世界よ、愛しています

*30

「ごめんなさい!!」

駆け寄ってくるなり、リュカはそう叫んでマルスに抱き付いた。マルスは勿論他の面々も訳が分からず瞠目する。マルスは敵意のないことを示すように両手を上げ、狼狽えながら問うた。

「えっ…と、リュカ君。どうしたのかな」

追っ手らしい巨大戦車は大破し、ワリオもまた人形と化して無力化されている。戦士として申し分ない働きをしたはずのリュカを誰が責めよう。しかしリュカは「違うんです」と泣き出した。

「マルスさん、僕はあなたを疑ってしまいました。そのせいでネスさんが」

断片的で脈絡のないリュカの言葉に、マルスとアイク、メタナイトは顔を見合わせる。落ち着け、とアイクが彼の小さな肩を叩いた。それでいくらか落ち着いたらしいリュカは、しゃくりながらしゃべり始めた。

「僕、最初にワリオさんに会ったんです。それで、マルスさんが悪い神様の手下だという話を聞いて…それを信じてしまったんです。あとからネスさんが来て、そうではないと教えてくれたのに、僕は…すぐには信じられなくて…」

アイクとメタナイトが深く頷いた。一方マルスはバツが悪そうに唇を噛んだ。リュカがマルスを信じられなかったのも仕方ない。子供たちにとってそれまでの彼は、いつ爆発するか分からない時限爆弾のような存在だっただろう。「実は悪い奴だった」と聞かされて、むしろ納得したに違いない。それはマルスが招いた過失だ。
リュカは続けた。

「それで、ワリオさんとネスさんが戦うことになって…僕は見ていることしか出来なかったんです…!どちらを信じていいのか分からなくて――ネスさんはワリオさんに負けて、どこかに連れていかれました…」

リュカは人形化したワリオを見つめた。アイクが真っ先に口を開いた。

「もう誤解は解けているんだろう」

アイクはマルスの腕を引き、リュカの前に引き出した。マルスはなんとか少年を安堵させようと口角を持ち上げてみたが、慣れているはずの愛想笑いが、恐ろしくぎこちなかった。

「謝るのは僕の方だ。誤解されて仕方ない態度で君たちに接してきた。…許して欲しい…」

マルスはリュカとポケモントレーナーに頭を下げた。リュカはぎょっとしたように身を竦めて、ポケモントレーナーもまた驚いたように目を丸くした。リュカがしどろもどろになりながら言った。

「そんな…僕は…僕の方こそ、疑ってしまって…」
「……マルス」

唐突にポケモントレーナーが口を開いた。マルスが彼を見つめると、ポケモントレーナーはリュカを一瞥してから続けた。

「君を信じたい」

深く被られた帽子の下から、縋るようにポケモントレーナーがマルスを見つめた。マルスは深く頷いた。不謹慎にも、申し訳なさより嬉しさが勝った。

「…必ず信頼に応えよう」

***

「つまり、ネス君はワリオ君に連れ去られ、行方が知れないんだな」

大破した巨大戦車を腰掛けに、小休止がてら状況を整理していたマルスらは、のどかな時間を過ごしていた。マルスが総括すると、リュカとポケモントレーナーは目を見合わせて頷いた。

「僕は怖くて…途中で逃げ出してしまって…」

ポケモントレーナーが更に首肯した。マルスはふむと呟き、メタナイトとアイクを見た。

「どう見る?」
「先に捕まったピカチュウ殿と同じ場所に運ばれたのでは」
「アイクは?」
「ワリオに直接聞けばいい」
「…道理だな」
「え?!」

一見突拍子もない提案であったはずのアイクの言に、マルスが考え込むように腕を組んだ。リュカ、メタナイトの両名は身を乗り出して聞き返したが、マルスはむしろ考察を深めたのか一人で納得したように頷いた。
メタナイトが慌てて声を上げる。

「じ、冗談だろうマルス殿。先まで我々を目の敵にしていた男だぞ!」
「だけど、彼は確かバイクを持っていたよね。いい足になるんじゃないかな」
「まさか味方になるとでも?」

メタナイトが呆れたように言ったが、マルスは大真面目に頷いた。

「彼が敵対していたのは、単に利害の不一致の為だろう。話せば分かるよ」
「そんな…」
「大丈夫、交渉は得意なんだ」

が、マルスはメタナイトの不平などどこ吹く風といった様子。そのまま立ち上がってつかつかと進み、仲間の制止も聞かず無造作にワリオのフィギュアに手を伸ばした。
一瞬、眩い光が辺りを照らした。それが止むと棒立ちになったワリオが、色彩を取り戻してぱちぱちと瞬いた。

「…な?!お前ら…」

ワリオは困惑の色濃く辺りを見渡す。先まで敵対していた面々が自分を取り囲んでいるのだ。即座にファイティングポーズを取る彼に、同じく応戦しようと身構えるアイクらをマルスが鋭く一喝した。

「待ちたまえ!僕たちは敵対すべきではない」
「しかし…」
「ワリオ君!」

メタナイトの反論を遮り、マルスはワリオに向き直る。剣すら抜かず、しかしこの場にいる誰よりも威圧感を放つ彼の声は、乾いた荒野によく響いた。

「賢い君なら分かるだろう。今、ここで僕たちと戦うのは、君にとって非常に分が悪い」
「だったら何故俺様を復活させた?」

普段のぎょろ目を剣呑に細め、ワリオは依然警戒の構えを解かない。他の面々が押し黙る中で、マルスは朗々と続けた。

「君の力を借りたいのさ」
「ハッ!この俺様の力を、だと?」

小馬鹿にしたようにワリオが笑う。が、マルスも一切怯んだ様子を見せない。

「そうだとも。君にとっても悪い話ではないと思うが」
「敵の片棒を担いで、俺様に何の得が?」
「僕たちが勝利した暁には、君が望む物を用意しよう」

どこか芝居がかった口調でマルスが言った。ワリオは興味なさそうにそっぽを向いていたが、僅かに彼の眉がぴくりと動いたのをマルスは見逃さなかった。

「この際どちらが悪か善かというのは、あまり関係ない。重要なのはどちらが勝つか、そして見返りに何が得られるか。…違うかな?」

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