世界よ、愛しています

*50

「…だから、僕たちはガノンドロフからここのロボットたちの制御装置と起爆装置を奪う必要があるんだ」

これまでの道のりと様々な因縁、タブーの存在、影虫、エインシャント卿、と知りえるすべてをサムスとピカチュウに話し、マルスはこれからの指針を叩き出す。ならば、ガノンドロフの隙を付いて奪ってしまえばよいだろうというマルスの楽天的観測を、しかしサムスは打ち砕いた。
彼女は言いにくそうに言葉を濁らせる。

「ええっと…多分、それ、無理なんじゃないかしら」
「?なんでだ、やる前から」

アイクがやや不機嫌そうに問い返す。それにはピカチュウが答えた。

「僕たち、ずっとここでこの基地のこと調べてた。ここで働くロボットの秘密、サムスが調べてくれたよ」
「秘密?」

マルスがサムスの方に向き直る。なんでもはっきりものを言うサムスが、このときばかりはとても歯切れが悪かった。

「ええ…あの、仕方のないことだと思うの…多分、エインシャント?そのロボットは、騙されていたのね」
「騙される?」
「だって…ここのロボットに埋め込まれた亜空爆弾は、時限式なの」

次なる質問を用意していたはずのマルスは、しかしその一切を忘れてサムスを見た。

「時限…式…」
「起爆装置なんてない。化学反応を使った時限爆弾で、いつそのタイムリミットが来るか分からない。だから私たちはここを立ち去るつもりでここにいたのよ。…リドリーに邪魔されて今に至るけど」

思わず言葉を失うマルスに、ピカチュウが続ける。

「ガノンおじさんは、そのこと知ってるんだよ。だって、それを調べてほしいって言ったの、おじさんだもん」
「…あの魔王が?そんなはずは」
「おじさんは、誰かに仕えたりするのは嫌いなんだよ。だから、マスターのこと、裏切って自分が一番になりたいんだって」

アイクの不信も、ピカチュウの気の抜けた説明が拭い去る。なるほど、野心家の魔王らしい理由。もっともそれだけではこの茶番に付き合っている説明にはならないが。くそ、とマルスは口汚く吐き捨てた。

「あいつは…タブーは、一体どこまで人を弄べば気が済むんだ…!」

最初から、タブーはこの島を使い捨ての駒にするつもりだった。起爆装置と制御装置を餌にしてエインシャントを傀儡にし、無様に足掻くさまを見て楽しんでいた。きっとこのように謀反を起こされることも想定済で、そのときは真実を明かし、更なる絶望の淵に叩き落とす心算だったのだろう。気まぐれに痛めつけ、貶め、辱め、そして用済みになったら捨てるのだ。

「それだけじゃないよ」

ピカチュウは遠慮がちに口を開く。

「ここに残ってる亜空爆弾、あれをロボットたちを起爆装置にして島ごと爆発させて、マスター…いや、タブー?…は、世界に穴を開けるつもりなんだ。そこから、世界をさらに亜空に取り込むっておじさんが」

告げられる事実に、マルスは頭を抱える。タブーの世界への侵攻はそこまで進んでいた。これを止めれば大きな戦果だが、しかし人の身で仕組みの分からない時限爆弾を止めようなんてどんなに希望観測的に見積もっても不可能だ。だが――。

「…魔王は、なぜ今ここに来たんだろう?」

誰かに問うているというよりは、自分自身に問いかけているようである。サムスが答えた。

「反抗的なロボットに対する牽制じゃない?」
「そうだろう。でも、魔王はここのロボットたちが時限爆弾であることを知っている。最悪の場合、ここが爆心地になるかもしれないことも。なのに、敢えて?」
「…俺たちが来たからじゃないか」

アイクが腕組みしながら言う。その発言にマルスは目を見開いた。

「そう。僕たちをロボット君が連れてきた。僕たちは本来このままタブーに引き渡されるはずだった。だがロボット君はタブーを裏切り、それを当然魔王も予期していたはずで――ああ、不味い、分かったぞ!」

縋り付くようにアイクの肩を掴んで揺らし、悲愴な面持ちのマルスが叫ぶ。何が何だかちんぷんかんぷんな残り三名の様子に、やっと我に返った様子のマルスがいくらか落ち着いた様子で続けた。

「タブーは、ロボット君の謀反を当然予期していたはずだ。そのために彼だけは人格を残し、制御装置も付けず、人質を取って命令に従わせていたんだから。そうなれば、次にタブーがすることは何か?――起爆装置の種明かしだろう」

ひどい、とピカチュウがこぼす。そう、酷いとしか言いようのないことをあの悪魔は最初から仕込んでいたのだ。最初から、起爆装置なんてものはなかった、お前のしていたことは全くの茶番だった、そうロボットに告げ、この島は失意のままに亜空の塵となる。――タブーが来たら、の話だ。
この島に先に来たのはガノンドロフだ。ガノンドロフはこの島の存在意義も、タブーの仕組んだ無意味な暴虐にも気づいたに違いない。そうしてロボットの謀反の可能性をいち早く感じ取った魔王は、この島に来た。

「魔王は、タブーに種明かしの暇を与えずにこの島を爆破する気だ」

起爆装置をもった魔王が、気まぐれにその装置を押す。そうしてロボットたちは無慈悲な魔王の気まぐれで命を散らす――そういうことにするつもりなのだろう。結果として、少し島の爆破が早まるくらいで、大局は何も変わらない。ロボットたちは島と運命を共にし、世界への亜空の侵攻は加速する。
だが、魔王はそうする。そうに違いない。マルスには確信があった。

「なら、なおさら早くここを離れなきゃ」

サムスの提案に、ピカチュウも同意する。だがマルスは動かない。なんとかしなさいよ、と言外に告げるようにサムスがアイクを見ると、アイクは何を理解したのか一つ頷き、マルスの肩を叩いた。

「ロボットを助けに行こう」
「あなた…話聞いてた?今すぐ逃げ出すって話してたんだけど」

呆れたように腕を組むサムスだったが、アイクを振り返るマルスの期待に満ちた目を見ると諦めたのか、「わかった、付き合うわよ」と肩を竦めた。

「…ロボットは、それを望むのかなぁ」

先を行く人間三人から少し遅れて、ピカチュウは誰にも聞こえない声でそう呟いた。


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