それに従うしかない量産型ロボットたちもまた多くいる。だが、それらにいちいち同情している暇も余裕もないのだ。アイクは一刀両断にとあるロボットのアームを斬り捨てる。凄まじい衝撃に螺子が飛び、バチバチと電流が迸る。が、刹那それは許しを乞うように残った腕で頭部を庇った。

「すみません、待ってくだサイ。もう攻撃しまセン」

とどめを刺そうとしていたアイクの剣がすんでのところで止まる。

「喋るのか、あんたたちは」
「強制コマンドが解けました。マスターは、マスターロボットはご無事でスカ」

聞きなれない単語にアイクは首を傾げる。が、即座に思い至ったのはエインシャント卿を名乗っていたあのロボットだった。

「…無事だ。ここから連れ出す」

言ってアイクは背後でドンキーに担がれたロボットを示した。壊れかけの量産ロボットは、安堵したように構えを解いた。

「ああ、良かった。ありがとうございマス、ありがとうございマス…」
「あんたも自分の意思が戻ったなら一緒に」
「それはできませン」

穏やかな、しかしぴしゃりと断ち切るような声で量産型ロボットはアイクの誘いを断った。

「我々のコアには亜空爆弾が内蔵されていマス。これは危険なものデス、ここで処理しなければならナイ」

その声に悲壮な決意を感じ取り、アイクはそれ以上を言えなかった。ですが…と量産型ロボットはおずおずと申し出た。

「ワタシは共に行くことはできまセン、しかし…せめて体の一部だけでも、マスターと共に連れていってはもらえないでしょうカ」

言って量産型ロボットは、先ほど斬り落とされた自分のアームを拾う。遠慮がちに差し出されたそれを、アイクはしっかりと握り締める。本来、ロボットたちは感情を理解しえないものだとアイクは知らない。

「分かった。必ず、共に連れていく」

そうして交わす、幾度目になるか知れない約束。一体そのいくつを果たせたのか、破ってきたのか、それを知るのはアイク本人だけだ。

背後で自分を呼ぶ声がする。マルスのものだ。とうとう脱出の準備が整ったのだ。アイクは再度目の前の量産型ロボットを見た。それは懇願するように頭を垂れた。

「ありがとうございマス…」
「…、…あんたの遺志、無駄にはしない」

謝りそうになった声をなんとか飲み込んで、アイクはそう告げると踵を返した。アイクが走り去ったそのあとも、礼を言い続ける量産型ロボットの声が確かにアイクの耳には届いていた。


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