世界よ、愛しています

*37

もともと多人数用の設計になっていないアーウィンコックピット内は、折り畳み式の後部座席を広げたために現在寿司詰め状態で非常に狭い。細身のマルスですら、窮屈に感じているのだから、ファルコともう一機の方のアーウィンに乗っているアイクは、さぞ辛い思いをしていることだろう。マルスの頭の上では、少しでも空間を有効利用しようとメタナイトが縮こまっていた。

「しっかし、まあ…未だに信じられんな」

そんな劣悪な環境でも、常と変らぬ運転技術で空を駆る星狐は、世間話でもするようにぼやいた。

「ついこないだ、俺たちに銃口を向けてたお前が、今じゃこうだもんな」
「それは…本当にすまない…」
「いや、責めてるんじゃなくて…助かるって話だよ」
「?」

操縦桿を片手で握りながら、フォックスは空いた方の手で軽く肩を叩いた。

「お前の人柄は、正直まだよく分からない。でも、実戦でのお前の実力は、身に沁みて分かってるつもりさ。折れた腕でリンクを圧倒し、マリオを追い詰め、ガノンドロフを人形化に追い込む…そんなお前が敵だと聞いたときは、絶望的な気分になったぜ」
「それは…そうだな」

メタナイトまでもが同意の声を上げる。恐らく褒められているのだろうが、全く喜べないマルスはただ曖昧に頷いた。
メタナイトが続けた。

「だが、マルス殿は味方だ」

釘を刺すような念押しに、フォックスは苦笑する。勿論、彼は既にマルスを疑ってなどいない。ただ、知らないが故に、信用の根拠が得られない。だが、騎士道を重んじるメタナイトにここまで擁護してもらえるような人物なのだ。自然とその人となりも知れよう。

「なら、心強いぜ」

そう答えるフォックスの声は、最初に口を開いたときよりだいぶ軽かった。

***

「追い付いたな」

どれだけの時間飛行していたのか、天辺にあった太陽がだいぶ傾いた頃、マルスらの眼前に悠然と航行するハルバードの姿が現れた。こちらの追跡に気付いていないはずもないが、勝者の余裕か巨大戦艦は沈黙を保っている。

「あの戦艦、メタナイトのだったよな。えげつないモン付けやがって」

ザーッという機械音の後、無線から届くファルコの声がそう言った。先に受けた襲撃の際に、彼らはその脅威を目の当たりにしているのだ。メタナイトはどこか誇らしげに答えた。

「当然だ。元々対ナイトメア用に開発していたものだ。並みの火力ではない」
「そんな船を奪われたのは失策だったなあ」

マルスはコックピットの窓からハルバードを見やる。甲板には所狭しと重火器の類が並べられ、備え付けの二連主砲台が静かにこちらに照準を合わせていた。フォックスが唸る。

「さーて、どこから攻めるか…」
「フォックス」

再び無線からファルコの声が流れる。僅かにその背後で「頼む、俺を降ろしてくれ」という今にも死にそうなアイクの声が聞こえた気がしたが、誰もそのことには触れなかった。

「俺が先行して引き付ける。お前は厄介な主砲を狙え。…文句はないな、メタナイト」
「…仕方あるまい」

戦艦の持ち主であるメタナイトは当然胸中穏やかでないだろうが、フル装備の戦艦が敵の手に渡っているのだ。お互い無傷では済まされるはずもないが、今更奪還の手段は選んでいられない。

「しっかり狙えよ、フォックス!」

その台詞を最後に、ファルコの駆るアーウィンは一気に加速してハルバードに急襲した。
ファルコらがハルバードの射程圏内に入った途端、それまで沈黙していた砲台たちが一斉に火を噴いた。空一体が眩く光り、一分の隙間もないほどに砲弾とビームの雨霰となる。その合間を掻い潜って飛び出すのは超高性能全領域戦闘機アーウィン。高速で機体を回転させながらシールドを展開し、砲弾の嵐を切り抜ける。
結論から言うと、ファルコの作戦は失敗だった。圧倒的に巨大戦艦に搭載された火器の数量が多過ぎて、囮も本命も満遍なく狙われ、陽動の意味をなさなかったのだ。が、なんといってもこちらは超高性能。ある時は小回りの効く機体を生かし、またある時はシールド発生装置に任せて強引に斬り込み、無理矢理に突破口を開こうとする。メタナイトはともかく、絶えず回転し、左右に振られ、急上昇と急下降を繰り返すコックピットの中で、マルスは早々と戦線を離脱していた。胃の中に内容物が無かったのがせめてもの救いだが。
一方フォックスはどこか生き生きとした様子で、操縦桿を捌いた。

「うう…気持悪い」
「大丈夫かマルス、もう着陸するぞ」
「うぇえ…!?」

もはやフォックスの言葉が意味あるものとして聞こえていないマルスである。が、当然フォックスはマルスの了解を待たない。砲撃の一瞬の隙を突き、アーウィンは垂直下降。火器のない僅かな隙間に降り立って、急ブレーキをかけて止まった。続けてその隣にファルコのアーウィンが着陸する。すぐさまハッチが開いて、アイクが青い顔をして転がり出てきた。マルスも大同小異の経緯で甲板に降り立つと、二人そろって欄干まで這って行った。
戦艦に降り立たれてっしまっては、もう搭載された大量の重火器も役に立たない。しかし、この堂々とした不法侵入を敵が見逃すはずもない。ほとんど間をおかずに亜空軍の下っ端たちが甲板に詰めかける。
だが、正当なこの戦艦の保有者であるメタナイトは勿論のこと、久々の本領発揮でご機嫌なフォックスとファルコはやる気十分、グロッキー状態で戦線復帰の望めない剣士二人の不在を補って余りある。メタナイトは剣を構え、フォックスとファルコはレーザー銃ブラスターを構え、好戦的な笑みを浮かべて亜空軍を見つめた。

「かかって来い!」

フォックスが吠えたのを合図に、亜空軍たちが一斉に彼らに飛びかかった。

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