世界よ、愛しています

*34

風を切り、迫る亜空爆弾の爆風から逃れる最中、しかしマルスの表情は少しも晴れなかった。少なからずバイクに同乗するワリオやリュカ、アイクでさえもが安堵の表情を見せていたのに、である。離れた場所を先行するマリオたちの背中を指差し、アイクはマルスの肩をたたきながら言った。

「そう気落ちするな。とりあえず、あいつらと合流できたんだ。また作戦を練り直そう」
「いや、別に落ち込んでいる訳じゃないんだけどね」

存外覇気のある声が返り、アイクはきょとんと目を丸くした。マルスは亜空の爆風が立ち込める背後を振り返った。

「なんだか、エインシャント卿の様子がおかしかったと思って…」
「あいつはいかれてンだよ」

マルスの言に、ワリオが吐き捨てる。ワリオは風除け用のゴーグルの下で剣呑に目を細めた。

「いっつも高見の見物で、何考えてんのか分かりゃしねえ。俺たちにも命令しやがって、忌々しいヤツだったぜ、全く」
「彼を知っているのかい」
「いや。ただ何回か作戦の指示をされたことがあるだけだ」
「…つまり、彼はあちらの軍勢の幹部なのかな」

マルスは僅かに考え込むように呟いた。ワリオからは肯定とも否定ともとれない微妙な溜め息だけが返る。が、マルスはあまり気にしていないようだった。
ようやく先を行くマリオたちにワリオのバイクが追い付き、彼らが速度を合わせて当てもなく道を進んでいくと、突然地平線に二機の戦闘機が現れた。空を駆けるはずのそれは、道を塞ぐのが仕事と言わんばかりに地面の上で沈黙し、その前で仁王立ちする二人の獣人に行く手を阻まれる形でマリオら一行は減速して停止する。フォックスとファルコだった。
険しい表情を隠そうともせず、明らかに敵意剥き出しな二人の獣人は、案の定レーザー銃を構えて一行を歓迎した。ファルコが挑発的な口調で言った。

「よぉ、こりゃ一体どういう御一行様だ?」
「…何のつもりだ」

低く唸るのはリンク、それを抑えるように手を伸ばしたのはマリオである。ピットが慌てて前に進み出て言った。

「待ってください、僕たちは争うべきじゃありません。まずは落ち着いて…」
「戦場では一瞬の躊躇が命取りになる。そんな悠長なことは言ってられないな」

が、ピットの交渉も虚しくフォックスはますます眉間に皺を寄せて牙を剥いた。威嚇するように突き出されるレーザー銃を見せびらかし、ファルコが「武器を捨てな」と命令する。同じく獣の血が流れる勇者が、毛を逆立てて剣を抜こうとしたが、それはマルスによってとめられた。

「ここで暴れたら、話がややこしくなるよ」
「…お前が言うかよ」
「説得力あるだろう?」

マルスは笑い、真っ先に帯刀していた剣を両者が対峙する中央あたりに投げ捨てる。一部武器を持たない面々もいるが、それ以外の者はマルスに倣って武器を手放した。チ、と舌打ちするファルコに対し、フォックスは僅かながら感心したように息を吐いた。

「…一応、言うことを聞いてくれて助かるよ。敵じゃないと分かれば、その時は謝ろう。だが、これからいくつか質問に答えてもらう。本当に敵かどうかはそれで判断させてもらうよ」
「そんな、僕たちは敵なんかじゃ…!」
「リュカ、大丈夫」

フォックスの言葉に、今にも泣き出しそうなリュカの悲鳴が重なる。それを宥めるポケモントレーナーの声が一同を沈黙に導いた。
フォックスとファルコが顔を見合わせる。二人は何事かを無言で確認し合ったのち、まずファルコから嘴を開いた。

「てめーらお人好し軍団は、まあいいとして、俺たちが警戒してんのはワリオとマルス、メタナイトの三人だ。なんでお前らがこいつらとつるんでんだ?」

お人好し軍団、とマリオたちを指して言うファルコに、フォックスは苦笑を洩らす。とどのつまり、彼らも仲間を疑う気は毛頭ないのだ。自分が疑われることは第一に予想していたマルスは、しかし同時に上がった人物の名に首を傾げた。が、うろたえるメタナイトに先んじて、ワリオがマルスを指差して真っ先に答えた。

「俺様はコイツに脅されて…!」
「貴様、裏切るつもりか!!」
「ちょっと二人とも」

あっさりマルスを単独犯に仕立て上げようとするワリオに、メタナイトが怒りも露わに詰め寄る。それを間に立つマルスが咎めた。フォックスが呆れたように言う。

「もしかしてアレか?お前ら三人ともグルか?」
「私はこのような下劣な男と組んだ覚えはない!」
「下劣とはなんだ、キザヤロー!!」

しかし、フォックスの指摘にメタナイトはブチ切れる。さらにはワリオまでファイティングポーズの構えで、事態は収拾の兆しを見せない。頭に血が上ってまったく話にならない二人から、有益な情報は得られぬと踏んだか、ファルコがマルスのみを睨んで問うた。

「埒があかねえ。結論から言うと、俺たちは明け方メタナイトの戦艦に攻撃された。その時にワリオの姿を甲板で見た。そして今お前らはここにいる。どういうことか説明してくれるか」

自身の戦艦の名が上がり、メタナイトははっとしたように顔を上げてマルスを見た。マルスもまた、頷く。つまり、彼らにはメタナイトらを疑って然るべき理由があったのだ。
慌てて声を上げようとしたメタナイトを遮り、マルスが口を開いた。

「メタナイトの戦艦――ハルバードだが、それは深夜に“亜空軍”を名乗る者たちに奪われた」

フォックスの耳がぴくりと動く。覚えのある名のようだった。

「ワリオ君は、確かに亜空軍の一員だったが、交渉の上、こちらの陣営に付いてもらうことになった」
「てめえの言うことが正しいとして…それじゃあ、てめえがのうのうと仲間面してコイツらとつるんでるのは何故だ?」

マルスを見据えるファルコの表情が一層険しくなった。

「今まで散々俺たちのことを目の敵にしておいて、今更“仲間になりました”と言われて、ハイそーですかなんて納得できる訳ないだろが。どうやってお前の言葉を信用しろと?」
「…良くない噂を聞いたぞ。マルス、マスターがお前を反逆者として追っていると」


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