表裏一体

*27

ピンク球の視線を受けて、クレイジーは唖然とした様子で呟いた。

「…アタシの相手を、アンタが?」

「そう」

カービィは依然としてつぶらな瞳でクレイジーの銀の双眸を睨み付けている。唐突に破壊神の美麗な顔が歪んだ。かと思えば、その血色の悪い唇から聞くもおぞましい狂ったような笑い声が漏れた。広い屋敷にその残酷な笑い声が響き渡る。時々リンクとガノンドロフの剣がぶつかり合う音が遠くの方で聞こえた。

「ふざけんじゃないわよ!」

クレイジーが怒鳴る。カービィはびくっとして一歩後退った。

「このアタシの――この世界の破壊神たるアタシの相手を、アンタみたいな雑魚がするですって…?思い上がるのも大概にしなさいよ」

「そんなの関係ないよ!」

負けじとカービィは言い返す。破壊神が虚を突かれたようにピンク球を見つめ返すと、カービィは続けて言った。

「ボクはこの世界が大好きなんだ。みんなが大好きなんだよ!もっとみんなと一緒にいたい。みんなと一緒にいられるこの世界を壊されたくない。だから、戦うんだ。この世界を守る為なら、ボクは神様だって戦うよ!」

「カービィ…」

マスターが驚きを含んだ声音で呟いた。よもやこの屋敷の住人の誰もが、あそこまで多弁に語るカービィを見たことなどあるまい。しかしそんなことはクレイジーの知るところではない。クレイジーは凄まじい形相で小さなピンク球に襲いかかった。
カービィはそれを慌てて緊急回避で避けると、ハンマーを取り出して思い切り振り抜く。だがクレイジーはフルスイングされたハンマーを片手で受け止めると、残りの手に魔力を溜めてカービィに狙いを定めた。それに気付いたカービィはハンマーを置き去りにして後ろに飛び退る。
飛び退ったカービィと入れ替わるように、今度はマスターがクレイジーに攻撃を仕掛けた。クレイジーは指先から弾丸のようなものを発射させて、創造神を牽制し、二人から距離を取る。しかしそれも束の間のことで、すぐさまカービィに狙いを付けて駆け出すのだった。
マスターはクレイジーのその動きを見るや、慌ててカービィをかばうように破壊神の前に飛び出したが、破壊神は創造神の動きを見て口の端に邪悪な笑みを浮かべた。

「お馬鹿さんねェ、マスター。こんなお荷物かばったりするから、肝心のアンタは隙だらけよ?」

突如クレイジーは向きを変えてマスターに強烈な蹴りを見舞った。マスターはクレイジーの突然の方向転換に付いて行けず、まともに蹴りを食らって遥か後方に吹っ飛ばされる。その様子に気を取られて悲鳴を上げたカービィもまた、クレイジーの放つ衝撃波に勢いよく弾き飛ばされた。

「…く、カービィ!」

マスターが息を詰まらせながら叫ぶ。一方のカービィは吹っ飛ばされながらも何回転かして受け身を取った。そして再びクレイジーと対峙する。

「やったな!」

それだけ短く叫んでクレイジーに向かって駆け寄っていく。しかしクレイジーは邪魔そうに手を払って自分の回りに透明なバリアを張り、ぶつかってきたカービィを跳ね返した。そうして地面にぽにゃりと転んだカービィに、無慈悲な笑みを美麗な顔に貼り付け、止めを刺そうとしたその時。

「PKファイヤー!」

甲高い掛け声が聞こえるのと同時に、クレイジーの高く掲げた腕に火柱が上がる。クレイジーは微かに眉根を寄せて、腕の炎を振り払った。そして声の主を睨み付ける。

「また…アンタなの?」

「何度でも来るよ」

いつでもPSIを放てるように身構えたネスが、黒い笑みを湛えて佇んでいる。その後ろには遅れてやって来た屋敷の住人が思い思いの武器を掲げて一様にクレイジーを見据えている。
ネスは小さく後ろを振り返って蒼髪の青年に尋ねた。

「どうする、王子?戦闘では役に立たないんだから、せめて頭使って戦闘に貢献してよね」

「君はさっきの僕の鬼神の如き快進撃を見なかったようだね。いくら手負いであろうとも、僕の溢れ出る才能を隠すには至らないのだよ」

「何でもいいから質問に答えてくれない?」

「…卑怯だとは思うが、一斉にかかるしかないだろう。単体では僕らに勝目はない。…カービィはよく頑張ってくれたね」

「えへへ」

王子はいつの間にかネスの横まで来ていたカービィに労いの言葉を贈る。カービィは照れ臭そうに頭を掻いた。

「そういう訳だ、皆準備はいいか」

「何時でもいいわ」

「やってやろうじゃねぇか」

「ちゅー」

「じゃあ行くぞ!」

誰とはなしに、クレイジーに向かって駆け出す。ある者は飛び道具で、ある者は己の拳で、ある者は白銀の剣で、皆それぞれに破壊神に攻撃を浴びせていく。そのあまりの猛攻には、しばしクレイジーですら反撃の余地を挟めないように見えた。しかしクレイジーは相変わらず余裕めいた表情を崩さない。

「愚かね」

「何だと?」

クレイジーの張ったバリア越しに、彼女は呟く。マルスは神剣をバリアに食い込ませながら聞き返した。クレイジーは意味深な笑みを湛えて続ける。

「遅かれ早かれ、アンタたちはいつか滅ぶ。そんな当たり前な流れを拒絶して、何になると言うの?」

「永遠を生きる貴方には分かるまい。ただ、僕に関して言えば」

マルスは再びバリアに剣を叩き付けた。

「この世界を、ここの皆を、真理を拒絶してでも守りたいぐらい愛してしまったから…かな?」

眉目秀麗な王子が口の端を吊り上げる。だが破壊神は、王子を見つめて小馬鹿にしたような笑い声を再度漏らした。

「愚かね」

その言葉と同時に、クレイジーの殺気が膨れ上がる。クレイジーに向かって殺到していたスマブラのメンバーは、その変化を察知してなんとか破壊神との距離を取ろうとするも、刹那響いた叫び声と共に炸裂した光線は逃げ惑うメンバーを容赦なく貫いていった。

「我が破壊の力!!とくとその身で味わうがいいわ!!!」

悲鳴もなくその場に崩れていくメンバーたち。その部屋に立っているのがクレイジーだけになるまで、彼女の攻撃は止むことを知らなかった。

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