表裏一体

*18

何だって?
彼は今、何と?

リンクは先のマルスの言葉を脳内で反芻した。身に覚えのない疑いなら、即座に反論も出来ただろう。
だが、生憎リンクにはそれと思い当たる節があり過ぎた。

「…マルス」

「どうせ僕に言う気などないのだろう?」

責めるでもなくただ淡々と続けるマルスに、リンクは困惑した様子で押し黙る。
だが、いかに罪悪感を感じようとも今回の件をマルスに――ひいては仲間に話す気はないのだ。リンクはそれを理解し、また忠実に守っていたから尚更だった。

「…まだ…言えません」

リンクが短く答える。マルスは納得した様子でなかったが、確認するように言った。

「では、いずれ言うつもりなんだな」

「はい」

小さく間が空く。クレイジーは興味深そうに二人を眺めていた。マルスは軽くため息を吐く。

「分かった…君を信じよう。でも今日は僕も一緒に戦わせてもらうからね」

「…頼りにしてます」

「やっと愉快な仲間割れが終わったようね」

クレイジーが笑みを浮かべて言う。剣を構え直したマルスは苦笑した。

「悪いね。この僕としたことが――女性を待たせるとは、紳士の風上にも置けない」

「そうよぉ、待たされた分、たっぷりお仕置きしちゃうんだから!」

最後の言葉と同時に、魔力を込めた破壊神の一撃がガノンドロフの部屋を真っ二つにした。ガノンドロフは微かに眉根をひそめたが、それも一瞬のことで、大きく跳躍してクレイジーに蹴りを入れる。
対するクレイジーはガノンドロフの強力な一撃を片手で受け止めると、いかにも軽々とその足を掴んでこちらに向かって来ていたリンクめがけて投げ飛ばした。勿論リンクはガノンドロフのような巨体を受け止められる力を持たないし、また持っていたとしてもそんなことをする気は欠片もないので、吹っ飛ばされたガノンドロフを鮮やかにスルー。それでも彼の動きはかなり制限された為、クレイジーにそれ以上の攻撃は許されなかった。
しかしクレイジーがリンクとガノンドロフに気を取られたその隙に、神速を誇るマルスの剣が破壊神に迫る。目で追うことすらままならぬその剣技は、徐々に、しかし確実に破壊神を後退させてゆく。当の破壊神は焦りの色を見せるかと思えば、そうでもない。ただただ狂気に満ちた笑みを浮かべて王子の強襲を甘受している。

一方で優勢なはずのマルスは焦燥感を感じずにはいられなかった。追い詰められてなお余裕めいたクレイジーの表情に悪寒すら覚える。
この嫌な予感の正体は何だ?一体何が僕をここまで焦らせている?
あの余裕めいた表情が、隠された破壊神の力を示唆しているから、僕がそれに恐怖し焦りを感じているというのか?
――しっかりしろ!
迷いがあれば、それは剣にも伝わる。自分を信じて、仲間を信じて、ただ一つの信念の元に剣を振るんだ!

マルスは自分にそう言い聞かせ、大きく神剣を振り被るとクレイジーに斬りかかった。しかし、その瞬間を待っていたとでも言うように、クレイジーは口角を吊り上げた。

「ちょっと手加減してあげたら調子に乗っちゃって…愚かだわ!人間ってヤツは!!」

マルスの攻撃を避けることもせず、破壊神はただその強大な魔力で剣撃もろともマルスを壁まで吹き飛ばす。マルスの細い体は勢いよく弾き飛ばされ、痛々しい音を立てて床に崩れ落ちた。
そんな仲間に安否を気遣う声も掛けず、勇者はぎりと引いた弓矢を放つ。魔力によって炎を纏ったそれを、クレイジーは軽く腕を払って軌道をそらせ、今度はリンクに狙いを定めて間合いを詰めた。リンクは飛び道具は無意味と悟ったか、弓をしまうと聖剣を片手にクレイジーに向かって駆け出した。
それを援護するようにガノンドロフの閃光弾がクレイジーを襲う。

クレイジーは面倒臭そうに一つ小さな舌打ちをすると、再び魔力を込めた拳で部屋の床を殴った。先の部屋を割った技とは異なるようで、クレイジーを中心に室内に強力な衝撃波が生まれ、リンクとガノンドロフはマルス同様壁際まで吹き飛ばされてしまう。

「が…っ」

短い悲鳴を上げて、リンクがその場に蹲る。どうやら地味に痛かったようだ。ガノンドロフもクレイジーを睨んではいるが、立ち上がる気配はない。
そこへとどめと言わんばかりにクレイジーが青白い閃光を炸裂させた。部屋が眩い光に包まれる。彼らの目には、しばらく白の世界以外何一つ映らなかった。

そんな彼らが白の世界から帰還した時、ガノンドロフの部屋であった空間は、見るも無惨な様子となり果てていた。恐らく全てを無に帰す破壊神の力が発揮されたのだろう。
しかし破壊神の表情は憮然として、ある一点を見つめている。しばらくの沈黙の後、彼女は苦々しげに口を開いた。

「アンタと会うのは何年振りかしら…――マスター」

「さぁね、次元を歪ませている私には時間などという概念はないよ」

シールドを展開させて、ガノンドロフとリンクとマルスの前に立っていたのは銀髪に金の瞳を持つ男――創造神マスターであった。
マスターは飄々とした声音で答えるが、その金の瞳には冷たく鋭い光のみが宿っている。その背を眺める三人は、創造神の発する異様な殺気に背筋に冷や汗が流れるのを感じた。

「まだ私の邪魔をする気かね?」

あくまで穏やかな声音は、刺すような鋭さを持って空気を裂き、皆の耳に届く。しかしクレイジーはまったく動揺の色も見せずに、猫撫で声でそれに答えた。

「勘違いするのもいい加減にして欲しいわ――邪魔してるのはアンタの方でしょう」

クレイジーは左手に魔力を溜めながら、マスターに一歩歩み寄る。

「生憎だが、私はそうは思っていない」

マスターも同様に右手に魔力を溜めながら、クレイジーに一歩歩み寄る。

刹那、二人は床を蹴ると急接近し、その膨大な力の込められた閃光弾を激突させた。

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