表裏一体

*8

何故あんなことを言った?」

先を歩くリンクに向かって、マルスが尋ねる。その固い声に、リンクは立ち止まってマルスを振り返った。

「…すみません」

「怒っているんじゃないよ。ただ、子供の前であそこまで望みのないことを言う君が…珍しいと思って」

謝るリンクを制し、マルスが言った。リンクはしばし黙り込んだが、やがてぽつりと呟いた。

「神は――神の力は、絶対です」

「そうだろうね」

マルスが短く相槌を打つ。リンクは続けて吐き出すように言った。

「どんなに望んでも、どんなにあがいても、運命は変えられなかった。全ては既に決められていた…そう、神によって!」

もはやマルスがいることすら忘れているように、リンクは自らを呪が如く叫んだ。一方マルスは、激するリンクに驚きの表情を示しながらも穏やかな声音で再び問うた。

「君は…怒っていたのかい?」

「――違います」

幾分調子を下げて、リンクは答えた。しかし、マルスの問いに対する答えを口にする度、その調子はまたもや上がっていった。

「解ってもらいたかったんです。神とはいかなる存在かを。いかに理不尽なことすら、まかり通すその力を!それを私は嫌と言うほど知っているから…知らずに挑み、絶望する仲間を…見たくなかった…!」

最後は沈痛な面持ちで答えたリンクを、マルスは無表情に見つめた。かける言葉すら見つからないような表情のリンクに、なんと言うべきか考えあぐねていたのだ。
それでも王子は、痛いほどの沈黙を破ってみせた。

「神とは一体何なのだろうね」

答えはない。それには構わず、何処までも飄々とした調子でマルスは続けた。

「人はしばしば、理解の範疇を超えたものに出会うと、それを“神”と呼ぶ」

「しかしそれは本当の神では――」

リンクがマルスの言葉に反論しようと口を開くも、マルスは無視して腰に差したファルシオンを抜いた。それをリンクの目の前に突き出して、さらに言う。

「僕のこの剣は、神の力が宿るものだ」

きょとんとした風のリンクに、マルスは不敵に笑んでみせた。

「そして君の聖剣も、神の力が宿るものなのだろう?」

「…確かに…そうですが…」

「神とは、人智を超えた存在だ。それは動かし難い。だが、同じく人智を超えた力を有した人間が、全く敵わない相手だと決めつけてしまうのは――どうかと思うよ?」

「…それは…」

力なくリンクが呟く。しかしマルスはリンクが続きを喋ることを許さず、彼の金髪の上に自分の手を重ねるとくしゃくしゃと撫でた。

「考えたって仕方ない。駄目なときはその時だ…それに」

「…?」

「今、君は一人じゃない。君が一人じゃ出来なかったことも、僕が一緒なら出来るかもしれないだろう?」

「――はい」

「君は少々考え過ぎるところがある…スマッシュブラザーズの彼らが、強大過ぎる敵に恐怖し、絶望するような繊細な心を持ち合わせているように見えるかい?」

ため息を吐きながらマルスが言うと、遠慮がちにリンクが笑った。その様子を確認すると、マルスも僅かに蒼の瞳を細めた。

「身体は大人だが、君はまだ子供なんだ。全部が全部、背負い込む必要はない。…僕の前でぐらいは、子供らしく振る舞いたまえ」

しかしリンクはくすりと苦笑してみせると、肩をすくめた。不可解そうにマルスがリンクを見つめると、リンクはマルスを見上げるようにしながら答えた。

「困ったことに、子供らしさなんて何処かに忘れてきてしまいました。…今の私が、本当の私ですよ」

「リンク…」

「でも、マルスがそう言ってくれて良かった」

「――…僕は…」

「ありがとう」

一際明るい笑みをマルスに向け、気恥ずかしそうに頭を掻くと、リンクはくるりとマルスに背を向け先に歩き出した。残されたマルスは、しばし呆然とその場に立ち尽くした。

「…礼なんて…言わないでくれよ…」

やがてぽつりと形の良い唇から漏れたのは、低くかすれた声だった。



その日のうちに、クレイジー襲撃の報はマスターによって屋敷中の知るところとなった。同時にマルスの口からクレイジーの恐るべき力についての説明がなされ、皆一様に恐怖し、また強大な敵にみなぎる闘志を露にした。

「お前がそこまで言うんだから、クレイジーって奴が相当強い奴なんだってことは分かるけど…」

話を全て聞いてから、マルスの元へやってきたロイがソファに腰掛けながら言う。マルスはリンクと共に紅茶をすすっていた。

「だけど、何だって言うんだい?」

「なんか…クレイジーを撃退した決め手がお粥だったってのが…意外というか間抜けというか…」

「まぁ、そういうこともあるわけだ。場合によってはお粥だって、エルファイアー並の威力を持つということが今日実証されただけのこと」

「魔導士も形無しだな」

ロイがあっけらかんと笑ってみせる。マルスは紅茶を口に含んだ。そこへ唐突にリンクが口を挟む。

「でも油断は禁物ですよ。次はどんな手を使ってやって来るか分かりませんから」

「分かってらァ。その時はこのロイ様の封印の剣が火を噴くぜ!」

「君の場合、実際問題火を噴くから洒落にならないな」

「な…どういう意味だよッ、マルス!」

「そういう意味だ」

マルスとロイの掛け合いに、我知らずリンクも笑みをこぼす。しばらく笑った後、あ、と声を上げると、二人に向かってこう提案した。

「久々に朝の稽古でもしませんか。多分明日も晴れるでしょうから」

「おお!いいな、それ」

「ふむ…朝食の前に一汗流すのも悪くない」

マルスとロイの同意を得られ、リンクは喜々とした様子で続けた。

「じゃあ明日の朝、屋敷の裏の林に集合にしましょう。私、今から朝食の準備をマリオか誰かに頼んで来ます!」

言うが早いか、リンクは立ち上がるとマルスとロイの元から離れていった。唖然とした様子でロイはリンクを見やるが、マルスは一層笑みを深めると、また一口紅茶をすすった。

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