世界よ、愛しています

*33

幸か不幸か、亜空軍の進行方向とぶつかる形で進撃していったマルスたちは、まさに大乱闘の真っ最中だったリンク、マリオたちとはち合わせた。お互いが何かを言うより早くデデデのカーゴがその真ん中に飛び出してきて、咄嗟のマルスの一言で、英雄たちは共通の見解に至った。見知った彼らは敵ではない、と。

「無事だったか!!」

群がる亜空軍を薙ぎ倒し、マルスと背中合わせになる形で立ったリンクが叫ぶ。マルスは小さく笑って頷いた。

「お陰でなんとか。君こそ無事で何よりだよ」
「ヨッシーに助けられたからな」

そこで二人の会話は途切れる。何本もの触手で器用に槍を操るモンスターが、彼らを分断した為だった。マルスが飛び退った先で、今度はピットが泣きつかんばかりに声を張り上げた。

「マルスさん!嗚呼、良かった!やっぱり貴方は敵なんかじゃないんですよね」

感涙でも流しそうなピットだが、その背後に武器を構えたプリムが迫る。着地したその足で踏み込んで、マルスは体重を乗せた刺突を亜空の兵士にお見舞いしてやった。わあ、とピットの歓声が上がる。天真爛漫なその反応が心苦しく、マルスは唇を噛んだ。

「今までの事を許してくれとはとても言えないけれど…僕は君たちの仲間でありたいと――」
「そんなの、当たり前じゃないですか!」

純白の羽が興奮の為か大きく開き、太陽の光を受けて白く輝く。同じくらいに眩しい笑顔をたたえる天使が、マルスの剣を持っていない方の手を取って言った。

「たとえきっかけが何であれ、僕たちがこうして分かりあえる日が来たことを僕は天に感謝します!パルテナ様、聞こえますか!」
「おいこら、戦え」

戦場のど真ん中で祈りを捧げ始めたピットと、その隣で立ち尽くすマルスの元に、アイクが駆け寄ってくる。アイクは浅く肩で息をしながら、無造作に剣を薙いで亜空軍を切り倒した。
無計画に丘の頂上に殺到してくる亜空軍は、既にデデデへの追手としての役割を放棄したのか、立ちはだかるマルスらを狙って攻撃してきていた。討ち損じはほぼゼロで、しかしワリオが先に告げた通り、彼らの本質は影虫から造り出されたコピーである。倒されれば黒い煤のような影虫となり、風に吹かれて消えゆくのだった。当のワリオは巻き込まれない程度の遠巻きに戦況を見守っている――が、リュカの流れPKファイヤー(確信犯)に直撃したりとその効果のほどは窺えない。
敵味方入り乱れての大乱闘、もう何体の敵を薙ぎ倒し、斬り倒したか全く分からなくなった頃、ふと頭上に影が差したのに気がついたマルスは上空を振り仰いだ。そして叫んだ。

「貴様は…!!」

エインシャント卿が、ぷかぷかと宙に浮いている。その浮遊装置たる円盤にはもはや見慣れた亜空爆弾が連結されており、彼の登場が何を意味しているかを物語っている。
――この地域一帯毎、彼らを亜空に葬り去ってしまうつもりなのだ。
エインシャント卿は、攻撃の届かぬ高みから言葉を投げかけた。

「アナタ様がたの戦いぶりにハ、感嘆を通り越してほとほと呆れてしまいマス。特にマルス王子、悪足掻きは我が主の反感をますます買うだけだト、何故分からないのデスカ」
「この僕に大人しく投降せよと?馬鹿にするな」

マルスは吐き捨てる。少し前の彼なら、そうすることもまた一つの判断であると割り切っていただろう。だが、彼は気付いたのだ。世界は彼を望み、彼もまた世界を望んでいた。解せまセン、と首を振るエインシャント卿に、マルスは苦笑いしてみせた。

「やるからには、僕は負け戦はしないよ」
「まさか、あの方に勝てるとでもお考えデスカ」
「そのまさかだ」

マルスの隣にアイクとリンクが並び、同様に剣を構える。アイクは静かに怒りの視線でエインシャント卿を見つめ、リンクは今にも唸り出しそうなほどに尖った犬歯を覗かせてマルスに同調した。

「てめえらの思い通りにはなってやらねえ。分かったらさっさとここまで引きずり落とされるんだな!!」

リンクの言葉を合図に、四方八方から飛び道具がエインシャント卿を襲う。ピット、リュカ、マリオ、ヨッシー、更にはポケモントレーナーの指示によって空中まで肉薄していたリザ―ドンの火炎放射がエインシャント卿の退路を塞ぐ。仕留めたか、と期待したリンクたちだったが、しかし次なる瞬間エインシャント卿を守るようにして現れた無数のロボットたちが盾となり、それらの攻撃は一切がエインシャント卿に届く前に防がれた。
ロボットたちは致命傷を受けて、またある者は大破して地面に落下し機能を停止した。くそ、と悪態を吐くマリオとほぼ同時に、エインシャント卿が悲鳴を上げた。

「嗚呼、お前たち、なんということヲ…!」

その発言は、自らを庇ってスクラップになったロボットたちにむけてのものだった。戦いの最中でありながら、マルスはその発言を聞き咎めて首を傾げる。それまでの機械じみた声とは明らかに異質な叫びだった。また、その他の亜空軍が影虫となって掻き消えるのに対し、ロボットたちはその場で破壊されたまま、横たわっている。つまり、今エインシャント卿を庇ったロボットたちは、影虫から造り出されたコピーではないのだ。
エインシャント卿はそれまで高見の見物を決め込んでいたかに見えたが、途端に取り乱して急降下してきた。倒れたロボットたちに駆け寄る風である。が、今度は別のロボットが二体現れて、エインシャント卿の円盤に連結された亜空爆弾に飛び付き、無理矢理に引き剥がした。うろたえるエインシャント卿を見るに、それは予定外の出来事であるらしい。亜空爆弾は、ごとりと地面に落下して、ほとんど間を置かずロボットたちの手によって起爆装置が作動させられたのだった。
無機質な電子音が亜空爆弾爆発までのカウントを刻み始める。不味い、逃げろと誰かが叫んだが、それを掻き消すように切羽詰まった様子でエインシャント卿が叫んだ。

「逃がしはしまセン!!お前タチ、あの王子を捕らえなサイ!」

エインシャント卿の声に呼応して、影虫から造られた亜空の兵士たちが一路マルスめがけて飛びかかってくる。が、既にその動きは見切られており、敢え無くカウンターによって全てが弾き返される。難なく退路を確保してしまったマルスを見、エインシャント卿は吠えた。

「何故デスカ!!どうして大人しく消えて下さらナイ!!アナタの所為デ、我々はいつまで経ってモ解放されナイ!」
「は…?どういう――」
「馬鹿、さっさと乗れってんだ」

側車付きのバイクでワリオが横滑りにやってきて怒鳴った。既に乗り込んでいたアイクが、エインシャント卿の言葉に茫然と立ち尽くすマルスの首根を掴んで無理矢理車内に引きずり込んだ。
ブオン、とエンジンを唸らせワリオのバイクが走り出す。すでに他の面々もそれぞれの移動手段で脱出を図っており、亜空軍がそのあとを追ってくるが、逃げに徹している彼らに追い付くものはなかった。
ただ、エインシャント卿の悲痛な叫びだけが、彼らの耳に届くのだった。

「これデハ、全くの無駄死にじゃないデスカ…!!」

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