世界よ、愛しています

*勇者の話3

亜空軍に追われていた彼は、とにもかくにも逃げることしか考えられず、ひたすらにアクセルを踏みしめ、荒野を爆走していた。それは道が平坦な緑地になっても変わらず、執拗に追いかけてくる亜空軍がその追跡を諦める様子は微塵も見えなかった。彼は舌打ちし、物言わぬ同乗者を見やる。ここで捕まってしまっては元も子もない。

「…大王の職分を越えてるぞい!」

彼はひとりごち、急ハンドルを切る。その残像を鋭い嘴をもった鳥のモンスターが高速で貫き、地面に突き刺さった。
追手の攻撃は緩むことを知らず、その距離ももはやゼロに近かった。今のように紙一重でなんとか追撃をかわしているが、それも時間の問題だ。いずれ袋叩きに遭って捕まってしまう。

「ホント、デデデはいっつも貧乏くじだねえ」

そんな折に、するはずのない者の声がして、思わず彼――デデデは振り向いた。ワリオから強奪したカーゴには、人形化したネスとピーチが積まれていたが、彼らが何事かを喋ろうはずもない。が、何故かカーゴにはもう一人の乗客がいた。デデデは目を剥いてその名を叫んだ。

「か、カービィ!?いつからそこに!?」
「今さっき」

小さなピンク球こと星のカービィが、こともなさげにカーゴに備え付けられたアームの上に腰かけている。カービィは気だるそうにデデデとカーゴに積まれた仲間のフィギュア、そして迫りくる亜空の追手たちを見比べた。

「キミ、なんでこんなことしてんの」
「話せば長い、ぞい!」

再びデデデは急ハンドルを切った。カーゴは大きく傾き、ブレーキ痕が地面を削り取る。巨大な鎌を搭載した戦車のようなモンスターが、危うくカーゴを真っ二つにするところだった。カーゴはそのまま道を逸れて丘を駆け上り、ガタガタと大きく揺れる。カービィは僅かに剣呑に目を細めた。

「デデデは誰の味方なの?それにあのハルバードは…」
「ワシは――」

カーゴが丘を登り切ったとき、そこには既に先客がいた。唖然とするマリオ、リンク、そしてピットとヨッシーである。彼らは向き合い、武器を構えて交戦状態にあったが、そんな一切をデデデが認識する余裕はなかった。

「そこを退くぞぉぉぉい!!」
「な、何事だ!?一体…」

一方突然亜空軍を引き連れて現れたデデデを、マリオらは驚きと敵意の混じった目で見る。危うく挟み打ちになりかけたカーゴは、しかし朗々とした声に助けられた。

「敵は亜空軍のみだ!!」

その声に、マリオたちは繰り出しかけた拳を引っ込める。カーゴはごおっと宙を舞い、マリオたちを飛び越えた。そして一旦バウンドして着地すると、そのまま猛スピードで走り去ってゆく。もうなにがなんだか分からないまま、マリオは声の主を見る。横滑りにドリフトしてきた側車付きのバイクから、青い外套を翻らせて、一振りの剣を携えた青年が降り立った。マルスだった。
記憶にあるよりも遥かに快活な様子の彼は、深海色の瞳を大きく見開き、形の良い唇を好戦的に歪ませながら、神剣を構えて言った。

「五感全てで感じ取れ。何が正しいのか、今何をすべきかを!!」

刹那、それまでデデデを追っていた亜空の兵士たちが小高い丘に殺到する。茫然とするマリオらの間を走り抜け、マルスはそんな兵士たちを迎撃した。間を置かずにアイク、メタナイトがそれに続き、遅れてリュカ、ポケモントレーナーが参戦する。
立ち尽くすマリオ、リンクらは互いに顔を見合わせ、今まで己が相手に向けていた武器や拳に視線を落とした。――果たして今本当に武器を向けるべき相手はコイツなのか?

「…ええい、考えるのも面倒くせえ!!」

リンクはガシガシと頭を掻くと、突然びしりとマリオに拳を突き出して、叫んだ。

「とりあえず、休戦だ!!まずはこの気味悪ぃ連中をぶっ飛ばすぞ!」
「へっ、言われなくてもそうするぜ」

マリオもまた拳を突き出し、リンクの拳に押し当てた。


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