世界よ、愛しています

*29

荒野に突如として現れた建築物は、今やその役割を失い、遺跡然としてその佇まいを残すのみとなっている。崩れかけた柱の間を走り抜け、マルスらはようやく戦車に追い付いた。戦車は再び人形の形となり、既にメタナイトと交戦に入っている。

「卿!無事かい」
「なんとかな」

小さな仮面の騎士に加勢しつつマルスが問えば、気丈な答えが返る。手こずっていた訳でなく、単に時間を稼いでいたようだった。

「この者から何か情報は得られそうに思うか」

いったん後退したメタナイトが、アイクとマルスに問う。二人は順に答えた。

「いや」
「無いだろうね」
「ならば、容赦はいらんな」

再び三人は剣を構え直し、ロボットを見上げた。ロボットは既に満身創痍で、関節の節々から黒い煙が燻ぶっている。追い詰められて、手負いともなれば、捨て身で足掻くだろうことは想像に難くない。長引かせたくないな、とぼんやりマルスが思っていたところに、第三者の声が響いた。

「う、うわぁ!?なにこれ…」

マルスたちとはロボットを挟んで反対側、つまり遺跡内部から少年独特の甲高い声がする。困惑の色濃いその声音は、恐らく巨大ロボットを目にしてのものだろう。一瞬マルスの脳裏には赤い野球帽の少年が浮かんだが、彼ではなさそうだった。
が、誰であろうと関係ない。ロボットの注意は今や完全にマルスたちから逸れ、新たに現れた少年に向けられていた。みしみしと不穏な音を立てて、ロボットの腕が持ち上がる。舌打ちと共に真っ先にマルスは地面を蹴って、前方に飛び出した。

「援護を頼む!」

ロボットの背中を駆け上がり、今にも少年(どうやら二人いる)に振り下ろされそうになっている右の二の腕辺りに斬り付ける。そのまま落下する合間にも何発か斬撃を叩き込み、少年たちの前に滑り込むように着地する。既にアイクらが援護に回ってくれていたおかげもあり、呆然と立ち尽くす少年らにロボットの攻撃が届くことはなかった。
振り返ると、不安げな少年たちと目が合う。クセの強い金髪の少年と、帽子を目深に被った少年だ。リュカとポケモントレーナーである。
リュカはマルスを認めると、驚いたように目を丸くした。

「マ、マルスさん…?なんでここに」
「あとで話そう。安全な場所に隠れていたまえ。ここは僕たちが――」
「安全な場所なんてないぜぇ!」

この場にいるはずのない声が轟いた。声の主を探すまでもなく、「とうッ」と気の抜けた掛け声と共に、厳つい武器を抱えたワリオがどこからともなく降ってくる。ロボットとワリオに挟まれる形となり、マルスは眉間に皺を寄せた。

「また君か」
「おう、俺様はツイてるからな」

厳つい武器を構え、ワリオは軽く舌を出しながら照準をマルスに合わせる。マルスもまた剣を構え直そうとしたが、それは彼の前に進み出た少年二人によって遮られた。

「…この人の相手は、僕に任せてください」

リュカが震える声で囁く。ポケモントレーナーもまた、腰のベルトからモンスターボールを取り出し、臨戦の構えだ。ワリオは興を削がれたというように片眉を跳ね上げたが、少年二人の顔には――特にリュカには、何か並々ならぬ思いがあるように見受けられる。

「なら、任せよう」

マルスの決断は迅速である。彼はワリオに背を向け、最後の足掻きとばかりに暴れ回る巨大ロボットへと走り出した。「行かせねえ!」と叫んだワリオが抱えていたキャノンでその背中に砲撃するも、リュカのPKファイヤーとポケモントレーナーが繰り出したリザードンの火炎放射が、その軌道上に躍り出て狙撃を阻む。
ワリオの盛大な舌打ちにも怯まず、リュカは一層強くPSIを練り上げながらワリオを睨んだ。

「僕はネスさんの言葉を信じます。だから、あなたと戦います!」
「フン、俺様は手加減なんかしてやんねーぞ」
「…手加減は、いらない…」

滅多に口を開かないポケモントレーナーまでもが、表情を険しくして囁いた。彼の前でリザードンが、その怒りを代弁するように吼えた。

同じ頃、ロボットの方も威嚇するように雄叫びを上げていたが、無論それで怯むような剣士たちではない。アイクのラグネルがロボットの胴の装甲を大きく抉り、メタナイトが重点的に狙った右足はもはや膝より先は動かない。ほぼスクラップだが、それでもロボットは残った腕でアイクに掴みかかった。
てっきり殴りかかってくるものと思い、カウンターの構えを取っていたアイクは、敢え無くロボットの腕に捕まってしまう。が、ロボットはそれ以上何かをするでなく、アイクを捕まえたまま動きを止めた。何故、と疑問に思うより早く、アイクとメタナイトはロボットの頭部に現れた時限爆弾を視認して目を剥いた。
亜空爆弾である。

「不味い…!」

最初から危急の事態の為に備え付けられていたのだろう。自決用の小さめな亜空爆弾に据え付けられたタイマーは、既に15秒を切っていた。アイクらを道連れに自爆するつもりなのだ。もし今亜空爆弾が爆発したら、近くで戦っている子供二人も巻き添えである。
が、刻々とゼロに近付くタイマーは、突如現れた白銀の刀身によって両断された。陽の光を受けて燦然と輝くのは神竜の牙より作られた神剣ファルシオン。その使い手であるマルスが、ロボットの肩に足をかけ深々と神剣と突き刺しながら、時限爆弾を覗き込んで笑った。

「潔いね。だが、タイマー式は通電回路が機能しなければ意味がないよ」

冷え冷えとした笑みと共に爽やかに告げて、マルスは剣を引き抜いてロボットの頭部から飛び降りた。同時にロボットは力を失い、アイクの戒めを解いて地に崩れ落ちる。
その背後では派手な火柱が立ち、情け容赦なくワリオを人形化に追い込んだ少年二人が、同じく一段落付いたこちらに駆け寄ってくるところだった。

[ 41/94 ]

[*prev] [next#]


[←main]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -