表裏一体

*28

「…!」

長い耳をぴくりと揺らして、リンクは動きを止めた。そんなリンクの様子を見て、ガノンドロフも顔をしかめて剣を下ろす。

「あの破壊神…」

ガノンドロフは低く唸る。リンクも不安げに視線を泳がせるが、魔王はそれをめざとく見付けて言った。

「行け」

「…しかし」

「構わん」

勇者の反論を許さず、魔王はぴしゃりと言い放つ。勇者はしばしの沈黙の後、聖剣を片手に部屋を飛び出して行った。



「死んだかしら?」

クレイジーはまるで天気を確かめるような軽い調子で呟いた。そしてほど近い場所に倒れるマルスを足蹴にしてみる。マルスは為されるがままになっていたが、微かにうめき声を漏らした。

「…なかなかしぶといわね」

ほんのりと顔をしかめて、クレイジーは再びマルスに向けて魔法弾を放とうとする。が、振りかざした手をゆっくり下ろすと背後を振り返った。振り返った先には、息も絶え絶えなネスが、クレイジーに指先を真っ直ぐ向けて立っていた。

「王子から…離れろ…」

言って少年は光り輝く光弾を放つ。しゃがれた声で何事かを叫んだが、それはもはや声にならず誰にも聞き取れなかった。しかし少年の攻撃を易々とかわしてみせた破壊神は、すぐさま少年に駆け寄るとその首にがっと手をかけた。一瞬少年の瞳に恐怖の色が浮かぶ。

「アンタ、邪魔よ」

白く細い腕が、小さな少年の首を掴んでその体を持ち上げる。少年はじたばたと苦しそうにもがいた。

「苦しい?…今楽にしてあげるわぁ」

その様子を眺めながら破壊神は残虐な笑みを浮かべ、病的に白い腕に一層の力を込めた。ネスの動きが微かに弱る。
そこに突然鋭い一閃が入れられて、クレイジーはネスから手を離した。ネスはゲホゲホと咳き込みながら転がって逃げていく。彼女は銀の瞳を細めて一閃を放った人物を見据えた。その銀の視線を、蒼い双眸が見つめ返す。

「あの…悪魔同然の鬼っ子君は…楽にしてやる必要など…ない…」

「困った王子サマだわ…どこにそんな力が残っていたのかしら?」

肩で息をしながらマルスが剣を握り直す。その蒼い瞳の端で僅かにネスの姿を捉えると、安堵したように深く息を吐いた。

「めちゃくちゃ言うなよ、バカ王子…」

ネスが呆れたように反論するも、マルスはそれすら反応しきれないほど余裕がないようだった。マルスは呼吸を整えて再び口を開いた。

「ネス君、逃げれるかい?」

「無理」

「共倒れだな」

いつになく淡々と受け答えするマルスに、これまた即答してみせるネス。勿論その間クレイジーが待ってくれる訳もなく、狙いを変えた破壊神は真っ直ぐ王子に向かって駆けてくる。王子もなんとか応戦しようと剣を構えるが、すでに彼は限界を越えており、クレイジーと相対する前に膝から地に崩れ落ちていた。

「これで良かったかな、ネス君」

自嘲気味に意味深な言葉を呟く王子だが、クレイジーは構わず最大級の魔力を込めた拳を細身の王子に叩き込む。今度こそ王子は、床に倒れ伏して動かなくなった。

「…ぁ、ぁああああ…っ」

倒れ伏す王子を黒い瞳で認めて、ネスは悲痛な悲鳴を上げる。後退るようにしてクレイジーから遠ざかるも、もつれる足ではそれも叶わない。すぐさま瓦礫につまずいて仰向けに転んでしまった。

「いいわぁ、恐怖に慄き泣き叫ぶ姿。とっても惨めで無力なアンタたちにお似合いよ」

そんなネスを満面の黒い笑みをもって見下ろす破壊神。ゆっくり、ゆっくりとその手を振り被り、手の平に緑色の眩い光弾を溜める。そしてそれを、逃げ場のない少年に向かって放つのだった。

「うわああ…――!!」

甲高い悲鳴が静まり返った屋敷に響く。が、それもふつりと途切れ、後には完全な静寂が訪れた。

その静寂も、長くは続かなかった。がらんとした屋敷に金属と大理石のぶつかる音が大気を揺らす。音の主は白銀の長剣。その長剣の主は、茫然としてクレイジーと倒れた仲間を見つめている。目の前に広がる光景のあまりに大きな衝撃に自らの剣を取り落としたようである。
金髪碧眼の青年、時の勇者リンクが、壊された扉の横に立ち尽くしていた。

「…マルス?」

勇者は恐る恐る王子の名を呟く。返事はない。一歩彼らに歩み寄って、再度勇者は仲間の名を呼んだ。

「マルス…起きているんでしょう…?ネスも悪ふざけはよして下さいよ…ロイ…ピカチュウ…マリオ…ゼルダ…」

「無駄よ」

破壊神の冷めた声に勇者は振り返る。

「呼んだって答えなんかありゃしないわ」

勇者は口を開くも、言葉を失ったまま破壊神を見つめる。破壊神は厳かに続けた。

「だって、アタシがみんな殺したんだもの」

「――…殺…した…?」

勇者は壊れたようにクレイジーの言葉を繰り返す。しかし徐々に彼女の言葉の意味を理解し始めたのか、首を振りながら倒れるマルスの側にしゃがみ込んだ。そして動かないマルスの肩を掴んで揺らした。
何度も何度も、王子の耳元で名を呼ぶが、彼が返事を返すことはない。

ついに勇者は王子の名を呼ぶことを止めた。代わりに彼の口から漏れたのは、呪咀のような呟きであった。

「貴様…よくも…許さない…よくも…!」

立ち上がり様に矢を射掛ける。それを破壊神に頓着無さげに払われると、勇者は弓を脇へ投げ捨てた。そして今度は多量の爆弾を一斉に投げ付ける。凄まじい轟音と爆風が吹き荒ぶ中、勇者は跳躍してクレイジーがいた辺りに銀製のハンマーを振り下ろした。しかしその攻撃は大きく床を陥没させただけの結果に終わり、反対に隙だらけとなった勇者はいともあっさり破壊神に捕まってしまった。

「駄目駄目じゃなぁい?前会った時はもう少し出来る子かと思ったのに」

「黙れ!貴様だけは許さない…!皆を…皆を返せ!」

リンクが怒鳴る。刹那、彼は懐から隠し持っていた短刀を取り出して破壊神の心臓めがけてそれを深々と突き刺した。あまりに突然な動きだった為に破壊神も反応しきれずまともに短刀が彼女を襲う。

だが、直後響いた悲鳴は何故か彼女のものではなかった。

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