世界よ、愛しています

*35

マスターの流言はすでに多くの者の耳するところとなり、今更マルスが何を言ったとて、彼に許されがたい前科がある以上、その言は信用を持たない。特に直接被害に遭ったファルコなら尚更である。
マルスは一瞬視線を伏せて沈黙したが、すぐさま口を開いて続けた。

「信じて欲しいというのも無理な話だが…」
「あ?」
「僕は“ 前の世界”を追われ、この世界に逃げてきた。僕を追っているのはタブーという存在だ。亜空軍を率いて、マスターすらも傀儡にして、この世界にまで僕を追ってきた」

ファルコとフォックスはぽかんと口を開けて固まった。獣人二人のみならず、マリオやピット、ヨッシーも予想外の情報がこともあろうにマルスの口から語られたことに驚きを隠せない様子である。マルスは構わずに続ける。

「…こんなことを言ったところで、君たちの信を得ることは難しいだろう。もはや言葉で足るほど、僕の不信は軽くあるまい」
「…つまり、行動で示してみせると?それを俺たちに信用しろというのか」
「……」

一人で仲間の不信を受けとめるマルスの後ろ姿を見、アイクはどこか悲愴な気分になる。その落ち着き払った所作からは、動揺など一切汲み取れない。こういった事態に“慣れている”のだろう。それはこの世界に生まれ落ちてから培われたものではないはずだ。マルスというキャラクターの持つ性格に他ならない。
アイクはなんとか助け舟を出してやれないものかと必死に無い知恵を絞ったが、そんな彼の奮闘を知ってか知らずか、マルスはさらりと次なる言葉を吐いた。

「…もし、僕が本当に反逆者で、マスターを欺いてこの世界に何らかの害をなそうとしていたなら、僕はもう少し君たちの信頼を得られるよう、穏便に振舞っていただろうね」
「…なに…?」
「仮にも神の目を盗んで諜報を行うものとしては、僕の行動はあまりに目立って愚が過ぎたということになる」

分かるかい、というようにマルスは首を傾げて小さく笑む。ファルコは、いまだちんぷんかんぷんというように目を白黒させていたが、フォックスの方はマルスに釣られたように犬歯を覗かせて笑いを洩らした。

「つまり…お前の信用の無さが、お前の無実を裏付けるって言いたいのか?」
「そういうことかな」

王子は小さく肩を竦めた。沈黙が流れ、睨みあうこと数秒、先に苦笑を洩らして視線を落とし、そのまま気が抜けたように武器を下ろしたのはフォックスだった。おい、とファルコが声を荒げるが、フォックスは首を横に振った。

「もういいだろ。こいつらはシロだな」
「今の会話のどこに“シロ”の要素があった!?」
「無論、なかった。だが“クロ”の要素もなかった」

フォックスは憤るファルコを置き去りに、一人マルスらのもとに歩み寄ってくる。そうしてカリカリと耳の付け根を指で掻き、気恥ずかしそうに右手を突き出した。

「疑って悪かったな」
「こちらこそ、信用してくれてありがとう」

対するマルスは、ようやく安堵の笑みを見せてその手を握り返す。同時にほっと息を吐いて緊張から解放されるマリオたち。ファルコはしばらく逡巡するようにレーザー銃を構えていたが、一つ盛大な舌打ちをかまして乱暴にホルスターへとその銃口をしまい込んだのだった。

とりあえず誤解が解け、差し当たって追手らしい追手もないのをいいことに、彼らはようやく各々の情報交換と状況整理に至り、それぞれが見聞きしたことを語り合った。
マルスがこの世界に来る前のことから、タブーの存在とその狙い、マスターハンドの現状、亜空軍の横暴が広く世界を蝕み、散り散りになった英雄たちを狩りとっていること――そして、創造神の加護を得られぬ英雄たちを支える、もう一人の神の存在についてなどである。

「最初に亜空爆弾が爆発した時、分身の方のマスターが俺たちを逃がす為に転移魔法を発動させていた。だがそれにタブーの妨害が加わり、一部はタブーの元に召喚され、一部は俺たちのようにクレイジーの元に召喚され、残りはどちらにも辿り着かず世界に放り出された」
「なるほどなあ」

リンクがそう説明すると、マリオが腕を組んで頷く。それで、とフォックスが口を挟んだ。

「だから、マルスが裏切り者だなんて訳の分からない流言がまかり通ったんだな」
「うう…」

申し訳なさそうにリュカが俯く。気にするな、とアイクが彼の肩を叩いた。

「過ぎたことだ。誤解も解けている」
「でも…」
「大王のことだけど」

それまでの流れをぶった切って、マルスが口を開く。彼は悪びれるでもなく、萎縮するでもなく、淡々と続けた。

「フォックスたちと合流する前の話だ。皆デデデ大王が亜空軍に追われているのを見ただろう?一瞬だったからよく見えなかったけど、彼と一緒にネス君とピーチ姫の姿が見えた気がするんだけど」

え、と一同から驚愕の声が上がる。特に大きな反応を見せたのはマリオとリュカで、そのあとワリオが「あああ!」と大声を上げた。メタナイトの「カービィもいたぞ」という囁きは、ワリオの声にかき消されていた。

「ピーチと、帽子の小僧が乗ってたなら、ソイツは俺様のカーゴに違いねえ!あのペンギン野郎が盗んだんだ!!」
「盗んだ?」
「言ったろ、あの森の辺りで人形化したアイツらを誰かに奪われたって!」
「いや、ちょっと待て。お前ピーチを攫った挙句に行方不明にまでしてくれたってのか。一発殴らせろ!!」
「いってえ!!馬鹿マリオめ、もう殴ってるじゃないか!」

迂闊なワリオの一言で、元々一触即発だったマリオの怒りが限界に到達、自慢の拳がワリオの顔面を強襲することになる。が、それも無視してマルスは話を進めた。

「大王は事情を知ってるから、つまり、大王がネス君たちを助けてくれたってことになるね。そして、亜空軍に襲われた…」

あまり勇敢という印象は受けなかった。日々の生活でもパワーファイターだということしかマルスは知らない。が、それにしては意外な行動である。そんな王子の驚きを敏感に察知したメタナイトが口を挟んだ。

「陛下は、人が良過ぎる。捨て置けなかったのだろう」
「だったら、デデデ大王が心配ですね。また追われているかも知れません」

天の遣いピットが心底気の毒そうな声で眉尻を下げた。ヨッシーも同調した。

「追いかけましょう、きっとどこかで合流できるはずですー」


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