忘却の彼方に

*12

だがそのような内情は表に出さず、アタシはやや声のトーンを落として続けた。

「アンタは…命を狙われてる」

「…また?」

「もっと面白味のある反応したらどうだい」

あまりに淡白(というかまるで他人事のような)リンクの反応に少なからず呆れる。そう突っ込むとリンクは「今更驚くような内容じゃないし」と当たり前のように答えた。
十分驚くに値する内容だと思うのはアタシだけだろうか。

「そう言うからには犯人に心当たりがあるんだね?」

アタシのツッコミをよそに、リンクはずばずばと話を進める。変に勘がいい。全くどうしてこんなに可愛げのない子供になっちまったんだろうか。不思議だ。

「どうなの?」

リンクがアタシの答えを急かす。

「あぁ、そうだよ」

「それは誰?そいつの目的は一体何?今ハイラルの皆はどうしてるの?ガノンドロフとゼルダは――」

唐突にリンクが堰を切ったように喋り出した。あまりに急き込んで尋ねるものだから、アタシの方が驚いて閉口してしまった。

そして今更ながら気付いた。
リンクは命を狙われているという事実に驚きを示さなかったのではない――その驚きのベクトルは自分ではなく他人へ向いていたが――少なからず、あの子なりに動揺していたのだ。

「皆問題なく過ごしてるさ。アンタ以外はね」

リンクを落ち着かせる為に短く端的な言葉を返す。リンクが口を挟む隙を与えず、次の言葉を紡いだ。

「アンタの命を狙ってるってヤツは、何処の誰だか分かりゃしないし、目的もあまりはっきりしない」

「それじゃ…」

耐えきれずリンクが口を挟む。それをアタシは手を上げて制した。

「確かに現状は何も変わらない。だが、アンタは知っておく必要があるんだ。自分の置かれた状況が、如何に困難なものであるかを」

「友達に自分の存在を忘れられて、尚且つハイラルに戻りたくても戻れない状況にあることよりも困難なことってあるのかな?」

皮肉めいた笑みを見せるリンクを無視してアタシは続ける。

「推測の域を脱しないけど」

――リンクは物言いたげにアタシを見つめた。アタシはその視線すら無視した。

「アンタの記憶をハイラルから消したヤツは、ハイラルの王位を狙ってるかもしれないんだ」

アタシがこう告げると、珍しくリンクはぽかんと口を開けてしばらく何の反応も示さなかった。


今、ツインローバは何て言った?
僕の情報を消したヤツが、ハイラルの玉座を狙ってるって?
頭の中を整理する。
それはつまり――それが意味することは…。

「ゼルダがソイツと結婚するかもってこと!?」

「え?」

僕が思わず叫んだ一言にツインローバは唖然とした様子で声を上げた。
だってそうじゃないか!今のハイラルの王位を継承したいと思うなら、唯一王族の血をひくゼルダと結ばれるのが一番手っ取り早い。
ゆ…許せない。僕のゼルダに触れていい男などこの世にいない。いていいはずがない!!

「あー…まぁ、そんなとこだね。何だか驚くポイントがずれてる気がしないでもないけど」

ツインローバが呆れたように言った。心なしか面倒臭そうな受け答えになっているのは気のせいだろうか。
しかし、再び金の瞳に真剣な色を帯びてツインローバは僕を見つめた。

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