表裏一体

*過去の話

暇、だった。
変わらない循環。私が創り、アイツが壊す。不満じゃないが、何か物足りない。
そんな時、彼らの存在を知った。数えきれない伝説を打ち立て、英雄と呼ばれるに至った彼らを。

単なる好奇心から、私は彼らの戦闘データを掻き集めて英雄のコピーを創った。勿論ただのコピーだ。盲目的に私に従い、感情はなく、限りなく物に近い。
初めは8人。そのあとにさらに4人。

私の暇つぶしの為だけに創られたその12人を、私はまとめてスマッシュブラザーズと呼ぶことにした。

スマッシュブラザーズには新しい世界を与えた。仮想空間の連続であるその世界で、彼らが終点までの道のりを乱闘しながらやって来るのを私は楽しんで眺めた。
終点まで来れた者は、私が直に相手をした。

この時まだ、彼らは私の暇つぶしの“玩具”でしかなかった。



それが変わったのは、破壊神が不安定な仮想空間の存在に気付き、スマッシュブラザーズの世界を壊しに来た時。勿論おいそれと所有物を壊されたくはない私は、破壊神に挑み、そして敗れた。

いつもそうだ。創る私は、壊す彼女に敵わない。

しかし破壊神は、すぐさま世界を壊すことが出来なかった。

「てやぁぁぁっ!!」

聞き慣れた掛け声と共に、見慣れた青年が破壊神に斬り掛る。彼の聖剣は狙い違わず破壊神の左肩を刺し貫いた。

私が創った勇者のコピー。彼は他の誰よりも多く終点に訪れていた。コピーしたオリジナルの彼が、そういう真面目な性格なのだろう。今日も例外なく終点を訪れた彼は、データにない存在のクレイジーを敵と見なし、攻撃したのだ。

クレイジーは忌々しそうに勇者を弾き飛ばす。大きく吹き飛ばされながら、受け身を取る彼を目で追っていた私はその目を疑った。
終点の入口には、コピーした英雄12人が集結していた。今まで4人程度がたまたま居合わせることはあっても、12人がそろうことなど一度もなかった。それが何故?彼らも世界の滅亡の危機を感じて、それを阻止すべくここへ来たと?
――あり得ない。
彼らには感情がない。消えようが消えまいが、彼らには一切がどうでもよい情報なのだ――。

では何故、彼らは全員が全員、破壊神だけを狙って攻撃を加えていくのだろうか。そのようなデータは与えた覚えはない。これは何だ?バグなのか?

そうこうしているうちに、一人、また一人と英雄のコピーたちが破壊神の手によって消されていく。電脳世界に溶けるように消えていく彼らの行く先を思って、私の心には小さな鈍痛が走った。

そして残った最後の一人。
案の定といえばそうだが、それは緑衣の勇者のコピー。

勿論彼が破壊神に敵うはずもない。彼はものの一分と経たないうちに、破壊神に破壊された。

彼が消える間際、いつでも仏頂面だった勇者は私の方を見てかすかに笑んだ。そして言った。

「また、お会いしましょう」

感情など、プログラムしていないはずだった。ましてや私は彼の声など掛け声以外に聞いたことがない。
それをあの英雄は――英雄たちは、あんな不完全な世界を守る為に己の存在を賭して戦い、あんな不完全な命を与えた私を慕っていたのだ。

目の前でスマッシュブラザーズの世界全てが跡形もなく消えた時、私は初めてそう気付いた。

そうして否応にも己の心の鈍痛が走るのを認めざるをえなかった。
私はその時既に、彼らをただの過ぎ行く者たちとは思うことが出来なくなっていた。



再び、会いたい。
今度はコピーではなく、生きた彼らに会いたい。
彼らが何を思い、何を考えるのか、見届けたい。

それは暇つぶしではなく、私の中に生まれた初めての“願い”。



「会いましょう」と言われた。
それは、約束だ。
既に約束を果たす「彼」は居ないが、私が約束を果たすべき者たちは存在している。



だから私は君たち英雄を何が何でも守り抜かねばなるまい。
この世界を維持しなければなるまい。

その為になら、どんな手でも使ってみせよう。
世界の摂理だって曲げてみせよう。



だから、どうか、私が過ごすこの世界で。
長く、長く、いつまでも、その勇姿を見せてはくれないだろうか。



fin.

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