世界よ、愛しています

*52

魔王の声が轟くのと同時、量産型ロボットたちは一瞬すべての動きを停止した。かと思えば、それまでアイクの足止めをしていたことなどすっかり忘れてしまったように、今度は大量に並べられた亜空爆弾に向っていく。と、その前に進み出る者がいる。ロボットである。エインシャント卿と呼ばれ、緑のローブに身を包んだそれは、ガノンドロフから奪い返した起爆装置を握り締め、叫んだ。

「もう…もうおやめなサイ!起爆装置は取り返しまシタ、貴方タチがあの男に従う理由はないのデス」

その悲痛な叫びにも足を止めるロボットはいない。

「やめなさイ、やめなさイ!そんなことをしたラ、この島は…私たちは…!」

説得は不可能と悟ったか、エインシャント卿は亜空爆弾に近づく仲間のロボットたちを力ずくで押しのけようと体当たりを試みる。その行動がロボットたちに敵対者と認識され、任務遂行の障壁になると判断されたのだろう、次の瞬間には量産型ロボットたちからレーザービームの集中砲火を浴びる結果となってしまう。レーザーに焼かれた彼のローブは燃え上がり、炎に包まれる。そんな炎の中から、それでも依然として仲間に呼びかけるロボットの声が響くが、その横を通り過ぎて、量産型ロボットたちは積まれた亜空爆弾にアームをかけていき、次々とその時限アラームが音を立て始める。
のみならず、魔王が腕を振ると鋭い嘴をもった鳥のような亜空兵アロアロスが出現し、立ち尽くすアイクたちを目指して飛んでくる。

「あなたという人は…」

恨みを込めて、というよりも憐れむように魔王を見つめ、マルスが呟く。魔王はふんと鼻を鳴らした。

「敵相手に随分と余裕だな。この消えゆく島から今度はどう逃げ出す算段だ?」
「僕一人じゃ、ロボット君を担いで脱出するのは難しそうだ」
「では、亜空で貴様が創造神の前に引き出されるのを楽しみにしているぞ」

それだけ言って、魔王は転移魔法でその場から姿を消した。それを見計らったようにサムスがマルスに駆け寄り、急き込んで問うた。

「本当にどうするつもりよ…!やっぱりあの子は置いてくしかないの?」
「……」
「ちょっと!」

マルスの肩を掴んでサムスが叫ぶ。ガノンドロフが帰ってくれたのは不幸中の幸いだったかもしれない。しかし、結果として亜空爆弾は起動し、ロボットを助けるマルスの算段は失敗に終わったと言ってよいだろう。
燃え盛る炎の中で、ロボットは立ち尽くしていた。それまで姿を隠していたローブは全て焼け落ち、ほかの量産型ロボットと変わらぬ姿のロボットがいる。が、アイクは黙々とその傍に近寄ると、自分のマントを外してロボットの炎を消そうと叩き始めた。そんなアイクに量産型ロボットが襲い掛かるが、ピカチュウの電撃がそれをいなし、アイク自身も持っているラグネルで容赦なく敵対する量産型ロボットを斬り捨てる。

「嗚呼…やめてくだサイ、もう彼らを傷つけるのハ…」

為されるがままになっているロボットが呟く。しかしアイクは少しも手を緩めずに答えた。

「あんたを傷付けることも、奴らの本意じゃないだろう」
「――誰にそれが分かろうと言うのでスカ!意思さえ奪われた彼らの言葉ヲ!」

ついに炎は消されたが、ロボットは既に動く意思がないように見えた。握り締めた起爆装置は焼けて溶け落ち、今更こんなものに何の意味があったのかと恨みごとを言わずにはおれない。アイクやマルスには感謝している。だが、こうなってしまった以上、この島の爆破も仲間たちの大破も免れない。ロボットの世界は終わりを告げたのだ。

「貴方たちはお逃げくだサイ…この島は間もなく跡形もなく消失するでショウ」
「そんな、一緒に逃げようよ」

ピカチュウがおずおずと切り出すも、ロボットは首を縦に振らなかった。

「私は共には行きませン。仲間たちを置いてはいけませんノデ。…貴方がたには…感謝していマス、私の願いを聞いてくださッテ、本当に…」
「悪いがあんたの言葉に付き合ってる暇はない。ピカチュウ、残り時間は何分だ?」

アイクはロボットの言葉を途中で遮り、ピカチュウを振り返った。聞かれたピカチュウは慌てて手近な亜空爆弾のタイマーを覗く。

「えっと、ここのは4分…みたいだね」
「仕方ない。力ずくで連れていく」

言うやいなや、アイクはロボットを肩に担ぎ上げて走り出した。驚きと、次いで怒りとで悲鳴を上げるロボットと逃走を図るアイクの両名に敵意を向けた亜空軍が襲い掛かるが、それにはピカチュウが電撃を見舞う。

「何をするんでスカ!降ろしてくだサイ、降ろして!」
「暴れるな」
「私一人生き残っても何も残らナイ!彼らをこんな目に遭わせたのは私なのに!最期くらい寄り添わせてもくれないのデスカ!?」

アイクの肩の上で暴れるロボットの抵抗は激しく、思わずアイクがよろめく。と、その肩からロボットを奪い去るものがいる。長身のアイクがさらに見上げる上背に、毛むくじゃらの筋骨隆々の身体――ドンキーだ。

「オレが運ぶ」
「頼む」

突然の助勢に驚くこともなく、アイクはすんなりとドンキーにロボットを受け渡す。ピカチュウも良かった、と安堵の溜息を漏らす。そんな彼らを先導するように、吹き飛ばされた出口に立つのはマルスとサムス、そしてファルコンとディーディー、オリマーである。サムスがこの島からの脱出の為に前々から呼んでいた迎えだ。サムスの持つ情報端末で連絡は密に取られ、今日日も脱出の手引きのために島内に潜入、すぐさま飛び立てる用意はできていた。

「これで全部か?」

点呼を取るようにファルコンが問う。まだ後方でアイクやピカチュウが追撃してくる亜空軍の相手をしているが、呼べばすぐに追いつくだろう。

「残念ながら、これですべてだ」

答えるマルスの表情は固い
いまだロボットの抵抗はやまず、しかしドンキーの力の前にはそれも意味をなさなかった。はぁ、と小さく溜息を吐き、ファルコンは入口の向こうに広がる深い穴を指した。

「俺の愛車が待ってる。飛び降りるぞ!」


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