世界よ、愛しています

*追憶2

「今まで隠してたんだけどね」

創造神マスターハンドは、しかし悪びれる様子もなく言った。

「実は君たちを造ったのも私なんだ」

***

「え…え??どういうこと?」

方舟の中で手持ち無沙汰にしていたメンバーの食い付きは上々である。何しろ方舟内部は一面リノリウムの長方形の空間で、窓も無ければ椅子や机といった備品もない。
マスターは続ける。

「君たちは“呼ばれて”ここに来たと思ってるだろうけど、実際は違っててさ。君たちのオリジナルは今も元の世界で元気に暮らしてる。君たちは、私が造ったコピーなんだ」

マスターが吐く衝撃の事実に、一同は言葉もなくただぽかんとしている。あぁ、でもね、とマスターは底抜けに明るい声を出した。

「いつか言ったように、私は君たちの“運命付け”まではしてないよ」
「つまり」

マルスが言葉を継ぐ。十二分に驚いた様子のマルスだったが、しかし取り乱している風ではなかった。

「僕たちが存在しているのはマスターに創造されたからだけど、僕たちが考え、行動しているのは、僕たち自身の意思であると?」
「うん、そう」

マスターが手袋姿で頷くような仕草をしてみせた。再び一同は黙り込む。己の存在意義を根幹から覆すようなことを言われたのだ。そうすぐに納得せよというのも無理な話だ。

「うーん、別にボクは気にならないけどな!」

…というのもあくまで普通の場合の話で、ここに集うは普通からかけ離れた集団である。
小さな星の戦士ことカービィは、何が楽しいのやらにこにこと笑いながら言った。

「結局、ボクたちがここに来て、みんなと出会えたのはマスターのおかげなことに変わりはないし。ボク、自分がコピーだとか言われても実感湧かないよ」
「それもそうね」

サムスが頷いた。

「元の世界にいたままだったら、こんな体験出来なかっただろうし…私たち、オリジナルよりラッキーかもね?」
「…君たち、私が思ってたよりだいぶタフね…」

マスターは呆れ半分、感心半分といった調子で呟いた。だってボクたちヒーローだもの、とカービィは胸を張ってみせた。

「ところで、今回の引っ越しはどうしてするんだ?わざわざ俺たちにそのことを話したってことは、何か関係があるのか」

とっくに先の衝撃から立ち直ったマリオが問う。そちらの方が先に告げられた事象よりも気になるようで、他の面々もざわざわと騒ぎ出した。
思ったよりもすんなり話が通りそうなので、マスターは内心胸を撫で下ろす気持ちで頷いた。

「そうだよ。以前にも話したけど、今の世界は運命付けがなされていない非常に不安定な世界なんだ。実は先日またバグが発生してね」

バグと聞いてマルスやガノンドロフ、リンクが眉を顰める。前回バグの襲撃に遭った時は、酷い状態に陥った。忘れようはずもない。

「もうあの世界は切り捨てて、もう少し管理しやすい世界に“引っ越し”しようという訳だ」
「それで“ノアの方舟”を?悪趣味だな」

フォックスが毒吐くも、マスターは気にする様子もなく続けた。

「ついでに、そっちの世界では、君たちのプログラムも少し書き換えようと思ってて」
『プログラム?』

プリンが体を傾ける。マスターが何故か誇らしげに答えた。

「そう、今までは君たちに限りなく“オリジナル”に近い状態で暮らしてもらおうと思ってた。つまり、コピーである自覚もなく、普通の生物として、ね」
「でも、それが立ち行かなくなったと?」

ゼルダがやや不安げな表情を浮かべるが、マスターはいいや、と軽い調子で言った。

「別に大きな問題はないんだけどね、色々と制限があるんだよ。例えば、生物の定義を引用してる君たちは、一度死んでしまったら、二度と戻ってこない」
「それ大した問題だよな」
「まぁ、だから平たく言えば、仮想空間で適用しているルールを、現実世界でも適用させたいなって話なんだ。そうする為には君たちが生物であると不都合で、君たちはそもそもオリジナルでないことから説明しなきゃならないって訳」

参ったね、と語尾に星でも付けそうな調子のマスターである。もはや深刻がる必要なしと開き直ったのだろう。
それじゃあ、とトランクを抱えていたリンクが声を上げる。全員の目が彼に集まった。

「次なる世界で、我々は何になるんですか?生物ではないのでしょう」
「そうそう。だから、君たちには人形(フィギュア)になってもらう」

フィギュア、と幾人かが呟く。如何に図太い彼らといえど、無機物めいた響きのあるその言葉に萎縮してしまったのだ。
さすがのマスターもそんな反応を見せた英雄を気遣ってか、少し慌てた様子で付け足した。

「あくまでそう呼ぶ、というだけの話でね。君たちには多分何の不都合もないよ。うん、ないない」

いい加減なマスターの言に納得しない様子のリンクだが、反対に子リンは「フィギュアって?」と食い付いた。
マスターが得意げに答える。

「生物は、その命が尽きると“死”が訪れるだろう?けれど、人形に訪れるのは死ではなくて、エネルギー切れだ」
「またエネルギーを入れれば生き返る?」
「そういうこと。便利だろう?」

マスターは本気でそう思っているようで、もし人の姿をしていれば瞳を輝かせるような嬉々とした調子で同意を求めた。ただし提案された方は倫理観やら何やら様々なものをへし折られた気分で素直にうんとは言えない。
つまり、彼らにとって命とは、入れ替え可能な電池のようなものになってしまうのだ。果たして軽々しく受け入れて良いものかと悩む面々だったが、それまで黙っていたガノンドロフが誰よりも早く悩むことを放棄した。

「つまり、これが我々コピーの宿命なのだな」

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