表裏一体

*16

「おい、リンク!何してる!」

フォックスがレイガンを構えながらリンクに怒鳴る。しかし、リンクは空いた手でゆるゆるとクレイジーの背後を指差した。

「どうしたの?期待のお仲間でも来たのかしら。でも残念。何人増えようと同じことよ」

クレイジーは再び笑みを深める。小馬鹿にしたようにリンクを一瞥すると、彼の指差した方向を振り返った。

すると。

「隙ありィィィっ!」

「え?」

唐突に地面を蹴った勇者は近距離からの零式(タメなし)回転斬りを放つ。クレイジーもフォックス始め仲間の皆も、リンクが何をしたのか一瞬理解出来ずに立ち尽くした。

「え…えぇぇぇッ!?ハッタリィィ!?」

いち早く状況理解に至ったフォックスが音速ツッコミを入れる。だが、ツッコミ属性でないゼルダは構わず便乗してディンの炎を発射。少し遅れてサムスのチャージショットが、そして最後にピカチュウの雷が唖然としたクレイジーに直撃した。ファルコンとフォックスは完全に出遅れた。

「敵に背中を見せるとは言語道断」

「かっこいいですわ、リンク」

リンクが大乱闘時のアピールをしながら決め台詞(的なもの)を言う。ゼルダはほんわかとリンクを褒め称えた。

「リンク…お前それは…」

フォックスが遠慮がちに言うものの、リンクは真面目くさった顔で「勝てば官軍」などと言ってみせる。一方のクレイジーも先の攻撃の衝撃から立ち直ると、「正義の味方じゃないの?」と呟いた。

「やはりこの程度では堪えませんか」

クレイジーが立ち上がったのを見て苦笑したリンクが再び剣を構える。なんとか視力の回復したロイとネスも同様に低く構えた。
クレイジーは服の埃をパンパンとはたくと、薄く笑ってみせた。

「なかなか良かったわ。でもアタシを倒すにはまだまだ…同じ手は通用しないわよ」

再び張り詰めた空気が廊下を満たす。皆の心に恐怖はなかったが、かといって勝利への確信もなかった。
全てのものが動きを止めた。時さえもが、歩みを止めたように辺りは静寂のみが佇む。

その静寂を最初に破ったのは、ピカチュウだった。

『ねぇ』

「どうした」

フォックスが声だけで応える。ピカチュウは言うか言うまいか悩む素振りを見せていたが、意を決したように続けた。

『逃げた方が良くない?』

「おいィィィ!!何言ってんのこの電気鼠?!」

「奇遇だな。僕も同じことを考えてた」

「ゼル…あれ?いつの間にシークに…ってかさっきの騙し打ちといい敵前逃亡ってどうなの!?」

フォックスとロイが悲痛なツッコミを入れる。しかしその二人以外は「なるほど」と深く納得している。しばらくクレイジーは唖然としてその様子を眺めていたが、やがて狂ったように笑い出した。

「ひゃははははッ、おかしいったらありゃしない!マスターの集めた英雄は、こんなにも腰抜な奴らの集まりだなんて!!」

「じゃあその腰抜に免じて見逃してくれないかなー…なんて言ってみたりして」

ネスが苦笑しながら言った。クレイジーも口の端を吊り上げてネスを見つめる。そして形の良い唇を歪ませて告げた。

「嫌、よ」

高く掲げた左手に眩い光を宿すクレイジーは、にやりと笑む。じりじりと後退するメンバーの中、リンクだけはその場で立ち止まっていた。

「おい、リンク。アレはヤバい!逃げた方がいい」

先の言葉とは180度違うことを言うフォックス。リンクは振り返らずに答えた。

「あちらもタダでは帰しちゃくれませんよ。――私が退路でなんとかしますので、皆さんを頼みます」

「お前…っ!」

「フォックス!」

反論しようとするフォックスをネスが止める。少年は一瞬リンクの背を見、再びフォックスに視線を戻すと続けて言った。

「リンクの言う通りにしよう。今ここで僕ら全員がやられたら、他の皆も危険なんだ」

「安心なさい。誰一人逃がしゃしないんだから」

クレイジーが銀の瞳を細めて言った。幾千の死線を越えてきた英雄と言えども、その狂気に満ちた表情からは目をそらしただろう。
それはこの屋敷の英雄とて例外でなく、立ちすくむ仲間にリンクは短く一言怒鳴った。

「早く!」

そうしてクレイジーに向かって駆け出す勇者。ロイ、フォックスたちもその動きにつられたように廊下を元来た方向へ折り返す。相変わらず笑みを絶やさないクレイジーは目一杯溜めた魔法弾をリンクめがけて投げ付けた。

が、リンクは何の思慮も作戦もなく破壊神に立ち向かった訳ではない。神の力が宿りし左手に、白銀の聖剣を握りしめる。すると聖剣は青白い光に包まれ、かと思えば次第にそれは赤みを帯びていった。
そうして目前に迫る魔法弾に物怖じすることもなく、剣に溜めた気合いを一閃と共に解き放つ。言わずと知れた勇者の必殺技――回転斬りである。

かつて魔王の邪悪を跳ね返したその技は、クレイジーの魔力をも白銀の刀身をもって斬り返した。しかし、魔法弾の発動者たるクレイジーには跳ね返された魔力など簡単に防御出来る。クレイジーは左手を軽く振って魔法弾を消滅させると、けたけたと笑って言った。

「何したって無駄よぉ!アンタ一人じゃアタシに傷一つ付けられない!!」

「やってみなければ分かりませんよッ!」

どさくさに紛れてクレイジーの目前まで迫っていた勇者は勢いよく破壊神に突っ込む。しかしそのあまりに直線的な攻撃は、目的の相手に当たらず空を斬る。そのままリンクは勢いに任せてクレイジーの遥か後方まで進んで止まった。
クレイジーはその場に止まったままリンクが向かってくるのを楽しそうに待ち構える。一方リンクは肩越しに破壊神の位置を確認すると、すぐ側に倒れていたマルスを担ぎ上げ、クレイジーから離れていった。
それこそ振り返りもせず一心に。

「あれ?」

一人廊下に残されたクレイジーは呟く。

「“やってみなければ分からない”って言ったくせに…もしかして、今…逃げた?」

答える者はいない。
が、破壊神が勇者に出し抜かれたことは確実だった。

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