世界よ、愛しています
*36
「勿論そのつもりだけど」
が、すぐには是と言わぬマルスである。再び皆の注目を一身に浴びて、逆接で切って王子は言った。
「リンク君たちの話によれば、亜空軍をばら撒いてるのはハルバードだそうじゃないか。フォックスたちも襲撃を受けたと言っているし、こちらをなんとかしたい」
「だったらデデデは後回しか」
やや憮然とした様子でリンクが眉を顰めたが、マルスはそれも即座に否定した。
「どちらも危急だ。だから、隊を二つに分ける」
隊、と呼んで戦の神とすら呼ばれた稀代の英雄王は、仲間を見渡した。
「アーウィンがあれば、ハルバードが探せるね?だからフォックスとファルコはハルバードを追跡する部隊だ。卿があの艦の持ち主だから、貴方もそちらについていくといい。マリオとリュカ君は、大王の方に行きたいだろう。ワリオ君のバイクを使わせてもらうといい。あとは戦力的な問題になるが…おや」
はて、とマルスが皆を振り返ると、一同はぽかんと口を開けて王子を見つめていた。唯一そうでないアイクとメタナイトを見、マルスは首を傾げた。
「僕はなにかおかしなことを言ったかい?」
「いや…皆、お前がそんなに喋るヤツだとは知らんからだろう」
「………あ」
つい、それまでの険悪な雰囲気が薄れたことで、マルスは今の彼らを“前の彼ら”と錯覚しかけていた。が、今の彼らはマルスの性格を知らないし、能力を知らない。それどころか足を引っ張る仲間程度にしか思っていないのだ。王子は慌てて訂正した。
「嗚呼、その…すまない。今まで言わなかったけど、僕のオリジナルは軍師が仕事で…いや、そうじゃなくて、突然偉そうなことを言って気分を悪くしたなら、すまない――」
「謝るなよ、ちょっと驚いただけなんだ」
マリオが苦笑して応えた。彼は同じく驚いている風な仲間たちを見、肩を竦めた。
「やっぱり俺たち、お前をよく知らなかったんだな」
「だがこんな時だ、出し惜しみしてる暇はない」
リンクがマリオの言葉を継ぐ。ファルコも頷いた。
「お前の案が最善なら、俺たちはそれに乗る。それだけだ」
「みんな…」
一瞬、マルスはしおらしい表情をしたように見えた。が、次にはそれも幻覚かと見紛うほどの凶悪な笑みを浮かべ、「だったら」と轟く声で続けた。
「遠慮はいらないな。ポケトレ君、君はリュカ君について行きたまえ。ワリオ君も運転役としてマリオたちの方に行くといい。すまないが、リンク君、ピット君。彼らの面倒を見てくれるかね?僕はアイクとフォックスたちに付いて行くから」
「…ハイ…」
今更嫌とは言えない面々だった。
*
「それじゃあ、みんな、また会おう」
アーウィンの前で朗らかに一同に手を振るマルス。すっかり隊の主導権を握っている彼だったが、一同からの反発は皆無だった。それは彼の爽やかな人好きのする笑みがなせる業なのかもしれないし、或いは常に神剣の柄に手をかける王子の不穏な行動に気がついていたからかもしれない。が、とにかく彼らがマルスの意見に賛同したことは間違いなかった。
「僕らはハルバードを追い、奪取する。君たちは大王と合流し、安全な場所に退避する。合流場所はさっきフォックスが言った通り…いいかい?」
アーウィンに乗らない面々――つまり、マルス、アイク、メタナイトとフォックス、ファルコ以外の者たちは、マルスの確認に素直に頷いた。ワリオだけが耳の穴に小指を突っ込んで聞いていない風だが、マルスは苦笑しながらリンクに声をかけた。
「リンク君、よろしく」
「…そういうのは、マリオに言えよ」
「ははは、つれないなあ」
「お前…親しくなった途端にウザいな…」
「酷い!頑張れの一言くらい返ってくるかと思ってたのに」
「いらねーだろ、そんなの」
リンクが真顔でそう言うと、しかしマルスはどこか満足げに「そうだね」と笑った。
それじゃ、とマルスが踝を返す。そんな彼が開いたハッチからアーウィンにぎこちなく乗り込むのを、リンクたちは静かに見守った。開いたハッチが閉じ、離陸態勢が整う頃、後部座席に収まるマルスは、既に乗り合わせるフォックスと何事かを話しこんでいる。
ほどなくして、二機のアーウィンはエンジン音を轟かせ、晴れた空に飛び立った。
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