世界よ、愛しています

*31

「ふぅむ」

幾らか話を聞く姿勢になったワリオは、ヒゲを撫でながら無遠慮に上から下まで品定めするようにマルスを見詰めた。彼の視線はマルスの腰に提げられた神剣に留まり、やはりどこか馬鹿にした様子で言った。

「おめぇが、マスターハンドに勝つとでも?」
「僕が勝ちたいのは、マスターじゃないよ。彼を操っているタブーという奴さ」

さらりと告げられた内容に、ワリオは隠すでもなく大口を開けて驚きの様相を示した。ここぞとばかりにマルスは畳み掛けた。

「タブーは、亜空間の支配者だ。それだけでは厭きたらず、この世界までもを席巻しようとしている。マスターを操り、君たちを利用してね。僕はそのタブーを打ち倒し、マスターを助けたいんだ」
「…そんな話を俺様が信用すると?」
「賢い君なら分かるはずだ」

胡散臭さが払拭できず、怪訝にするワリオに、しかしマルスは言い切ってみせる。ワリオは軽く舌を出して、挑むようにジト目でマルスを睨んだ。

「おめぇは確かに口がよく回るみてーだが、それが嘘でない保障はどこにある?」
「残念ながら、ないね」

マルスは至極残念そうに首を振る。するとワリオは王子を論破したと思ったのか、途端に尊大な態度でふんぞり返った。

「なら、この話はナシだな」

そうか、とマルスが落胆の色を見せると、ワリオは調子に乗って「俺様を言いくるめようなんて百億万年早いぜ」と下品に中指まで突き立てて見せる。
その反応は、後ろで成り行きを見守っていたアイクやメタナイトらの反感を買った。目に見えて二人の表情は険しくなったし、リュカですら嫌そうに顔をしかめた。
マルスは、しかし引き下がらなかった。目にもとまらぬ速さで抜刀し、ワリオの喉元に剣の切っ先を突き付けて、高らかにこう宣った。

「君に拒否権は与えない」

あまりの早業にワリオは声すら出せず、同時にヒィーッとリュカの悲鳴が上がり、アイクとメタナイトが慌てたように駆け寄ってくるが、マルスはそれらを全く黙殺した。
マルスはワリオに剣を突き付けながら続けた。

「僕たちも困ってるんだ。何があっても手は貸してもらう」
「てめ…やっぱ悪党じゃねーか!」
「そうかもね。だが敵にしたくないだろう?」

ワリオが剣先から逃れようと仰け反りながら叫ぶと、マルスは悪戯っぽく笑った。

「それに、この方が君にとっては都合がいいんじゃないかな。君は今、僕に“脅されて”手を貸すよう強要されている。マスターたちを裏切る訳じゃない」

ワリオは口元を歪ませて思案顔となった。マルスの発言を吟味しているのだろう。
その隙にメタナイトが駆け寄ってきて、小声でマルスに言った。

「どうするつもりだ、上手くいく訳がなかろう!」
「いや、あと一押しなんだけど」
「説得できたとして、私はこの男を信用できん!」

礼節と忠義を重んじる騎士道を貫くメタナイトにとって、軽薄で粗野なワリオという人物はさぞ信用ならないだろう。マルスもそれが分かっているだけに苦笑を漏らすが、使える人材を最適な配置で利用するのが軍師たる彼の本分だ。ワリオこそマルスの求める人材だった。
再びワリオの視線が己の神剣に留まったのを見、彼がトレジャーハントを生業としていることを思い出したマルスは、即座に切り出した。

「僕の剣は、神剣ファルシオンといって、神竜の牙から作られた世に一振りしかない貴重なものだ」
「ほう?」

ワリオの目が輝く。「世に一振り」「貴重」の文字が彼の頭上に輝きながら浮かぶようだった。これだ、とマルスは笑みを深めた。

「君が協力してくれるのなら、あげてもいい」
「よし、乗った!」
「おい!」

即答して態度を改め、媚びるようにマルスと握手を交わすワリオと対照的に、怒ったように声を上げたのはアイクである。メタナイトにしても似たり寄ったりの反応で、アイクは眉間に皺を寄せてマルスに詰め寄った。

「そんな業物を剣の心得のない素人に渡すのか?剣が死ぬぞ!」
「アイク、落ち着いて。ワリオ君、すまないがすぐには渡せない。これが僕の得物なんだ。タブーとの戦いが終わってから、ということになるが」

いきり立つアイクを抑え、マルスはワリオに詫びた。が、細かいことは気にしない男、好きな言葉は濡れ手に粟なワリオである。世にも珍しいお宝が手に入るとあれば、それくらいの制限は彼の喜びに水を差さない。ワリオはいいぜ、と太い親指を立てた。

***

二人乗り用の側車を連結し、立派なタンデム車となったワリオのバイクは、燦然と日差しの降り注ぐ荒野で土煙を上げながらエンジンを唸らせた。アイク、マルスは連結された側車に収まり、リュカはワリオの後ろにちょこんと座っている。ポケモントレーナーは彼の相棒であるリザードンに跨り上空を飛行し、メタナイトがその膝の上でそわそわと周囲を見渡していた。依然、アイクの機嫌は悪いままだが、一方のマルスは軽快に進む乗り物に上機嫌だった。
目指すは荒野の端に見える緑の森――であったが、いまやその緑は広く地平線を覆い、路面状況もごつごつした岩肌でなく平らな道になりつつある。

「おい、リュカ。この俺様が何度も謝ってやってんだろ。いい加減静電気発生させるのをやめろ!」

そんな長閑な風景に不釣り合いな怒鳴り声が響く。ワリオが自身の後ろにぴたりとくっつき、むくれっ面をしているリュカに言ったのだった。が、全身から溢れるPSIパワーによる静電気で癖毛を逆立てたリュカは、寧ろ一層剣呑な目でワリオを睨んだ。

「僕は正直言ってワリオさんを信用してません。もし少しでも変な真似をしたら、即座にPKサンダーをお見舞いしますからね」
「ははは、簡易電気イス」
「笑ってないでなんとかしろマルス!」

ワリオが悲鳴じみた声でマルスに助けを求めるが、勿論彼に手が差し伸べられることはなかった。

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