忘却の彼方に
*5
はキミと仲良くなるのが嫌なの。
でも優男は一向に僕のむっとした表情に気付かず、特大の笑顔を作る。
「俺の名前はユース。こんなんでも探偵をやっている。お前の名前は?」
「――……リ…ンク」
「ほぅ、リンクか!よろしくな」
ユースがその細い腕を差し出して握手を求める。でも僕は剣を鞘に収めるとユースに背を向けた。
でもユースは相変わらずにこにこしていてこう呟いた。
「ったく…リンクったら照れちゃって」
違うっつの。
呆れ果てながらも、僕はユースが歩き始めるとその後ろを小走りでついて行った。
「どうしてリンクはそんな物騒なもの持ってんだ?」
うつ向きながら歩く僕の頭にユースの呑気な声がかけられる。僕の隣でユースは何だかよく分からない文字が羅列している書類を広げ、さりげなくといった風に僕に話しかけた。
でも赤の他人であるユースに僕の生い立ちを語るつもりはない。僕はうつ向きながら聞こえないふりをした。
「…おい、リンクってば!」
「なんですか」
耳元で突然怒鳴られ、僕は驚いて言葉を返してしまった。
ユースは少し怒ったように僕に言った。
「お前なぁ、照れ屋なのも大概にしろよ。さっきから俺が話しかけてるだろ!こっちぐらい見たらどうだ」
「……」
だから照れ屋とかそういうのじゃないの!
でもユースはまったく聞く耳を持たなさそうだ。
仕方がないので必要最低限(あるいはそれ以下)のことだけをかいつまんで話す。
「僕がいたハイラルでは夜になると魔物が出ます…だから護身用にこの剣を」
僕がにこりともしないで説明しているのを、ユースは真面目に聞いていた。
「護身用、か」
しみじみとユースは呟いたが、僕は何も言わなかった。ただ何か思うことがあるのだろう、と考えるとこのままユースを無視し続けるのも難しかった。
「…ユースはなんであんなところにいたんですか?」
少しだけ警戒心を解いてユースに歩み寄る。ユースは軽く目を見開いたが、小さく笑うと僕の頭をくしゃっと撫でた。
「俺は探偵だからな。事件の在るところに俺がいる」
どこか不敵な笑みに誘われて思わず僕も顔を綻ばせる。それを見たユースは満足げに頷いた。
「子供はそうでなくっちゃな」
それからは僕たちは色んなことを話した。ユースの解き明かした難事件の数々。僕が体験した不思議な冒険の話。長いはずのサルディアまでの五日間の旅はあっという間に過ぎていった。ついにサルディアの隣町に到着し、僕たちは最後の宿をとることとなった。
「よし、リンク。今日は無礼講だ!好きなだけ飲んで食え!!」
「…そんなにユースはお金持ってました?」
「気にするな」
「気にしますよ!!」
笑いながら宿に入りとりあえず食堂に座る。僕が机に座って場所取りをしている間に、ユースが食べ物と飲み物を持って来てくれた。その中には明らかにお酒と思われる液体も入っていた。
「どんどん飲めよ」
「お酒は遠慮しときます」
たっぷりと赤い液体が注がれたグラスを脇におしやり、ユースが持って来た水を口に含む。ユースはまるで父親のように僕が水を飲むのを見ていた。
しばらくして僕はどうしようもない眠気に襲われた。確かにたくさん食べたし歩き疲れたのもあるのだろう。
「リンク。眠いのか?」
僕がうとうととしているとユースが話しかけてきた。僕は小さく頷く。
「じゃあもう寝るか!今日はお開きだな」
あっけらかんとユースは喋って、僕を担ぎ上げる。僕はユースに部屋まで運ばれるうちに夢の中に旅だってしまった。
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