世界よ、愛しています

*39

「オヤオヤ、マアマア」

ハルバードの操舵室にて、艦内の監視カメラが映し出すモニターを見上げながら、ウォッチは棒読みで溜め息を吐く。モニターには、ピーチ軍団をものともせずに薙ぎ倒すマルスら一行の姿が映っている。ハルバードの操縦はオートのランプが点灯しているが、ウォッチは雰囲気付けの為か舵に手をかけている。

「困リマシタネエ。ワタシシカイナイ時ニ、襲撃トハ」

クッパもガノンドロフも、マスターハンドに呼び出されて亜空にいる。行方が知れないと思っていたワリオは、どうやらマルス側に寝返ったらしい。マスターの名で、もっと仲間を引き入れる予定だったが、胡散臭いのはこちらも同様、多くの者がこちらに手を貸すことを拒絶する。
あるいは、各地にばら撒いた亜空軍ですら捕捉しきれていないファイターの存在も気になるところだ。どんなに巧妙に隠れようと、世界にいる限り、一度は亜空軍の目に留まっていなければおかしい。しかし、その一切の行動が捕捉出来ていないファイターたちが大勢いる。ソニックやプリン、ウルフ、トゥーンに、それから……。

「トリアエズ、コノ方々ヲナントカシナケレバ」

危急なのは、モニターに映る侵入者共である。ウォッチはピコピコと電子音を響かせながら、操縦をオートパイロットから手動に切り替える。そうしていくつかのボタンやレバーを無造作に押したり引いたりしたのち、思い切り舵を切った。

「面舵イッパーイ!」

すると戦艦は大きく傾き、船首が左方向に切れていく。面舵は逆ですよ、とウォッチにツッコミを入れてくれる博識な味方は、彼の傍にはいなかった。

これの少し前のこと、マルスらは影虫から作りだされた大量のピーチ軍団との交戦を余儀なくされていた。戦闘能力は本物と遜色なく、これまでの雑魚敵とは桁違いである。が、対人戦闘において無類の強さを誇るアイクとマルスを筆頭に、ハルバード奪還に燃える一行の士気は高い。概ね戦況はマルスたちに分があった。
しかし、突然通路の照明が白から赤に転じ、警告音がけたたましく鳴り響くと、メタナイトが「不味い」と吠えた。

「対侵入者用の防衛装置が作動した!!」
「なんでそんなものを搭載してんだ!」
「こちらはカービィ用だ」

フォックスの悲鳴に対して冷静に答えつつ、メタナイトは後退せよと叫ぶ。既に大分敵勢に斬り込んでいたアイクとマルスは、ピーチ軍団の後ろから現れた「それ」を見てメタナイトの焦りの理由を知った。
現れたのは、巨大な金色のロボットである。天井の高い通路全体を埋め尽くさんばかりの上背に、左右の巨大なハサミが凶暴に音を立て、グリーンの目らしき部位が獲物を捕捉しようと不気味に輝いていた。「ヘビーロブスターだ!」とメタナイトが声を張り上げる。ピーチ軍団すら巻き込みながら、それ――ヘビーロブスターは全てを殲滅せんと歩き出した。
逃げなければ、とマルスたちが踵を返した瞬間のできごとである。ハルバードが急に傾き、急激な方向転換が始まった。ウォッチが操舵室で無理に舵を切った為だ。床の傾きに加え、慣性の力が加わって、通路にいた者は皆壁まで吹っ飛ばされた。アイク、マルスの両名は激しく壁に叩きつけられて倒れ込む。それはピーチ軍団も同じだったが、ヘビーロブスターだけは歩みを緩めなかった。
巨大なハサミが最も近くに倒れるマルスとアイクを狙う。壁に叩き付けられた衝撃でか、二人はなかなか動き出さない。二人を守ろうと駈け出したのはファルコ、既に立ち上がっているピーチ軍団の間を残像を残して走り抜け、ヘビーロブスターの前に立ちはだかってブラスターを連射した。
が、鋼鉄のボディには最大威力に設定されたブラスターでも牽制にはならなかった。ハサミは容赦なく振り下ろされ、ハルバードの船体に風穴が開く。辛くも直撃は免れたファルコとアイクらであったが、空いた大穴に向かって空気が漏れ出し、それに伴って発生した突風に巻き込まれてファルコの体は艦外へと放り出されてしまった。ファルコだけでなく、ピーチ軍団の多くも次々と突風に巻かれて外に放り出されていく。

「ファルコ!」
「私が!」

一言叫び、メタナイトがファルコの後を追ってハルバードの外へ飛び出した。その行方を確認したかったが、迫るヘビーロブスターがそれを許さない。不幸中の幸いにして、ピーチ軍団の数が劇的に減り、退路が開けた為、覚醒したアイクがマルスを担いでフォックスの元に戻ってくる。が、案内役を失い、これ以上の無謀な行軍は不可能だった。

「一旦引くぞ!」
「おう」

フォックスの怒号に、アイクは素直に従った。

「すまなかった」

追手を撒き、ひとまず使用されていない部屋に身を隠していたときのこと、ようやく目覚めたマルスの発言だった。

「僕らを庇ってファルコが…」
「いや、あれは仕方ない」

口ではそう言いつつ、ぺたんと垂れるフォックスの耳は正直だった。
それを見てアイクもマルスも責任を感じずにはいられない。フォックスの信頼する相棒と、この戦艦の持ち主の二人ともが離脱してしまったのだ。これでは侵入劇も成立しない。
だが、かといってこのままここでじっとしている訳にもいかない。そう自分を奮い立たせてフォックスはピンと耳を立てて言った。

「このまま隠れていることもできない。やはり俺たちで操舵室を目指すべきだと思う」

おう、と短く頷くアイクに、マルスも首肯した。

「問題は場所が分からないことだが…」
「虱潰しに探せばいい」

深刻な問題も、アイクらしい豪快な切り口で即座に解決だった。フォックスとマルスは顔を見合わせて苦笑した。

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