表裏一体

*24

英雄集う白亜の屋敷。丘の頂きにそびえるその建物からは、ほのかに甘い香りが漂ってくる。

「カービィ、まだ食べちゃ駄目ですよ。ピカチュウ、ババロアにケチャップは勘弁してください、私料理の自信無くしますから。ミュウツー!それは豆腐じゃありません、ババロアです!何度言えば分かるんですか、醤油はしまって下さい!」

台所からレモンティーをおぼんに乗せてやって来たリンクは、矢次早に屋敷の住人に注意を加えていく。最後は滑り込むようにミュウツーの手から醤油差しを取り上げると、一つため息を吐いた。屋敷の全住人がこの部屋に集まっている。そんな彼らに一瞥を投げ掛けた後、背後に立つ銀髪の男を振り返った。

「お時間おかけしました」

ぺこりと頭を下げ、リンクは手近な椅子に腰掛ける。銀髪はそれを確認すると、小さく頷いてから机に手を付いて喋り出した。

「知っての通り、我らの仲間ガノンドロフが、クレイジー側に寝返った」

集ったメンバーに気まずい沈黙が流れる。誰もがマスターから視線をそらし、特に同じ国の出身であるリンクとゼルダはうなだれた。その様子に目を留めて、マスターは気の毒そうに声を上げる。

「君たちが責任を感じることはない。誰のせいでもないのだから」

リンクが苦々しげに唇を噛む。自分のせいではないと言われても、彼の性格はやはりそれを許さないようだった。ピカチュウは心配そうに勇者を見上げた。

「だが、今重要なのは責任が何処にあるかではない。これからどうするかだ」

唐突にマルスが口を挟んだ。彼は意識が回復したばかりで、いまだ本調子ではない。それを表すように、彼の喋り口は普段の数倍弱々しかった。
その声を聞き、一同は事の重大さを再確認するのだった。

「マルスの言う通りだ。私の力が及ばないばかりに、もはやこの屋敷の結界はないに等しい。にも関わらず、破壊神と魔王が手を組んでしまったし、クレイジーはガノンドロフから私たちの能力についての情報を聞き出し、以前に増して強力な攻撃を仕掛けてくるだろう…――我々の置かれる状況は、苦しくなる一方なのだ」

マスターがマルスの言葉を受けて大きく頷いた。神妙な面持ちで現状を語る創造神は、一方で微塵の焦りも表情に表さなかった。

「そこでだな…少しこの屋敷を改造しようかと思うんだが」

神妙な面持ちだったかと思えば、唐突に悪戯っ子のような笑みを浮かべてメンバーに耳を貸すように手招きをして見せるマスター。訳も分からずマスターの側に寄るメンバーに創造神が小声で何事かを囁くと、マルスが突然声を荒げて怒り出した。

「君は…そんなことが出来るなら、最初からそうしていれば良かったじゃないか!!」

マスターの胸ぐらを掴んで、蒼の王子は彼を激しく揺らす。リンクとロイが「まぁまぁ」とか言いながらやる気なさそうにマルスを止めるが、まるで意味をなさなかった。怪我人なのにそんなに動いて大丈夫なのだろうか。

大丈夫でなかったようだ。

マルスは横腹を押さえて痛みに顔を歪ませた。

「いてて…一体僕が何の為に怪我をしたのか分からないだろう」

「すまんな、私も君が怪我した時にそう思ったよ」

「すまんなって…君という奴は…」

脱力したようにマルスが呟く。彼を笑いながら眺めていたマスターは、しかし唐突に真剣な表情に戻り声を低くした。

「だが結局我々の不利は変わらない。クレイジーはあれでも神だから不死身だし、向こうにはガノンドロフも付いている」

「その件なんですけど」

今まで黙っていたリンクが前に進み出た。皆の視線が一気に彼に集まる中、リンクは一瞬碧の瞳を泳がせて肩をすくめた。

「いや…別に大したことじゃないんです。ただ、ガノンドロフの相手を、私一人に任せて頂きたいなぁと思いまして」

「なぁんだ、そんなことか」

「びっくりしちゃったよ、もっと大変なことかと…って、十分“大したこと”だろがァァァ!!」

フォックスとファルコが顔を見合わせて笑った。その後、見事なタイミングでフォックスのノリ突っ込みが炸裂し、リンクは驚いた顔で少し後退った。

「相手はあのガノンドロフだろ!?お前一人で行くには少々荷が勝ち過ぎてるんじゃないか?」

「そんなことありませんよ!豚の一匹や二匹、コッコに比べればどうってことありません」

「豚ってお前…マスター!!この自信過剰な勇者に何とか言ってくれ!」

「うーん、いいんじゃない?」

「適当ォォォ!!」

フォックスの悲痛な叫びにも、へらへらと笑うマスターはまるで動じない。リンクまでもが真面目くさった表情でこう言った。

「考えてもみて下さい、破壊神と豚のどちらが強敵かと問われれば、破壊神と答えるに決まっているでしょう。我々としても極力豚に人員を割くことは避けたいはず。断る理由がありますか?」

「でも…本当にお前は大丈夫なのか?」

心配そうにフォックスがリンクを見つめる。

「さぁ…どうでしょう。せいぜい貴方がたが破壊神との戦いに集中出来るぐらいの足止めには、最低限なるつもりでいますが」

「お前…!」

再び声を荒くするフォックスを、リンクは手を上げて静止させる。それから勇者は珍しくにかっと笑うと、左手を握って見せながら答えた。

「私としてもあの男のすかした鼻面に一発お見舞いしないと、気が済まないんですよ。…単なるエゴイズムです」

私怨とも言いますがね、と勇者は晴れやかな笑みを貼り付けた顔で言う。
結局、困った勇者の我が侭は採用されることとなり、一抹の不安を残しながら彼らは来る戦いの日に向かうのだった。

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