忘却の彼方に

*7

当てもなくただ道に沿って歩いていると、いつの間にか日が暮れていた。サルディアの首都からは遠く離れていることは確かだが、一体ここが何処なのか皆目検討も付かない。
どこか手頃な宿でも探そうかと思ったが、また誰かと関わることが怖くなった僕はそれを諦めた。脇道にそれて森の中で夜を明かせそうな場所を見つけた。

有り合わせの食材を即席で起こした焚火で調理し、つましい夕食を終える。暗い森の中で場違いに明るい焚火を見つめて、僕は食事の後の軽い満腹感に浸っていた。
ふと思考は飛躍し、かつての相棒のことを思い出す。時を超える旅を終えたとき、別れてしまった親友。そもそも自分は彼女を探してハイラルから離れ、タルミナに行き着いた。そしてハイラルに帰って来たら、皆が自分のことを忘れてしまっていて…。

バチでも当たったのかな。一度別れた友人の影を、いつまでも忘れられずに追い続けている己の弱さに。

それとも彼女なら、今の僕を励ましてくれるだろうか。いや、彼女なら――。

「ナビィなら、今の僕を叱るだろうな」

あまりに唐突な、しかし彼女と長い時間を過ごした僕には確信のある答えを、口に出して呟いた。当然だ。ナビィなら、いつも前向きに答えを導き出そうと努力する。だから味方の少ない7年後の世界でも、僕たちはやっていけたのだ。
しっかりしろ、冷静になれ――自身に喝を入れ、気力を奮い立たせる。もし、僕に関しての情報が意図的にハイラル中から抹消されたのなら、必ずそれには犯人がいて、目的があるはずだ。勿論何の目的があってそんなことをするのかは分からないが、そいつを探し出す価値はある。
待てよ。
僕は以前のガノンドロフとの戦いで、7年間眠り続けていた。つまりハイラルの地には存在していなかったのだ。もし犯人がいたとして、僕がその犯人を捜そうとすれば、きっとハイラル中を奔走することになる。僕がやたらとハイラルの歴史に干渉して良いものだろうか。もしかすると、魔王ガノンドロフを封印して平和を勝ち取った未来の世界も変わってしまうかもしれない。
未来の世界と現在の世界は、僕が時渡りをしたせいで完全に別々の歴史を刻んでいる。未来の世界では、魔王ガノンドロフを倒してゼルダがハイラルを再建しようと尽力する歴史が。一方現在の世界において、ガノンドロフはハイラル騎士団の一員として王宮に仕え、今やその腕を買われてインパと共にゼルダの身辺警護を務めているというまったく別な歴史展開になっている。
少しも繋がりを見せないような世界だが、どんな些細なことが大事に結びつくかは分からない。ここははやる気持を抑えて、時が経つのを待たねばなるまい。
7年経ったら、ハイラルに戻る。最低限ハイラルの歴史に干渉しなくなるまでの時間を空けなければならないのがひどくもどかしいが、これも致し方ない。
いくら僕の情報がハイラルから消えようが、ハイラルが存亡の危機に陥ることはない。勿論僕の情報を抹消した何者かが、ハイラルを狙っていないとも限らないが、何にしろ、今のハイラル城にはあのガノンドロフが居るのだ。たとえハイラルの軍隊を全軍けしかけてもあの男には敵わないだろう。それなら僕が急いで原因究明をする必要性もない。

…未来の世界で、よく僕はアイツに勝てたな…我ながら感心してしまう。

そう考えると自然と笑みがこぼれた。唐突に今までの暗い気分が吹き飛んで、新たな道筋が見えてきた気がする。

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