表裏一体

*32

こうして無謀とも思える勇者の作戦は、魔王の協力を得て発動されることとなった。その時得られた二人の共通の了解は、仲間の誰にもこのことを悟られないようにすることである。
勿論それは、クレイジーに騙していることを悟られない為でもあるし、また仲間に悟られるような作戦ならそもそも神など騙し抜けないだろうという、いわば指標のような意味合いもあった。特にスマブラメンバーの中でも一番頭の回転の速いマルスは、勇者と魔王の中では擬似クレイジーとして位置付けされていた。

そういう訳で、リンクは何がなんでもマルスから今回の“隠し事”を隠し通そうとしていたのだ。当のマルスは一体何のことやら皆目見当も付かなかったようだが、ちゃっかり勇者と魔王に利用されていたのである。

しかしネスだけは、元々持っている能力のせいで――というかおかげで――リンクとガノンドロフの目論見を最初から見抜いていた。かといってそれを無闇に誰かに喋ることはせず、ただリンクたちが奔走する姿を黙って見守っていたが。

「じゃあネス君は、僕たちが不安や恐怖に押し潰されそうになっていたのを高笑いしながら見ていたわけだな」

リンクとガノンドロフの話を聞き終えて、最初に口を開いたマルスが不服そうにネスを睨む。ネスは同じくマルスを睨み付けながら返した。

「僕にだって僕なりの苦悩があったさ。…まぁ、王子限定で高笑いしながら見下してはいたけど」

「まぁまぁ…でも最後はネスとマルスがいなかったらあんなに上手くいきませんでしたよ?」

はんなりと笑むリンクが、今にも噛みつきそうなマルスとネスの仲裁に入る。それには不思議そうにサムスが声を上げた。

「最後は…って、何かしたの?」

「時間を稼いでくれたんです」

それにマルスはクレイジーに止めを刺してくれましたし、と付け加えてリンクは苦笑した。

「想像以上に破壊神の力が強大で、私たちの予想よりもだいぶ早く貴方たちが負けてしまったんですよね…私とガノンドロフは、最後にクレイジーを出し抜く為に離れたところにいた訳ですが」

「さすがの破壊神も死んだフリなど少し時間があれば見抜いてしまうだろうからな…それがバレる前に俺たちがお前らのところへ戻ろうと思っても、悲しくなるほど時間が足りなかった」

ガノンドロフも相槌を打つ。そこで幾人かは納得したように頷いた。

『だからネスはあの時、テレパシーで叫んだんだね。“王子以外は死んだフリをしろ”って』

ピカチュウがネスを見上げながら尋ねる。
あの時というのは、ネスがマルスを守る為にPKフラッシュを暴発させた瞬間のことである。あの時ネスは、かすれた声で何事かを叫んだのではなく、テレパシーを使って仲間の脳内に直接語りかけていたのだった。
そんな彼は、ピカチュウの問いかけに満足げに頷いた。

「仮想空間の中だから本来死ぬような攻撃を受けても死ぬことはないんだけど、ちょうどあの時クレイジーは皆が死んだと思い込んでたし、まぁ破壊神を出し抜くには頃合いかなと思ったからね」

およそ子供らしくない発言である。だがこの程度ではもはや屋敷の住人は誰一人として驚かない。

「それで僕には“少しでいいから時間を稼げ”と言ったのか」

ネスの言葉にマルスがしみじみと呟く。なおもマルスは懐かしむように続けた。

「あの時は意味が分からなかったが…あれで良かったかな、ネス君?」

マルスの問いにネスは小さく詰まる。一瞬何と言うか考えあぐねたようだが、最終的にネスは若干苛立だしげに吐き捨てるよう言った。

「本当はアンタなんかの力は借りたくなかったけど…あの時一番僕のやって欲しいことを察してくれそうだったのはアンタだったし、やっぱり王子は期待通りに動いてくれた」

「ふっ…困ってしまうな、頼られる男というのも」

「…マリオー、この人まだ頭の方が治療出来てないよ」

「すまんなネス、そればっかりは治療不可だ」

マルスが例によって自慢の蒼髪を掻き上げながら言うが、ネスとマリオは何処か遠くを眺めていた。そこを何とかリンクがフォローする。

「ま…まぁ、おかげで私はぴったりのタイミングで登場出来たんです。かねてからの計画通り、マスターソードを入口のところに置いておき、私は丸腰に近い状態でクレイジーに挑み、あっさりやられれました。よりクレイジーの勝利への確信を確固たるものにするために…そして、ガノンドロフがより確実に破壊神に止めを刺せるように」

そこで一旦リンクは言葉を切り、周囲のメンバーの表情を窺うように視線を泳がせた。そうして次の瞬間には床に膝を付いて頭を下げる――いわゆる土下座の姿勢を取った。

「本当に、すみませんでした!!…仲間である貴方たちをさんざん騙して…利用して…」

当の頭を下げられた方は、困惑した様子でお互いの顔を見合っている。確かにリンクが仲間を利用したことに間違いはないが、そこに至る彼の気持には一片の淀みもないのだ。誰であっても文句など言えようもない。

「…謝ることなんてないだろ?」

しばしの沈黙の後、そんな皆の気持を代弁するようにマルスが穏やかな声音で答える。リンクははっと顔を上げた。

「全て君が仲間を思う故の行動である訳だし、何より理解し、許し合うのが仲間というものだ。――そうだろう?」

「そうだぜ、むしろお前とガノンドロフの活躍には感謝しなきゃなんねぇしな」

『二人ともカッコ良かったでしゅ』

マルスが同意を求めてメンバーを振り返ると、フォックスやプリンをはじめ、皆口々にリンクとガノンドロフの行動を誉め称えた。ガノンドロフは無表情だったが、リンクは深く安堵したように息を吐き、再び頭を下げた。

「ありがとう…ございます」

勇者の謝罪と感謝の意を表する言葉を、メンバーは温かい笑みとともに聞いていたのだった。

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